2024年03月02日

そう問われた三津はこくこくと頷いた。

そう問われた三津はこくこくと頷いた。桂がそんな事を気にしてたなんて思いもしなくて自然と顔がにやけてきた。


「出逢って間もない頃に戴きました。その簪見た時私の顔が浮かんだって。」


「そんな事さらっと言えるのが桂様なのよねぇ。」


サヤもアヤメも羨ましいと溜息をついたが,


「でも色んな女の人に言って慣れてるのね……って思ってしまう私がおります……。過去に嫉妬したってどうしようもないんですけどね……。」


三津はふふって自虐的に笑った。https://classic-blog.udn.com/79ce0388/180357285 https://freelancer.anime-voice.com/Entry/70/ https://ypxo2dzizobm.blog.fc2.com/blog-entry-81.html


「それ分かります……。私もきっと同じ事思います……。私だけやなくて他の人にも言ってるんでしょ?って。」


「あぁ……アヤメさんやっぱりお話通じると思ってました……。」


二人で手を取り合い共感し合った。
その様子を影からこっそり入江が見ていた。


『……すっかり溶け込んでる。』


逃げ出した小姓を捕まえに来たがここはもう好きにさせようと踵を返した。


「九一ここに居たか。三津は?」


藩邸内に居るとは分かっていても姿が見えないと不安で仕方ない。そんな顔で桂は辺りを見回した。


「女子同士話に花を咲かせてますよ。」


「あぁ。」


それなら良かったと桂は笑みを浮かべて台所へ踏み込んだ。


「あら噂をすれば。」


サヤの含みのある笑みを見て何の噂?と桂は首を傾げたが,三人は顔を見合わせると同じ様に笑って何でも無いと首を横に振った。「私との間に隠し事かい?まぁいいやゆっくり問い詰めてあげるよ。後で私の部屋に来なさい。」


「小五郎さんのお部屋って何処ですか?」


三津の純粋な質問にしばらく間をおいて桂は頬をかいて眉を八の字にして笑った。


「すまない。三津が前からここに居ると錯覚していた。そうだね何処か知らないね。」


三津は両手でにやける口元を押さえた。


「桂様,後でお茶をお持ちしますのでどうぞ三津さんをお部屋に案内して差し上げては?」


サヤは大人の対応が出来るが,アヤメは笑うまいとこちらも両手で口を塞いで堪えるも肩を震わせ目にはうっすら涙が浮かぶ。


『可愛い……桂様が可愛い……。三津さんとずっと一緒におられる感覚になってる桂様が可愛い……。』


と口にしたいのを我慢して両手で塞いで必死に飲み込んだ。


「……アヤメさん我慢せずに笑うといいよ。」


桂は怒らないからと声をかけるとアヤメは両手を外してすみませんと謝った。


「あの笑いたかったんじゃないんです。桂様が……ふふ……三津さんを想っておられる時の桂様が……可愛く見えまして……すみません……。」


不躾で申し訳ありませんと目を伏せたがにやける顔は隠しきれない。


「ごめんなさい私も小五郎さんが時々可愛いと思ってましたごめんなさい。」


三津にまで言われて桂は参ったなと困ったように笑う。


「君達の言う可愛いの定義がまるで分からないがとりあえず三津には聞きたい事があるから部屋まで来てもらおうか。」


三津は桂の自室へと連行された。
初めて入る藩邸の自室に三津は妙に緊張していた。


綺麗に整理された部屋は桂の性格を表してるかのようだった。ただ机の上には本と書状が山積みになっている。


桂の匂いのする部屋だけど二人で暮らす家とはまた違った匂いがして落ち着かない。
きょろきょろ忙しく動き回る目を見て桂は喉を鳴らして笑った。


「どうしたの?落ち着きないね。流石に藩邸内だから取って食べたりはしないよ?」


「当たり前です。」


三津は目を釣り上げて怒ったが桂はちょっとぐらいいいじゃないかと細い手首を掴んで引き寄せた。
頬をすり寄せ軽く唇で触れ,


「さっきの噂って何?言えない事?」


わざと耳元で囁いた。「いや……あの……別に言えない訳では無いですけど。」


女同士の秘密にしておきたいのが本音。


「言わない気?」


そっちがその気ならと桂は三津の耳たぶを甘噛みした。
三津は与えられた刺激が全身を駆け抜けるのを感じて体を反らしたが抱き締めてくる腕の力に身動ぎ出来ない。
  


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2024年01月30日

無茶をする桂を制止しきれなくて他

無茶をする桂を制止しきれなくて他の重役に叱責されたり,吉田の態度が悪いと何故か自分が怒鳴られたり,あぁしろこうしろと無理難題を押し付けられたり。


『あ,色々喋ってしまった…。』


桂や吉田に会った時に自分がこんな事言ってたと話すだろうか…。
上目で三津の様子を窺うと,


「伊藤さん大変なんやぁ…。吉田さんは誰に対してもそんなんなんや。」


桂さんが無茶するのは意外やわ。なんて言って笑っている。
第三者から聞く藩邸での様子は三津にとって新鮮で聞いていて楽しかった。


『この子他言しないな。』 https://www.evernote.com/shard/s514/sh/543e98ea-3ab4-122b-e4a3-6104217f3ec9/bBRV5P91yDNkfsK87lZxHLPQ-tmOyugcp_1IQhn_8nw3hjFUDzm_0s6E6g https://classic-blog.udn.com/3bebdbf2/180277094 https://classic-blog.udn.com/3bebdbf2/180277124


勘でそう思った。根拠はないが,妙な安心感を抱いた。
それからだ。三津と話すようになったのは。


今日は三津から返答をもらうように言伝てられている。帰りが遅くなっても咎められないと思ってついつい長居してしまった。


「そろそろ帰らないと怒られそうだな。あの今日は返事を…。難しいなら後日また伺いますが。」


後日と言ってくれた方がまた息抜きに来れるから有難いと思っていた。


「あ,えっとよろしくお願いしますとお伝え下さい。」


はにかみながらぺこりと頭を下げた。


『何がよろしくお願いしますなんだろうな。』


文の内容は知らないから,三津の返事から書かれてる事を想像するのだ。「分かりました,そう伝えますね。ではその文はいつも通りに…。」


最後にそれを言わなければならないのがいつも心苦しい。
文と言っても目立たない様に小さくちぎった紙切れに最小限の言葉を詰め込んでいる。


そんな紙でも二人のやり取りが知られない様に処分する約束になっている。


『愛しい人の手で書き記された文をきっと手元に残して置きたいだろうに。』


素直に"分かりました"と言うけれど,三津の目が悲しげに笑うから伊藤も少し心が痛む。


『嬉しそうに読む姿を桂さんに見せてあげたい。
吉田さんが見れば静かに怒り狂うかな。』


静かに怒り狂う姿を想像して身を震わせながら帰って行った。







夕餉の仕度をする時に三津は釜戸の火の中に文を放り込む。
ぱちぱちと音を立てながら燃えていくのをしゃがみ込んで見届ける。


『さて…どうしようかな…。』


火を見つめながら唸り声を上げた。
トキに頼み込まなければならない事が出来たのだけど三津にとっては厄介な事案なのだ。


『腹を括ろう…。』


三人で夕餉を囲みながら,三津はいつ切り出そうか考えていた。
ちらちらと功助とトキの様子を窺っていると,


「言いたい事あるなら言いなさい。」


トキにじろりと睨まれた。


「お…おぉ…。」


これはもう今言うしかない。三津は箸を置くと膳から少し離れて大きく深呼吸をした。


「あの…おし…おし…おしば…。」


「はっきり言わんかい!」


怒鳴られて三津の体はビクッと跳ね上がった。


「はひっ!お芝居を観に行きたいのでそれなりの格好にしてくださいぃ!!」


体を折り曲げ畳に額を押しつけた。いわゆる土下座である。
しばらくそのまま動けずに声がかかるのを待ったが,しーん…と静まり返ってしまったままだ。


「あのぉ…。」


恐る恐る顔を上げてみるとぽかんと口を開けた二人と目が合った。


「あのぉ…。」


「あの色男か!」


トキが興奮気味に三津に詰め寄ると両肩を掴んで前後に激しく揺さぶった。


「そ…うで…。」


「でかした!」


トキは三津が言い切る前にこれでもかと抱き締めた。と言うより締め上げた。トキが喜んでくれるのは嬉しい事だが同時に不安でもある。
はりきり過ぎはしないかと。


『でも…着飾ったら褒めてくれるかなぁ…。』


似合わないと笑われたらどうしよう。一緒に歩くのが恥ずかしいなんて思われないか不安ばかり渦巻くけど,


『あ,やっとあの簪使える!』


あれを挿していればきっと彼は喜んでくれるはず。
桂の微笑む顔が鮮明に浮かんで,三津は顔を赤らめてにやけた。










「桂さんはまだ戻られてないか…。」


早く返事を伝えてどんな反応を示すか見たかったのに。


「最近よく桂さんの為に働いてるんだね。」
  


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2024年01月29日

間抜け。その一言に尽きる。

間抜け。その一言に尽きる。


『この場を和ます為にわざとそんな顔にしてるのか?』


いや,違う。元からだ。この顔を見れば土方は危機感が足りないと拳を脳天に突き刺したに違いない。


『副長も沖田もこの顔が見たいだろうよ。』


何だかんだで来て良かったと頭の中に二人の悔しがる顔を思い浮かべて優越感に浸った。


「賑やかやと思ったら!」


みんなの声を聞き付けた功助が顔を出し新年の挨拶を交わした。https://mathewanderson.blog-mmo.com/Entry/10/ https://ypxo2dzizobm.blog.fc2.com/blog-entry-77.html https://johnsmith786.mystrikingly.com/blog/4d22f346e46


「寒かったでしょう。どうぞ上がっていってください。」


火鉢にあたってお茶をと促されたが斎藤は首を横に振った。特に予定は無かったのだけれど,戻らねばならないとだけ告げた。


『ここの家は温かい。』


このまま好意に甘え続けたら余計に名残惜しくなる。


「もし何かありましたらお力になれるように努めますので。」


出来ることはそれぐらい。していい事もそれぐらい。斎藤が家を出るとそのまま三津もついてきた。


「そこまで一緒に!」


「馬鹿か,何の為に家まで送ったと思ってる。」


ついてくるなと冷たくあしらった。ここで突き放さないと未練がましくなってしまう。


『分かってはいたがそんな顔をされてはなぁ…。』


しゅんとして眉を垂れ下げた三津。ちょっとそこまでなら…。なんて甘い考えが浮かんだがそれを押し込めた。冗談でも"連れて帰るぞ"とは言えなかった。


「……また来る。」


ほんの少し三津の頭に手を被せてから功助とトキに一礼して家を出た。


「斎藤また遊びに来るかな?」


「来るよ。武士に二言はないもん。」


三津はほんの少し寂しさを抱きながら,次来たら遊んでもらうと笑った宗太郎の頭を撫でた。






「つまらん…。」


「そう言うな,屋敷内で自由に出来るだけでも有り難いと思え。」


むすっとした表情で壁に寄り掛かる吉田を久坂がなだめる。
未だに謹慎を言い渡されたまま,1日を藩邸内で過ごすこの窮屈さ。苛立ちは日に日に増す。


「この前抜け出して会ってきたばかりだろ…。」


「あれは去年だよ?もう年明けたんだよ?今年はまだ会えてない。」


『もうと言うかまだ年明けたばっかだろうが…。』


ここまで来ると苛々を通り越して呆れ返る。久坂がどうしたもんかと溜め息をついた所に別の部屋から怒声が響いた。


「そんな報告などいらん!!!」


「あ,九一帰って来た。」


さっきまでの不機嫌はどこへやら。吉田は口角を上げてスッと立ち上がった。


『やれやれ…。』


吉田に合わせて久坂も立ち上がり怒声が聞こえた部屋へ向かった。
声の主は乃美,その脇には桂,怒声を正面から浴びたのは入江だった。


「しかし報告する事はその程度しか。」


「毎日毎日店番,子供の子守り,店番,子守り,店番,子守り…。もっと有益な情報はないのか!!」


バンバンと激しく畳を叩く乃美を入江は涼しげな目で眺めていた。


『ある訳がない,それが三津の行動範囲だ。だから迷子になるんだよ。』


帰り道が分からないと半べそかいたあの顔を今でも思い出せる。桂は思わず吹き出した。


「何が可笑しい!!」


「いえ…。」


「やはり連れて来い!事の真相を吐かせろ!!」


「だから土方の女でも間者でもないんだから三津からは何も聞き出せないですよ。」


障子を開いて吉田はずかずかと部屋に踏み込んだ。
それが更に乃美の苛立ちを煽る。


「ただの甘味屋の娘を拐って暴行を加えて,それが長州の仕業と知れたら?うちの評判ががた落ちですよ。
九一,アイツを見張ってる間我々の悪評を聞いたか?」


「いや…。」


「だろう。それに三津が何もなかったかのように暮らしてるのならそれが答えだ。彼女は敵ではない。」


長州贔屓の味方でも無いことはこの際伏せておこう。


「稔麿の言う通りですよ乃美さん。彼女は誰に何を聞かれても覚えてないとしか言っていない。行動範囲もとても狭く,新選組と密通してる様子もない。」
  


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2024年01月20日

でも,怪我の処置だけでも正しいやり方を教え

でも,怪我の処置だけでも正しいやり方を教えていただけませんか?」


無理を言ってるのは百も承知。
だから弱気な情けない顔になる。
だけど思いは真剣だから,真っすぐユキの目を見つめた。


「いいよ。私の浅い知識で良ければ。」


三津の目が歓喜に満ちる。
嬉しくて何とも言い表せない感情がじわりじわりと込み上げて来る。


「お昼過ぎた時間なら私も手が空くの。 https://www.liveinternet.ru/users/freelance12/post503144850// http://janessa.e-monsite.com/blog/--100.html https://www.evernote.com/shard/s729/sh/a8768a51-1957-2be7-3d20-de3414811ea7/zqvX5p5E7SaAmbNZMwl3TF9p5-bpE9p5goqBMQpVXHcGMAysMmacuBuAyA
だからその位に来てくれたら教えてあげる。」


「ありがとうございます!」


ここに来た目的を果たせて満足げに笑みを浮かべた。
早速明日から教えてもらうと約束した。


「待ってるわ。優しい旦那様も待合いでお待ちかねやで。」


「旦那様?………あ。」


嬉々としていた三津はすっかり忘れていた。
一人で来たんじゃなかった。
ついでに言うなら運び込まれたんだった。
待合いに出ると,斎藤はいた。


「付きっきりやなんて優しい旦那様やね。」


いやいや違いますと三津が否定するより先に,


「どうも家内がお世話になりました。」


何食わぬ顔で,斎藤は深々と頭を下げた。斎藤のさも当たり前かのような振る舞いに,三津はぽかんだ。


「帰るぞ,三津。」


「え?ちょっと待って下さいよ!」


名前で呼んで,肩を抱いて,端から見れば親密な仲の二人。
ユキの羨望の眼差しに見送られ,診療所を後にした。


「斎藤さん!斎藤さん!
一体何なんですか?家内ってどういうつもりです?」


袖を引っ張って分かるように説明をと詰め寄る。


「俺が旦那じゃ不満か。」


斎藤は足を止めて顎を持ち上げた。
肩を抱いたままで,密着する体。
加えて呼吸を感じるほどに寄せた顔。


三津は体中の血液が沸き立つぐらいの体温の上昇を感じた。


「不満って訳じゃ…。」


「ならば問題ない。」


ぱっと体を離し,斎藤は前を歩き出した。


「いや,色々問題やと思いますよ!?」


だけど斎藤はそれ以上は何も語らず,二人は微妙な距離と空気のまま歩き続けた。









屯所に近付いた時,斎藤は三津の頭に手拭いを巻き付けて顔を隠した。
それから肩に手を回して引き寄せた。


「なるべく下を向け。一気に部屋まで行くぞ。ついて来れないなら担ぐからな。」


脅すように囁かれて,頷くので精一杯。


一呼吸置いた斎藤は三津が思うよりも早足で屯所に入った。
門をくぐってすぐに三津の足はもつれてしまった。


その光景を目撃した隊士たちは斎藤が怪しい女を捕縛して来たんだと勘違い。
遠巻きに様子を窺った。


「斎藤さん!転ける!」


『あ,お三津ちゃんだ。』


声を聞いてすぐ怪しい奴じゃなかったと分かったが,それはそれで何故そんな姿?と首を捻った。


「担ぐぞ。」


「嫌や!」


――せめて抱き上げて。


――贅沢言うな。


目と目で攻防をしてる間に,目的地に到着。


「副長,失礼致します。」


最後は三津を脇に抱える形で土方の部屋に雪崩れ込んだ。


斎藤はすかさず後ろ手で障子を閉めると,すぐに礼儀正しく座した。
斎藤の傍らで畳で膝を擦りむいたと三津は不貞腐れる。


土方は頭から顔をすっぽり隠した手拭いに釘付けだった。


「何事だ?」


「…申し訳ございません。」


斎藤は溜め息混じりに呟いて,その手拭いに手をかけて三津の顔を晒した。


一瞬で土方の表情は引きつった。辛うじて冷静さは保っているように見せるが,苛立ちで胡座を掻いた膝を揺らす。
  


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2024年01月20日

「そう言う訳じゃ…。」

「そう言う訳じゃ…。」


無いこともないけど,顔を赤らめてしどろもどろになってしまった。


「隠さんでもいいやん。」


隠したい相手なんです…。
とも言えず苦笑いで誤魔化しながら,かんざしをたえの目に入らない位置に隠した。


『でも,おたえさんには話してもいいかな…。』 https://lefuz.pixnet.net/blog/post/132865060 http://janessa.e-monsite.com/blog/--99.html https://www.evernote.com/shard/s729/sh/86c7d206-b627-118b-5053-bf3b4f4d2494/2yHnEcRTxdv3QhQ26tVpcWRQXgBN0TygWrQP0ndb55baqRv2CWOt65mb4Q


「一緒に居られないから,これだけは肌身離さず持っていたいんです。
持ってるだけで想いが届く気がするんですよね。」


恥ずかしいからみんなには内緒にしてて下さいねと念押しした。


「そっか。それだけ大事にしてたら相手にも想いは通じてるはずやで。」


桂もそう思ってくれてるだろうか。
時々は自分の事を思い浮かべてくれているのかな。
自分だけを見つめる眼差しを思い出して,もじもじ指を動かした。


「あ!おたえさん,ここって誰の部屋ですか?
私どうやって帰って来たかも覚えてないんですけど…。」


これ以上顔がにやけないように話題を変えた。


「ここは斎藤さんのお部屋よ。帰りも斎藤さんが連れて帰ってくれはったんやで。」


「あ…そう言えば。」


何度か斎藤と話した気がするけど,何故そのまま斎藤の部屋にいるのかは謎。


『分かった,部屋で寝てたら仕事の邪魔になるから斎藤さんに押し付けたな…。土方さんめ…。』「それで斎藤さんは?」


自分が居るせいで部屋を追い出されてしまったんだと思うと申し訳なくて眉尻が下がる。


「今は外出してはるけど明け方までお三津ちゃんの看病してくれてはったんよ。」


『土方さんとエラい違い。
早く治して自分の部屋に帰ろ…。』


いや,今からの方がいい。
明け方まで起きていて出掛けたなら,帰って来る頃にはへとへとになってるかもしれない。


「私自分の部屋に戻ります。」


新しい寝間着を抱えて布団を抜け出そうとしたが,アカン!と一喝されてしまった。


「土方さんから言いつけられてるねんから。」


「だから私の部屋に…。」


「ダーメ!土方さんも心配してるんやから。」


斎藤に押し付けといて心配だなんて信じられるもんか。
三津はそんな事ないないと首を振って笑った。


「お三津ちゃんの部屋は遠くてすぐに駆け付けられないからアカンのやって。
体拭いてから着替えよっか。手拭い取って来るね。」


だからいい子で待ってなさいと母親の顔で部屋を後にした。


『でも土方さんの部屋には入れてくれへんのね。
良くなったら斎藤さんの小姓になろうかな。』


「こら三津!」


「ひゃっ!」


たえと入れ違いでやって来たのは土方。
ずかずか部屋に入って来るなり乱暴に頭を抑えられた。


『まさか斎藤さんの小姓になろうって思ったのが声に出てた?』


じろりと睨まれ畏縮していると片方の手が額に触れた。


「熱は下がったか…。」


その手は不機嫌そうな顔に似合わず,ふんわりと優しく触れた。


「お,お陰様で…。」


何だか拍子抜けだ。
拳骨が飛んで来てもおかしくないぐらいの顔してる癖に,心配したの言葉もかけない癖に,態度や醸し出す空気が優しいんだ。


『…心配してくれてはったんかな。』


たえの言う通り,本当はすっごく自分を心配してくれてたのかもしれない。
少しだけ,胸がキュンとなった。


『それにしても相変わらず分かり難い天の邪鬼だな。』


ぼーっと上目で見つめていると目が合った。


「何だよ,その物欲しそうな顔は。
大事に寝間着なんか抱えやがって。着替えさせて欲しいなら正直に言えってんだ。」


下心丸出しの目が胸元を覗き込んだ。


「そんな顔してません!」


こんな人にキュンとしてしまったのか…。
今のときめきを返せ…。「物欲しそうな顔ちゃいます!
土方さんが変に優しいから槍でも降るんちゃうかなって思った顔です!」


抱きかかえた寝間着で胸元を隠してムッと口を尖らせた。


『あ…しまった…。』


土方の目元がひくりと引きつった。これは雷と拳骨が落ちるのは確実。
病人だろうが怪我人だろうが容赦ないのがこの男。


土方の手が振り上げられたと同時にギュッと目を瞑った。


「そんだけ大声出るなら大丈夫か。」


振り上げられた手はポンポンと頭の上で弾んだ。
怒鳴られるかと思ったけど深く息を吐いただけだった。
  


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2023年12月29日

土方の横を歩いてないとどうなるか

土方の横を歩いてないとどうなるか,三津は薄々気付いていた。


『土方さんが私の歩く速さに気を遣うような神経持ってるとは思われへんな。』


土方は大股でずんずん先に進んで行く。
行き先を知らされてない三津は必死について歩く。


ついて行けなければ…… https://blog.udn.com/3bebdbf2/180033121 https://blog.udn.com/79ce0388/180037688 https://freelancer.anime-voice.com/Entry/61/


『迷子やん……。』


待ってって言っても待ってくれないだろうし,お前が遅いんだって言われるだけだろうな。
だから横を歩いて,歩く早さぐらいは合わせて欲しいのだ。


そう思った時土方が振り返った。
もしかして自分を気遣った言葉をかけてくれるのか?
期待に胸を膨らませるが,


「ちんたら歩くな。」


『やっぱり……。』


見事に睨まれた。結構必死に歩いてるのに。
そっちは袴だからいいけど,こっちは一歩踏み出したって大して前に進まないんだから。


町に入っても土方の歩く速度は変わらない。
すいすい人を避けながら先を急ぐ。


三津も土方が作る道を歩くのに上手く人を避けられない。
何度もぶつかりそうになり,視線はいつの間にか行き交う人に取られてしまう。


すると余所見をしていた三津の体が強く引っ張られた。


「どこ見てんだ馬鹿。」


呆れ顔で見下されているけど,引き寄せられたのが土方の腕で三津はほっと笑みを浮かべた。


「何笑ってんだ。離れるんじゃねぇよ。」


『さっきはある程度離れて歩けって言ったやん……。』


むっとしたけど,土方が自分の羽織の裾,本当に端っこなんだけど握れと言ってくれた。


「離すんじゃねぇぞ。」


素っ気ない態度の中に土方の優しさを見つけた。
すぐに前を向いてしまった土方を,三津はにこにこしながら眺めた。


やがて三津の見慣れた景色が目に映る。そして土方が向かう先に見えた看板に三津は顔をひきつらせた。


「土方さんが用があるのって……。」


恐る恐るその店を指で差してみた。


「ああそうだ。何だてめぇも来たかったのか?呉服屋。」



土方の目的地はあの弥一がいる中山呉服店。
三津は滅相もないとぶるぶる首を横に振った。


『土方さんとあの店を訪れるなんて気まず過ぎる!』


三津は顔面蒼白。暑くもないのに汗が噴き出す。
何とか危機を回避したい。


「私には敷居が高過ぎて入れません!ここで大人しく待ってますから!」


不自然なぐらいの笑みを浮かべて一歩二歩と後ずさった。「居なくなってたら置いて帰るからな。」


冷たい目でされた忠告に大きく頷いて,呉服屋に吸い込まれて行く土方を見送った。


まさか土方が弥一の店の客だったとは。
予想外の出来事だけど,何とか危機は脱した。
少し離れた位置で,ぼんやり主が戻って来るのを待つことにした。


『実は土方さんって身嗜みには気を遣ってはるねんよな。』


自分とは大違いだなんて自嘲して笑ったその目の前に,ぽとりと手拭いが落ちた。


「あ,落としましたよ?」


すかさず拾い上げて落とし主の後を追った。
声に気付いてないのか,自分じゃないと思っているのか。
落とした男は振り向いてもくれない。


「あの!」


より一層声を張り上げると,ようやく振り向いてもらえた。


「これ落としましたよ。」


安堵の笑みで手拭いを差し出せば,男は三津の手首を掴んだ。


「ちょっと…!」


手を引こうとしても難なく引き戻される。


「黙ってついて来てもらおうか。あんたが土方の女だってのは分かってんだ。」


気が付けば,見知らぬ男たち六人ほどに取り囲まれていた。


「は?」


今何とおっしゃいましたか?
三津は自分の耳を疑った。


「あの,人違いです。」


女中にはなったけど土方の女になった覚えはない。


「土方と一緒だったろ。こっちはずっと見てたんだ。」


それはここに来る間だけでしょ。
話しの通じる相手じゃないと分かった三津は,手首を掴む男のすねを思い切り蹴飛ばした。


「いってぇ!」


怯んだ男を突き飛ばし,三津は逃げ出した。


逃げ出したんだけど,早く歩けないんだから早く走れる訳もない。
男たちはすぐ背後まで迫っていた。


「だから人違いですぅ!」
  


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2023年12月29日

『俺はいい予感はしない…。』

『俺はいい予感はしない…。』


らんらんと輝く目から視線を背けた。


「屯所で試しましょう!
私が隠れるんで斎藤さんが探して下さい!」


「要するに隠れんぼか。」


何が楽しくてこの年齢でそんな事をしなきゃならないんだ。
しかも屯所で二人で隠れんぼなんて馬鹿げてると渋い顔をした。


「私が夕餉の支度に行くまででいいんです!探して下さいよぉ…。」 https://blog.udn.com/79ce0388/180192442 https://blog.udn.com/79ce0388/180193026 https://freelancer.anime-voice.com/Entry/66/


三津は屯所に着くまで駄々をこね続けたが,断ると突っぱねられた。
その素っ気なさときたら土方にも匹敵する。


「見つけて欲しかってんけどなぁ…。」


三津の寂しげな声に斎藤はちらっと目だけを動かして後ろを見た。


しょんぼり頭を垂れて小石を蹴りながらとぼとぼ歩いている。
物凄く哀愁を漂わせながら。






屯所の門の前で斎藤の足が止まった。
その三歩後ろで三津も止まる。


「斎藤さん?」


「俺は今から百数える。」


斎藤は振り返ってそう宣言した。
三津はきょとんとして首を傾げた。口も半開きになる。


「時間はお前が夕餉の支度に行くまで。それまでに見つけてやる。
もし見つけられなかったら…そうだな何か一つ望みを聞いてやろう。」


斎藤の口角が上がった。
こうなったらやってやろうじゃないか。
この斎藤一が女一人の気配が分からないなんて恥だ。


「絶対見つけて下さいね!」


三津は緩みきった表情を見せてから先に屯所の中に走って行った。


『隠れんぼで鬼に見つけろと言うのも初めてだな。
本当に変わった奴だ。』


無意識のうちに口元が緩む。
駆けて行く三津の背中を眺めながら百を数え始めた。


百数え終わった時,まんまと三津の思い通りになっている事に冷静に気付いたがもう遅い。三津の足音を聞きつけて土方が部屋から顔を出した。


「やけに静かだと思ったら出掛けてやがったか。茶淹れて来い,茶!」


「今忙しいんです!それに明日まで斎藤さんの小姓ですもん。」


三津は土方の鋭い視線を交わして斎藤の部屋に駆け込んだ。


『嬉しそうな顔しやがって…。町ぐらい俺だって連れてってやるのによ。』


土方はふんと鼻を鳴らして部屋の戸を締めた。


三津は土産の包みを置いて早速隠れる場所を探しに部屋を飛び出した。


それから少しして百数えた斎藤が部屋へ戻って来た。
机に置かれた包みを眺めながら羽織りを脱いだ。


そしてここへ戻って来てからの三津の足取りを頭に描きながら部屋を出た。


小柄な三津であればありとあらゆる隙間にも入り込める。
まずは屯所を一周して目につく隙間を覗き込んだ。


「いない…。」


縁側の下,物置の中,植え込みの後ろ。あっちこっちを見て回ってぼそりと呟いた。


次は手当たり次第に部屋の戸を開けて回った。
物音を立てずに次から次へと。

移動しては部屋の中をぐるりと見渡す斎藤に隊士たちは困惑の表情を浮かべた。


『…どこだ?屯所内なら俺の方が間取りも分かっている。
最近来たあいつよりも隅々まで把握していると言うのに。』


「あの斎藤先生?もしかしてお三津ちゃんをお探しですか?」


斎藤の不可解な行動を見るに見かねた隊士が声をかけた。


「何も言うな。」


三津を見たとか,どこに行ったかは聞きたくない。
聞いてしまえば意味がない。
隊士の言葉をはねのけて,音もなく廊下を歩いた。


それからも無言で屯所内を歩き回り,片っ端から人の部屋を覗いて回った。


そんな斎藤を誰もが不思議そうに眺め,そしてくすりと笑った。
自分が笑われているのも気付かないぐらいに斎藤は三津探しに没頭していた。


それでも三津を捜し当てられず,とうとう約束の時間が来てしまった。


『何故だ…。』


がっくりとうなだれた。
不逞浪士ならどこに隠れてようが見つけ出せるのに。


『ここで見つけられないなら町ではぐれたら二度と会う事は無さそうだな。』


斎藤はお手上げ状態で台所にやって来た。


「おたえさん,悪いがあいつが来たら俺の部屋に来るように伝えてもらえませんか?」


こうなれば三津に出向いてもらわなければ会える気がしない。
  


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2023年12月24日

三津は総司の姿を確認するとす

三津は総司の姿を確認するとすぐさま背中から抱きついた。


突然の三津の行動に総司の顔は赤く染まり硬直した。


「三津さん!?子供たちが見てますから!」


慌てふためく総司を子供たちが指を差して耳まで真っ赤と笑うが,三津は腕により一層力を込める。


「お願い!一緒に来て!」 https://blog.udn.com/79ce0388/180167542 https://blog.udn.com/79ce0388/180174956 https://freelancer.anime-voice.com/Entry/65/


切羽詰まったような目で懇願した。
ここで逃げられてはならない。


総司は全く事情が飲み込めなかったが三津の必死な様子に首を縦に振った。


「良かった…。こっちです!」


三津は安堵の笑みを浮かべてしっかりと総司の腕を掴み,目と鼻の先にある道場を目指す。


「あっ!さては土方さんの命令ですね!?」


総司は危険を察知してその場に踏みとどまった。


「逃がしません!土方さんめっちゃ怒ってるんやから!」


絶対逃がさないと総司の腰に腕を回してしがみついた。三津はこのまま一人で道場まで引きずるのは無理だと判断した。


『仕方ない,最終手段だ。』


「土方さぁーん!」


大きく息を吸ってこれでもかと叫んだ。


「げっ!」


これはまずいと狼狽していると,三津の声を聞きつけた土方が竹刀を片手に近づいて来るのが視界に入った。


『あぁもう最悪…。』


よりによってこんな姿を晒してしまうなんて。
案の定激怒しているはずの土方はにやにやしている。


「これじゃあお前も逃げられねぇわなぁ。」


土方は総司の頭を鷲掴みにして無理やり顔を突き合わせた。


「三津,でかしたぞ。褒美に今日は暇をやる。ゆっくり稽古を見ていきな。」


二人は土方によって道場まで連行された。


『私なんかがお邪魔していいんやろか…。』


三津は身を小さくしながらひょこひょこ道場の隅に移動した。


「お!お三津が来た!
いいとこ見せねぇとな。」


原田が大きく腕を回して張り切ると,他の隊士も俺も俺もと意気込んだ。


準備を整えた総司が合流した途端にその場の空気が一変する。


三津でさえそれを感じる事が出来た。
殺気や熱気が入り乱れる道場の隅で呆気に取られながら正座する。


『土方さん楽しそう…。』


隊士たちに檄を飛ばしながら叩きのめすその姿に嫌な汗が三津の背中を伝った。
自分はまだ優しくされてる方だと錯覚してしまう。


そして土方同様に隊士たちを打ちのめしていく総司へと視線を移した。


『沖田さんも強いんや。知らんかったな。』


初めて見る総司の姿に身震いした。


『この気迫で人を斬ってるんかな…。』


忘れてた訳じゃないが改めて彼らが剣客集団だと見せつけられて恐怖心が湧き上がる。


もし彼らが人を斬るのを目の当たりにした時,自分はどう思うのだろうか。


それが彼らの選んだ道だと受け入れられるだろうか。
考えているうちに何だか背中の傷が疼きだした。


『それにしても何で沖田さんは稽古が嫌いなんやろ?』


初めは不貞腐れた顔をしていたが,今では嬉々として竹刀を振っている。
楽しんでいるように見えなくもない。


『まぁ土方さん程ちゃうけど…。』


土方は立てなくなった隊士でも逃がしたりはしなかった。


『あれ,私への見せしめじゃないよね?
あぁやって根性叩き直すって事?』


三津は正座したまま小刻みに震えた。
この時間が早く終われと強く願う。長い稽古がやっと終わった。
打ちのめされた隊士たちにとってもだろうが,三津にとっても耐え難い時間になった。


『怖かった……。』


恐怖と足の痺れからしばし硬直。
すると総司が清々しい顔で三津の元へ駆け寄った。


あれだけ激しい稽古をしていたのにこの笑顔。


「お疲れ様です。
さっきまで稽古に行くの嫌がってた人とは別人ちゃいますよね?」
  


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2023年12月24日

ぺこりと頭を下げると,三津の手の

ぺこりと頭を下げると,三津の手の上に大きくて硬い手のひらが被さった。


「近藤勇と申す。歳にやられたな?」


手のひらのごつごつとした感触に驚いて上目で見れば,目尻を下げた顔は体に似合わず優しさが滲み出ている。


「悪く思わないでくれ。きっと照れ隠しだ,本当は来てくれた事が嬉しいんだ。」


内面も土方と対称的だと三津は分かり易く土方を一瞥してしまった。


「俺とは大違いとか思ってんじゃねぇぞ,https://android-app-development-s47036.timeblog.net/44753295/what-are-options-trading-call-and-put-options-explained https://dallasjufpa.newbigblog.com/13169634/what-are-options-trading-call-and-put-options-explained https://lorenzoas765.yomoblog.com/13425913/what-are-options-trading-call-and-put-options-explained おい。」


三津と思い切り目が合った土方は,分かり易いんだこの顔はとがら空きだった頬をつねり上げた。


「もうそんなに親しいのか。」


良きかな良きかなと頷く近藤に土方は若干むっとした表情を浮かべ,ふいっと顔を背けた。


「これから八木さんの所に挨拶に行く。邪魔したな。」


無愛想に背中を向け,再び三津を連れて歩く。


その背中を見て総司がぷっと吹き出した。


「本当に照れ隠しが下手な人ですね。
三津さんもとんでもない人に気に入られちゃいましたね。」


「歳が直々に見つけて来たんだ。余程気に入ったんだろう。」


近藤の嬉しそうな顔に総司の顔も綻ぶ。


『本当は私の方が先に出会ってたんですけどね。
近藤さんも嬉しそうだからまぁいいか。』


ただ暴力は見逃すまいと急いで二人の後を追いかけた。涙目の三津の首根っこを掴むとそのまま自分の前に引っ張り出した。


「こいつが三津だ。三津,うちの大将だ。」


三津は潤む目で自分を見下ろす大将を見上げた。


『土方さんより断然強そう。』


横目で土方と見比べた。
役者の様な顔つき,色白で華奢に見える体格の土方とは対称的。


『如何にも武士って顔してはる。』


醸し出す雰囲気も器の大きさを示してる気がした。


「三津です,よろしくお願いします。」大股で歩く土方について八木邸の門をくぐった時,ふいに足が止まった。

三津と総司もそれに合わせて立ち止まった。


「挨拶したらすぐ帰る。ここでの長居は無用だ。」


さっきよりも不機嫌そうな土方に三津は首を傾げた。


別に初めて伺う人の家で長居するつもりなんてないのに変なの。
不思議そうに見つめ返すと,舌打ちをされた。


『うわぁ,より機嫌悪くなってもた…。』


あれだけ渾身の一発を見舞っておいてまだ苛々してるのか。
充分発散しただろうに。


『どちらかと言うと私の方が喚き散らしたいのに…。』


と知らず知らずのうちに口がへの字になっていた。


「これから挨拶に行くってのに何て面だ。おら,笑え。」


俺の言う事は絶対だと両頬を摘み,無理やり口角を上げさせた。
その時ばかりは愉しそうな顔に見える。


『こんな顔をさせたのはあなたです…。』


とは口が裂けても言えない。


「長居が無用ならいちいち三津さんに触るの止めてもらえます?
さぁ早く挨拶しましょう!」


すかさず総司が土方の手を払いのけて二人の間に割って入った。


土方は舌打ちをするとより不機嫌な空気を醸し出して玄関の戸に手をかけた。


「今から挨拶するのにあの顔でいいの?」


三津がぼそりと総司に耳打ちすると,


「聞こえてるんだよ馬鹿!」


今度は思い切り平手で叩かれた。
さっき拳骨を落とした所を目掛けて。


「痛い…。」


目がしょんぼりしかけたが,土方の鋭い視線が突き刺さる。“笑え”と。








そんな三人を出迎えてくれたのは,人の良さを滲ませる笑顔の源之丞で,


「どうぞ上がってって下さい,お茶を用意しましょう。」


気さくに声をかけてくれた。
おまけに可愛いお嬢さんとお世辞までいただいた。


『新選組を受け入れるぐらいやから大らかな人なんやろなぁ。
ご家族もさぞ出来た方々なんやわ。』


頭の痛みは疼くけど,気分は悪くない。


初めましてと頭を下げてる隣で土方は源之丞の誘いを丁重に断った。


「こいつには早く仕事を覚えさせなくちゃならねぇもんで。
代わりに総司を置いていきます。子供たちの面倒でも見させて下さい。」
  


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2023年12月12日

その言葉に幾許かは落ち着きを取

その言葉に幾許かは落ち着きを取り戻したというものの、やり切れない気持ちに次々と襲われた。真っ白になるまで拳を握ると、顔を歪める。


「クソ、クソったれ……ッ!山崎ッ、医者はどうしたッ!」

「今急がせとりますッ。取り急ぎ自分が応急処置をやらせてもらいます!」


 慌ただしく道具を持った山崎が入ってくるのを背で察した土方は、頼むと項垂れた。



 廊下からそのやり取りを見ていた沖田は、ただ呆然と立ち尽くす。何よりも敬愛し、人生を賭けてでも着いていきたいと切望した相手が苦しんでいるのに何も出来ない。http://abrielle.unblog.fr/2023/12/12/%e6%a1%9c%e5%8f%b8%e9%83%8e%e3%81%af%e8%bf%91%e3%81%8f%e3%81%ab%e7%bd%ae%e3%81%84%e3%81%9f%e5%88%80%e3%81%b8%e6%89%8b%e3%82%92%e4%bc%b8%e3%81%b0%e3%81%97%e3%81%9f/ https://www.keepandshare.com/doc27/114542/ http://doris.manifo.com/blog 己では役に立てないのだという現実が何よりも辛かった。



 その時、目の端で原田がある隊士に詰め寄る姿を捉える。


「おい、襲われた場所は何処だ!大将をあんな目に合わされて、黙っていられるかッ」


 鼻息を荒くした彼は今にも飛び出して行きそうな勢いだった。今行ったところで既に居ないだろう。もし居たとすれば、それは罠だ──。止めなきゃ、と沖田が動くよりも先にその横を影が通る。


「──原田先生、今行くのは危険です。あっちも我々の動きを読んだ上での計画でしょう。一網打尽にする腹積もりやも知れません」


 それは桜司郎だった。昨夜自分に見せた女の顔とは違い、凛とした若武者の姿に心が揺れる。

 頭に血が上っている原田に近付こうとするなど、試衛館出の者でも躊躇われる行為だ。手負いの獣さながらに気性が荒い。


「それが何だってンだ!このまま指くわえて見ていろってェのか!?……いいか、これは奴らからの宣戦布告なんだ。勝負から逃げるのは、として恥じ入るべき行為だと思わねえのかよッ」


 原田は桜司郎の胸ぐらを掴んだ。今にも殴りかからんばかりの勢いである。

 だが、それでも怯む素振りすら見せずに、揺るぎないで見返した。


「──武士たるもの命の捨て所は主君のため、引いては志のためである。それを見誤るのは勇気にず!」


 ビリビリと肌をざわつかせるような低い声が廊下に響く。平常時ならばいざ知らず、徳川の威信を賭けた戦を前に命を危険に晒すことは不義と言えるだろう。

 その堂々たる姿を前に、原田は思わず息を呑んだ。後退りかけて、手を放す。


 そこへ柱の影から山口が現れた。


「…………榊の言う通りだ。原田さん、此処は引いてくれ。これ以上こちら側の被害を出せば、あちらの思う壷だ」


 その言葉に、原田は行き場のない思いをぶつけるように、柱を殴り付けては去っていく。 近藤が受けた銃創は見掛けよりも重いものだった。恐らくは二度と右腕で刀を振るうことは叶わないだろう──それが医師の見立てである。

 武士から刀を奪うことは死に等しい。ましてや近藤はその腕一つで此処までのし上がってきた人物なのだ。命が助かったことは喜ばしいが、苦労を知る誰もが涙を流して悲しんだ。


 しかし、当の本人は存外あっさりとしており、「左手があれば問題ない」と気丈に笑っている。



 見舞った桜司郎と山口は、悲愴な面持ちで冷たい廊下を歩いた。軒先から続く空はどんよりと曇っており、吹き付ける風が冷たい。直に一雨来るだろう。

 事件の仔細は、同行していた島田により明らかになった。近藤が馬を走らせた後、斬りこんで来たためにこちらの隊士に死者を出した。しかし、目当ての近藤が居ないと気付いた瞬間、直ぐに引き上げていったという。長引けばすぐに新撰組が駆け付け、劣勢になると分かっていたからだろう。
  


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