2023年12月29日
土方の横を歩いてないとどうなるか
土方の横を歩いてないとどうなるか,三津は薄々気付いていた。
『土方さんが私の歩く速さに気を遣うような神経持ってるとは思われへんな。』
土方は大股でずんずん先に進んで行く。
行き先を知らされてない三津は必死について歩く。
ついて行けなければ…… https://blog.udn.com/3bebdbf2/180033121 https://blog.udn.com/79ce0388/180037688 https://freelancer.anime-voice.com/Entry/61/
『迷子やん……。』
待ってって言っても待ってくれないだろうし,お前が遅いんだって言われるだけだろうな。
だから横を歩いて,歩く早さぐらいは合わせて欲しいのだ。
そう思った時土方が振り返った。
もしかして自分を気遣った言葉をかけてくれるのか?
期待に胸を膨らませるが,
「ちんたら歩くな。」
『やっぱり……。』
見事に睨まれた。結構必死に歩いてるのに。
そっちは袴だからいいけど,こっちは一歩踏み出したって大して前に進まないんだから。
町に入っても土方の歩く速度は変わらない。
すいすい人を避けながら先を急ぐ。
三津も土方が作る道を歩くのに上手く人を避けられない。
何度もぶつかりそうになり,視線はいつの間にか行き交う人に取られてしまう。
すると余所見をしていた三津の体が強く引っ張られた。
「どこ見てんだ馬鹿。」
呆れ顔で見下されているけど,引き寄せられたのが土方の腕で三津はほっと笑みを浮かべた。
「何笑ってんだ。離れるんじゃねぇよ。」
『さっきはある程度離れて歩けって言ったやん……。』
むっとしたけど,土方が自分の羽織の裾,本当に端っこなんだけど握れと言ってくれた。
「離すんじゃねぇぞ。」
素っ気ない態度の中に土方の優しさを見つけた。
すぐに前を向いてしまった土方を,三津はにこにこしながら眺めた。
やがて三津の見慣れた景色が目に映る。そして土方が向かう先に見えた看板に三津は顔をひきつらせた。
「土方さんが用があるのって……。」
恐る恐るその店を指で差してみた。
「ああそうだ。何だてめぇも来たかったのか?呉服屋。」
土方の目的地はあの弥一がいる中山呉服店。
三津は滅相もないとぶるぶる首を横に振った。
『土方さんとあの店を訪れるなんて気まず過ぎる!』
三津は顔面蒼白。暑くもないのに汗が噴き出す。
何とか危機を回避したい。
「私には敷居が高過ぎて入れません!ここで大人しく待ってますから!」
不自然なぐらいの笑みを浮かべて一歩二歩と後ずさった。「居なくなってたら置いて帰るからな。」
冷たい目でされた忠告に大きく頷いて,呉服屋に吸い込まれて行く土方を見送った。
まさか土方が弥一の店の客だったとは。
予想外の出来事だけど,何とか危機は脱した。
少し離れた位置で,ぼんやり主が戻って来るのを待つことにした。
『実は土方さんって身嗜みには気を遣ってはるねんよな。』
自分とは大違いだなんて自嘲して笑ったその目の前に,ぽとりと手拭いが落ちた。
「あ,落としましたよ?」
すかさず拾い上げて落とし主の後を追った。
声に気付いてないのか,自分じゃないと思っているのか。
落とした男は振り向いてもくれない。
「あの!」
より一層声を張り上げると,ようやく振り向いてもらえた。
「これ落としましたよ。」
安堵の笑みで手拭いを差し出せば,男は三津の手首を掴んだ。
「ちょっと…!」
手を引こうとしても難なく引き戻される。
「黙ってついて来てもらおうか。あんたが土方の女だってのは分かってんだ。」
気が付けば,見知らぬ男たち六人ほどに取り囲まれていた。
「は?」
今何とおっしゃいましたか?
三津は自分の耳を疑った。
「あの,人違いです。」
女中にはなったけど土方の女になった覚えはない。
「土方と一緒だったろ。こっちはずっと見てたんだ。」
それはここに来る間だけでしょ。
話しの通じる相手じゃないと分かった三津は,手首を掴む男のすねを思い切り蹴飛ばした。
「いってぇ!」
怯んだ男を突き飛ばし,三津は逃げ出した。
逃げ出したんだけど,早く歩けないんだから早く走れる訳もない。
男たちはすぐ背後まで迫っていた。
「だから人違いですぅ!」
『土方さんが私の歩く速さに気を遣うような神経持ってるとは思われへんな。』
土方は大股でずんずん先に進んで行く。
行き先を知らされてない三津は必死について歩く。
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『迷子やん……。』
待ってって言っても待ってくれないだろうし,お前が遅いんだって言われるだけだろうな。
だから横を歩いて,歩く早さぐらいは合わせて欲しいのだ。
そう思った時土方が振り返った。
もしかして自分を気遣った言葉をかけてくれるのか?
期待に胸を膨らませるが,
「ちんたら歩くな。」
『やっぱり……。』
見事に睨まれた。結構必死に歩いてるのに。
そっちは袴だからいいけど,こっちは一歩踏み出したって大して前に進まないんだから。
町に入っても土方の歩く速度は変わらない。
すいすい人を避けながら先を急ぐ。
三津も土方が作る道を歩くのに上手く人を避けられない。
何度もぶつかりそうになり,視線はいつの間にか行き交う人に取られてしまう。
すると余所見をしていた三津の体が強く引っ張られた。
「どこ見てんだ馬鹿。」
呆れ顔で見下されているけど,引き寄せられたのが土方の腕で三津はほっと笑みを浮かべた。
「何笑ってんだ。離れるんじゃねぇよ。」
『さっきはある程度離れて歩けって言ったやん……。』
むっとしたけど,土方が自分の羽織の裾,本当に端っこなんだけど握れと言ってくれた。
「離すんじゃねぇぞ。」
素っ気ない態度の中に土方の優しさを見つけた。
すぐに前を向いてしまった土方を,三津はにこにこしながら眺めた。
やがて三津の見慣れた景色が目に映る。そして土方が向かう先に見えた看板に三津は顔をひきつらせた。
「土方さんが用があるのって……。」
恐る恐るその店を指で差してみた。
「ああそうだ。何だてめぇも来たかったのか?呉服屋。」
土方の目的地はあの弥一がいる中山呉服店。
三津は滅相もないとぶるぶる首を横に振った。
『土方さんとあの店を訪れるなんて気まず過ぎる!』
三津は顔面蒼白。暑くもないのに汗が噴き出す。
何とか危機を回避したい。
「私には敷居が高過ぎて入れません!ここで大人しく待ってますから!」
不自然なぐらいの笑みを浮かべて一歩二歩と後ずさった。「居なくなってたら置いて帰るからな。」
冷たい目でされた忠告に大きく頷いて,呉服屋に吸い込まれて行く土方を見送った。
まさか土方が弥一の店の客だったとは。
予想外の出来事だけど,何とか危機は脱した。
少し離れた位置で,ぼんやり主が戻って来るのを待つことにした。
『実は土方さんって身嗜みには気を遣ってはるねんよな。』
自分とは大違いだなんて自嘲して笑ったその目の前に,ぽとりと手拭いが落ちた。
「あ,落としましたよ?」
すかさず拾い上げて落とし主の後を追った。
声に気付いてないのか,自分じゃないと思っているのか。
落とした男は振り向いてもくれない。
「あの!」
より一層声を張り上げると,ようやく振り向いてもらえた。
「これ落としましたよ。」
安堵の笑みで手拭いを差し出せば,男は三津の手首を掴んだ。
「ちょっと…!」
手を引こうとしても難なく引き戻される。
「黙ってついて来てもらおうか。あんたが土方の女だってのは分かってんだ。」
気が付けば,見知らぬ男たち六人ほどに取り囲まれていた。
「は?」
今何とおっしゃいましたか?
三津は自分の耳を疑った。
「あの,人違いです。」
女中にはなったけど土方の女になった覚えはない。
「土方と一緒だったろ。こっちはずっと見てたんだ。」
それはここに来る間だけでしょ。
話しの通じる相手じゃないと分かった三津は,手首を掴む男のすねを思い切り蹴飛ばした。
「いってぇ!」
怯んだ男を突き飛ばし,三津は逃げ出した。
逃げ出したんだけど,早く歩けないんだから早く走れる訳もない。
男たちはすぐ背後まで迫っていた。
「だから人違いですぅ!」
Posted by beckywong at
19:34
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2023年12月29日
『俺はいい予感はしない…。』
『俺はいい予感はしない…。』
らんらんと輝く目から視線を背けた。
「屯所で試しましょう!
私が隠れるんで斎藤さんが探して下さい!」
「要するに隠れんぼか。」
何が楽しくてこの年齢でそんな事をしなきゃならないんだ。
しかも屯所で二人で隠れんぼなんて馬鹿げてると渋い顔をした。
「私が夕餉の支度に行くまででいいんです!探して下さいよぉ…。」 https://blog.udn.com/79ce0388/180192442 https://blog.udn.com/79ce0388/180193026 https://freelancer.anime-voice.com/Entry/66/
三津は屯所に着くまで駄々をこね続けたが,断ると突っぱねられた。
その素っ気なさときたら土方にも匹敵する。
「見つけて欲しかってんけどなぁ…。」
三津の寂しげな声に斎藤はちらっと目だけを動かして後ろを見た。
しょんぼり頭を垂れて小石を蹴りながらとぼとぼ歩いている。
物凄く哀愁を漂わせながら。
屯所の門の前で斎藤の足が止まった。
その三歩後ろで三津も止まる。
「斎藤さん?」
「俺は今から百数える。」
斎藤は振り返ってそう宣言した。
三津はきょとんとして首を傾げた。口も半開きになる。
「時間はお前が夕餉の支度に行くまで。それまでに見つけてやる。
もし見つけられなかったら…そうだな何か一つ望みを聞いてやろう。」
斎藤の口角が上がった。
こうなったらやってやろうじゃないか。
この斎藤一が女一人の気配が分からないなんて恥だ。
「絶対見つけて下さいね!」
三津は緩みきった表情を見せてから先に屯所の中に走って行った。
『隠れんぼで鬼に見つけろと言うのも初めてだな。
本当に変わった奴だ。』
無意識のうちに口元が緩む。
駆けて行く三津の背中を眺めながら百を数え始めた。
百数え終わった時,まんまと三津の思い通りになっている事に冷静に気付いたがもう遅い。三津の足音を聞きつけて土方が部屋から顔を出した。
「やけに静かだと思ったら出掛けてやがったか。茶淹れて来い,茶!」
「今忙しいんです!それに明日まで斎藤さんの小姓ですもん。」
三津は土方の鋭い視線を交わして斎藤の部屋に駆け込んだ。
『嬉しそうな顔しやがって…。町ぐらい俺だって連れてってやるのによ。』
土方はふんと鼻を鳴らして部屋の戸を締めた。
三津は土産の包みを置いて早速隠れる場所を探しに部屋を飛び出した。
それから少しして百数えた斎藤が部屋へ戻って来た。
机に置かれた包みを眺めながら羽織りを脱いだ。
そしてここへ戻って来てからの三津の足取りを頭に描きながら部屋を出た。
小柄な三津であればありとあらゆる隙間にも入り込める。
まずは屯所を一周して目につく隙間を覗き込んだ。
「いない…。」
縁側の下,物置の中,植え込みの後ろ。あっちこっちを見て回ってぼそりと呟いた。
次は手当たり次第に部屋の戸を開けて回った。
物音を立てずに次から次へと。
移動しては部屋の中をぐるりと見渡す斎藤に隊士たちは困惑の表情を浮かべた。
『…どこだ?屯所内なら俺の方が間取りも分かっている。
最近来たあいつよりも隅々まで把握していると言うのに。』
「あの斎藤先生?もしかしてお三津ちゃんをお探しですか?」
斎藤の不可解な行動を見るに見かねた隊士が声をかけた。
「何も言うな。」
三津を見たとか,どこに行ったかは聞きたくない。
聞いてしまえば意味がない。
隊士の言葉をはねのけて,音もなく廊下を歩いた。
それからも無言で屯所内を歩き回り,片っ端から人の部屋を覗いて回った。
そんな斎藤を誰もが不思議そうに眺め,そしてくすりと笑った。
自分が笑われているのも気付かないぐらいに斎藤は三津探しに没頭していた。
それでも三津を捜し当てられず,とうとう約束の時間が来てしまった。
『何故だ…。』
がっくりとうなだれた。
不逞浪士ならどこに隠れてようが見つけ出せるのに。
『ここで見つけられないなら町ではぐれたら二度と会う事は無さそうだな。』
斎藤はお手上げ状態で台所にやって来た。
「おたえさん,悪いがあいつが来たら俺の部屋に来るように伝えてもらえませんか?」
こうなれば三津に出向いてもらわなければ会える気がしない。
らんらんと輝く目から視線を背けた。
「屯所で試しましょう!
私が隠れるんで斎藤さんが探して下さい!」
「要するに隠れんぼか。」
何が楽しくてこの年齢でそんな事をしなきゃならないんだ。
しかも屯所で二人で隠れんぼなんて馬鹿げてると渋い顔をした。
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三津は屯所に着くまで駄々をこね続けたが,断ると突っぱねられた。
その素っ気なさときたら土方にも匹敵する。
「見つけて欲しかってんけどなぁ…。」
三津の寂しげな声に斎藤はちらっと目だけを動かして後ろを見た。
しょんぼり頭を垂れて小石を蹴りながらとぼとぼ歩いている。
物凄く哀愁を漂わせながら。
屯所の門の前で斎藤の足が止まった。
その三歩後ろで三津も止まる。
「斎藤さん?」
「俺は今から百数える。」
斎藤は振り返ってそう宣言した。
三津はきょとんとして首を傾げた。口も半開きになる。
「時間はお前が夕餉の支度に行くまで。それまでに見つけてやる。
もし見つけられなかったら…そうだな何か一つ望みを聞いてやろう。」
斎藤の口角が上がった。
こうなったらやってやろうじゃないか。
この斎藤一が女一人の気配が分からないなんて恥だ。
「絶対見つけて下さいね!」
三津は緩みきった表情を見せてから先に屯所の中に走って行った。
『隠れんぼで鬼に見つけろと言うのも初めてだな。
本当に変わった奴だ。』
無意識のうちに口元が緩む。
駆けて行く三津の背中を眺めながら百を数え始めた。
百数え終わった時,まんまと三津の思い通りになっている事に冷静に気付いたがもう遅い。三津の足音を聞きつけて土方が部屋から顔を出した。
「やけに静かだと思ったら出掛けてやがったか。茶淹れて来い,茶!」
「今忙しいんです!それに明日まで斎藤さんの小姓ですもん。」
三津は土方の鋭い視線を交わして斎藤の部屋に駆け込んだ。
『嬉しそうな顔しやがって…。町ぐらい俺だって連れてってやるのによ。』
土方はふんと鼻を鳴らして部屋の戸を締めた。
三津は土産の包みを置いて早速隠れる場所を探しに部屋を飛び出した。
それから少しして百数えた斎藤が部屋へ戻って来た。
机に置かれた包みを眺めながら羽織りを脱いだ。
そしてここへ戻って来てからの三津の足取りを頭に描きながら部屋を出た。
小柄な三津であればありとあらゆる隙間にも入り込める。
まずは屯所を一周して目につく隙間を覗き込んだ。
「いない…。」
縁側の下,物置の中,植え込みの後ろ。あっちこっちを見て回ってぼそりと呟いた。
次は手当たり次第に部屋の戸を開けて回った。
物音を立てずに次から次へと。
移動しては部屋の中をぐるりと見渡す斎藤に隊士たちは困惑の表情を浮かべた。
『…どこだ?屯所内なら俺の方が間取りも分かっている。
最近来たあいつよりも隅々まで把握していると言うのに。』
「あの斎藤先生?もしかしてお三津ちゃんをお探しですか?」
斎藤の不可解な行動を見るに見かねた隊士が声をかけた。
「何も言うな。」
三津を見たとか,どこに行ったかは聞きたくない。
聞いてしまえば意味がない。
隊士の言葉をはねのけて,音もなく廊下を歩いた。
それからも無言で屯所内を歩き回り,片っ端から人の部屋を覗いて回った。
そんな斎藤を誰もが不思議そうに眺め,そしてくすりと笑った。
自分が笑われているのも気付かないぐらいに斎藤は三津探しに没頭していた。
それでも三津を捜し当てられず,とうとう約束の時間が来てしまった。
『何故だ…。』
がっくりとうなだれた。
不逞浪士ならどこに隠れてようが見つけ出せるのに。
『ここで見つけられないなら町ではぐれたら二度と会う事は無さそうだな。』
斎藤はお手上げ状態で台所にやって来た。
「おたえさん,悪いがあいつが来たら俺の部屋に来るように伝えてもらえませんか?」
こうなれば三津に出向いてもらわなければ会える気がしない。
Posted by beckywong at
19:13
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2023年12月24日
三津は総司の姿を確認するとす
三津は総司の姿を確認するとすぐさま背中から抱きついた。
突然の三津の行動に総司の顔は赤く染まり硬直した。
「三津さん!?子供たちが見てますから!」
慌てふためく総司を子供たちが指を差して耳まで真っ赤と笑うが,三津は腕により一層力を込める。
「お願い!一緒に来て!」 https://blog.udn.com/79ce0388/180167542 https://blog.udn.com/79ce0388/180174956 https://freelancer.anime-voice.com/Entry/65/
切羽詰まったような目で懇願した。
ここで逃げられてはならない。
総司は全く事情が飲み込めなかったが三津の必死な様子に首を縦に振った。
「良かった…。こっちです!」
三津は安堵の笑みを浮かべてしっかりと総司の腕を掴み,目と鼻の先にある道場を目指す。
「あっ!さては土方さんの命令ですね!?」
総司は危険を察知してその場に踏みとどまった。
「逃がしません!土方さんめっちゃ怒ってるんやから!」
絶対逃がさないと総司の腰に腕を回してしがみついた。三津はこのまま一人で道場まで引きずるのは無理だと判断した。
『仕方ない,最終手段だ。』
「土方さぁーん!」
大きく息を吸ってこれでもかと叫んだ。
「げっ!」
これはまずいと狼狽していると,三津の声を聞きつけた土方が竹刀を片手に近づいて来るのが視界に入った。
『あぁもう最悪…。』
よりによってこんな姿を晒してしまうなんて。
案の定激怒しているはずの土方はにやにやしている。
「これじゃあお前も逃げられねぇわなぁ。」
土方は総司の頭を鷲掴みにして無理やり顔を突き合わせた。
「三津,でかしたぞ。褒美に今日は暇をやる。ゆっくり稽古を見ていきな。」
二人は土方によって道場まで連行された。
『私なんかがお邪魔していいんやろか…。』
三津は身を小さくしながらひょこひょこ道場の隅に移動した。
「お!お三津が来た!
いいとこ見せねぇとな。」
原田が大きく腕を回して張り切ると,他の隊士も俺も俺もと意気込んだ。
準備を整えた総司が合流した途端にその場の空気が一変する。
三津でさえそれを感じる事が出来た。
殺気や熱気が入り乱れる道場の隅で呆気に取られながら正座する。
『土方さん楽しそう…。』
隊士たちに檄を飛ばしながら叩きのめすその姿に嫌な汗が三津の背中を伝った。
自分はまだ優しくされてる方だと錯覚してしまう。
そして土方同様に隊士たちを打ちのめしていく総司へと視線を移した。
『沖田さんも強いんや。知らんかったな。』
初めて見る総司の姿に身震いした。
『この気迫で人を斬ってるんかな…。』
忘れてた訳じゃないが改めて彼らが剣客集団だと見せつけられて恐怖心が湧き上がる。
もし彼らが人を斬るのを目の当たりにした時,自分はどう思うのだろうか。
それが彼らの選んだ道だと受け入れられるだろうか。
考えているうちに何だか背中の傷が疼きだした。
『それにしても何で沖田さんは稽古が嫌いなんやろ?』
初めは不貞腐れた顔をしていたが,今では嬉々として竹刀を振っている。
楽しんでいるように見えなくもない。
『まぁ土方さん程ちゃうけど…。』
土方は立てなくなった隊士でも逃がしたりはしなかった。
『あれ,私への見せしめじゃないよね?
あぁやって根性叩き直すって事?』
三津は正座したまま小刻みに震えた。
この時間が早く終われと強く願う。長い稽古がやっと終わった。
打ちのめされた隊士たちにとってもだろうが,三津にとっても耐え難い時間になった。
『怖かった……。』
恐怖と足の痺れからしばし硬直。
すると総司が清々しい顔で三津の元へ駆け寄った。
あれだけ激しい稽古をしていたのにこの笑顔。
「お疲れ様です。
さっきまで稽古に行くの嫌がってた人とは別人ちゃいますよね?」
突然の三津の行動に総司の顔は赤く染まり硬直した。
「三津さん!?子供たちが見てますから!」
慌てふためく総司を子供たちが指を差して耳まで真っ赤と笑うが,三津は腕により一層力を込める。
「お願い!一緒に来て!」 https://blog.udn.com/79ce0388/180167542 https://blog.udn.com/79ce0388/180174956 https://freelancer.anime-voice.com/Entry/65/
切羽詰まったような目で懇願した。
ここで逃げられてはならない。
総司は全く事情が飲み込めなかったが三津の必死な様子に首を縦に振った。
「良かった…。こっちです!」
三津は安堵の笑みを浮かべてしっかりと総司の腕を掴み,目と鼻の先にある道場を目指す。
「あっ!さては土方さんの命令ですね!?」
総司は危険を察知してその場に踏みとどまった。
「逃がしません!土方さんめっちゃ怒ってるんやから!」
絶対逃がさないと総司の腰に腕を回してしがみついた。三津はこのまま一人で道場まで引きずるのは無理だと判断した。
『仕方ない,最終手段だ。』
「土方さぁーん!」
大きく息を吸ってこれでもかと叫んだ。
「げっ!」
これはまずいと狼狽していると,三津の声を聞きつけた土方が竹刀を片手に近づいて来るのが視界に入った。
『あぁもう最悪…。』
よりによってこんな姿を晒してしまうなんて。
案の定激怒しているはずの土方はにやにやしている。
「これじゃあお前も逃げられねぇわなぁ。」
土方は総司の頭を鷲掴みにして無理やり顔を突き合わせた。
「三津,でかしたぞ。褒美に今日は暇をやる。ゆっくり稽古を見ていきな。」
二人は土方によって道場まで連行された。
『私なんかがお邪魔していいんやろか…。』
三津は身を小さくしながらひょこひょこ道場の隅に移動した。
「お!お三津が来た!
いいとこ見せねぇとな。」
原田が大きく腕を回して張り切ると,他の隊士も俺も俺もと意気込んだ。
準備を整えた総司が合流した途端にその場の空気が一変する。
三津でさえそれを感じる事が出来た。
殺気や熱気が入り乱れる道場の隅で呆気に取られながら正座する。
『土方さん楽しそう…。』
隊士たちに檄を飛ばしながら叩きのめすその姿に嫌な汗が三津の背中を伝った。
自分はまだ優しくされてる方だと錯覚してしまう。
そして土方同様に隊士たちを打ちのめしていく総司へと視線を移した。
『沖田さんも強いんや。知らんかったな。』
初めて見る総司の姿に身震いした。
『この気迫で人を斬ってるんかな…。』
忘れてた訳じゃないが改めて彼らが剣客集団だと見せつけられて恐怖心が湧き上がる。
もし彼らが人を斬るのを目の当たりにした時,自分はどう思うのだろうか。
それが彼らの選んだ道だと受け入れられるだろうか。
考えているうちに何だか背中の傷が疼きだした。
『それにしても何で沖田さんは稽古が嫌いなんやろ?』
初めは不貞腐れた顔をしていたが,今では嬉々として竹刀を振っている。
楽しんでいるように見えなくもない。
『まぁ土方さん程ちゃうけど…。』
土方は立てなくなった隊士でも逃がしたりはしなかった。
『あれ,私への見せしめじゃないよね?
あぁやって根性叩き直すって事?』
三津は正座したまま小刻みに震えた。
この時間が早く終われと強く願う。長い稽古がやっと終わった。
打ちのめされた隊士たちにとってもだろうが,三津にとっても耐え難い時間になった。
『怖かった……。』
恐怖と足の痺れからしばし硬直。
すると総司が清々しい顔で三津の元へ駆け寄った。
あれだけ激しい稽古をしていたのにこの笑顔。
「お疲れ様です。
さっきまで稽古に行くの嫌がってた人とは別人ちゃいますよね?」
Posted by beckywong at
17:46
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2023年12月24日
ぺこりと頭を下げると,三津の手の
ぺこりと頭を下げると,三津の手の上に大きくて硬い手のひらが被さった。
「近藤勇と申す。歳にやられたな?」
手のひらのごつごつとした感触に驚いて上目で見れば,目尻を下げた顔は体に似合わず優しさが滲み出ている。
「悪く思わないでくれ。きっと照れ隠しだ,本当は来てくれた事が嬉しいんだ。」
内面も土方と対称的だと三津は分かり易く土方を一瞥してしまった。
「俺とは大違いとか思ってんじゃねぇぞ,https://android-app-development-s47036.timeblog.net/44753295/what-are-options-trading-call-and-put-options-explained https://dallasjufpa.newbigblog.com/13169634/what-are-options-trading-call-and-put-options-explained https://lorenzoas765.yomoblog.com/13425913/what-are-options-trading-call-and-put-options-explained おい。」
三津と思い切り目が合った土方は,分かり易いんだこの顔はとがら空きだった頬をつねり上げた。
「もうそんなに親しいのか。」
良きかな良きかなと頷く近藤に土方は若干むっとした表情を浮かべ,ふいっと顔を背けた。
「これから八木さんの所に挨拶に行く。邪魔したな。」
無愛想に背中を向け,再び三津を連れて歩く。
その背中を見て総司がぷっと吹き出した。
「本当に照れ隠しが下手な人ですね。
三津さんもとんでもない人に気に入られちゃいましたね。」
「歳が直々に見つけて来たんだ。余程気に入ったんだろう。」
近藤の嬉しそうな顔に総司の顔も綻ぶ。
『本当は私の方が先に出会ってたんですけどね。
近藤さんも嬉しそうだからまぁいいか。』
ただ暴力は見逃すまいと急いで二人の後を追いかけた。涙目の三津の首根っこを掴むとそのまま自分の前に引っ張り出した。
「こいつが三津だ。三津,うちの大将だ。」
三津は潤む目で自分を見下ろす大将を見上げた。
『土方さんより断然強そう。』
横目で土方と見比べた。
役者の様な顔つき,色白で華奢に見える体格の土方とは対称的。
『如何にも武士って顔してはる。』
醸し出す雰囲気も器の大きさを示してる気がした。
「三津です,よろしくお願いします。」大股で歩く土方について八木邸の門をくぐった時,ふいに足が止まった。
三津と総司もそれに合わせて立ち止まった。
「挨拶したらすぐ帰る。ここでの長居は無用だ。」
さっきよりも不機嫌そうな土方に三津は首を傾げた。
別に初めて伺う人の家で長居するつもりなんてないのに変なの。
不思議そうに見つめ返すと,舌打ちをされた。
『うわぁ,より機嫌悪くなってもた…。』
あれだけ渾身の一発を見舞っておいてまだ苛々してるのか。
充分発散しただろうに。
『どちらかと言うと私の方が喚き散らしたいのに…。』
と知らず知らずのうちに口がへの字になっていた。
「これから挨拶に行くってのに何て面だ。おら,笑え。」
俺の言う事は絶対だと両頬を摘み,無理やり口角を上げさせた。
その時ばかりは愉しそうな顔に見える。
『こんな顔をさせたのはあなたです…。』
とは口が裂けても言えない。
「長居が無用ならいちいち三津さんに触るの止めてもらえます?
さぁ早く挨拶しましょう!」
すかさず総司が土方の手を払いのけて二人の間に割って入った。
土方は舌打ちをするとより不機嫌な空気を醸し出して玄関の戸に手をかけた。
「今から挨拶するのにあの顔でいいの?」
三津がぼそりと総司に耳打ちすると,
「聞こえてるんだよ馬鹿!」
今度は思い切り平手で叩かれた。
さっき拳骨を落とした所を目掛けて。
「痛い…。」
目がしょんぼりしかけたが,土方の鋭い視線が突き刺さる。“笑え”と。
そんな三人を出迎えてくれたのは,人の良さを滲ませる笑顔の源之丞で,
「どうぞ上がってって下さい,お茶を用意しましょう。」
気さくに声をかけてくれた。
おまけに可愛いお嬢さんとお世辞までいただいた。
『新選組を受け入れるぐらいやから大らかな人なんやろなぁ。
ご家族もさぞ出来た方々なんやわ。』
頭の痛みは疼くけど,気分は悪くない。
初めましてと頭を下げてる隣で土方は源之丞の誘いを丁重に断った。
「こいつには早く仕事を覚えさせなくちゃならねぇもんで。
代わりに総司を置いていきます。子供たちの面倒でも見させて下さい。」
「近藤勇と申す。歳にやられたな?」
手のひらのごつごつとした感触に驚いて上目で見れば,目尻を下げた顔は体に似合わず優しさが滲み出ている。
「悪く思わないでくれ。きっと照れ隠しだ,本当は来てくれた事が嬉しいんだ。」
内面も土方と対称的だと三津は分かり易く土方を一瞥してしまった。
「俺とは大違いとか思ってんじゃねぇぞ,https://android-app-development-s47036.timeblog.net/44753295/what-are-options-trading-call-and-put-options-explained https://dallasjufpa.newbigblog.com/13169634/what-are-options-trading-call-and-put-options-explained https://lorenzoas765.yomoblog.com/13425913/what-are-options-trading-call-and-put-options-explained おい。」
三津と思い切り目が合った土方は,分かり易いんだこの顔はとがら空きだった頬をつねり上げた。
「もうそんなに親しいのか。」
良きかな良きかなと頷く近藤に土方は若干むっとした表情を浮かべ,ふいっと顔を背けた。
「これから八木さんの所に挨拶に行く。邪魔したな。」
無愛想に背中を向け,再び三津を連れて歩く。
その背中を見て総司がぷっと吹き出した。
「本当に照れ隠しが下手な人ですね。
三津さんもとんでもない人に気に入られちゃいましたね。」
「歳が直々に見つけて来たんだ。余程気に入ったんだろう。」
近藤の嬉しそうな顔に総司の顔も綻ぶ。
『本当は私の方が先に出会ってたんですけどね。
近藤さんも嬉しそうだからまぁいいか。』
ただ暴力は見逃すまいと急いで二人の後を追いかけた。涙目の三津の首根っこを掴むとそのまま自分の前に引っ張り出した。
「こいつが三津だ。三津,うちの大将だ。」
三津は潤む目で自分を見下ろす大将を見上げた。
『土方さんより断然強そう。』
横目で土方と見比べた。
役者の様な顔つき,色白で華奢に見える体格の土方とは対称的。
『如何にも武士って顔してはる。』
醸し出す雰囲気も器の大きさを示してる気がした。
「三津です,よろしくお願いします。」大股で歩く土方について八木邸の門をくぐった時,ふいに足が止まった。
三津と総司もそれに合わせて立ち止まった。
「挨拶したらすぐ帰る。ここでの長居は無用だ。」
さっきよりも不機嫌そうな土方に三津は首を傾げた。
別に初めて伺う人の家で長居するつもりなんてないのに変なの。
不思議そうに見つめ返すと,舌打ちをされた。
『うわぁ,より機嫌悪くなってもた…。』
あれだけ渾身の一発を見舞っておいてまだ苛々してるのか。
充分発散しただろうに。
『どちらかと言うと私の方が喚き散らしたいのに…。』
と知らず知らずのうちに口がへの字になっていた。
「これから挨拶に行くってのに何て面だ。おら,笑え。」
俺の言う事は絶対だと両頬を摘み,無理やり口角を上げさせた。
その時ばかりは愉しそうな顔に見える。
『こんな顔をさせたのはあなたです…。』
とは口が裂けても言えない。
「長居が無用ならいちいち三津さんに触るの止めてもらえます?
さぁ早く挨拶しましょう!」
すかさず総司が土方の手を払いのけて二人の間に割って入った。
土方は舌打ちをするとより不機嫌な空気を醸し出して玄関の戸に手をかけた。
「今から挨拶するのにあの顔でいいの?」
三津がぼそりと総司に耳打ちすると,
「聞こえてるんだよ馬鹿!」
今度は思い切り平手で叩かれた。
さっき拳骨を落とした所を目掛けて。
「痛い…。」
目がしょんぼりしかけたが,土方の鋭い視線が突き刺さる。“笑え”と。
そんな三人を出迎えてくれたのは,人の良さを滲ませる笑顔の源之丞で,
「どうぞ上がってって下さい,お茶を用意しましょう。」
気さくに声をかけてくれた。
おまけに可愛いお嬢さんとお世辞までいただいた。
『新選組を受け入れるぐらいやから大らかな人なんやろなぁ。
ご家族もさぞ出来た方々なんやわ。』
頭の痛みは疼くけど,気分は悪くない。
初めましてと頭を下げてる隣で土方は源之丞の誘いを丁重に断った。
「こいつには早く仕事を覚えさせなくちゃならねぇもんで。
代わりに総司を置いていきます。子供たちの面倒でも見させて下さい。」
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00:19
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2023年12月12日
その言葉に幾許かは落ち着きを取
その言葉に幾許かは落ち着きを取り戻したというものの、やり切れない気持ちに次々と襲われた。真っ白になるまで拳を握ると、顔を歪める。
「クソ、クソったれ……ッ!山崎ッ、医者はどうしたッ!」
「今急がせとりますッ。取り急ぎ自分が応急処置をやらせてもらいます!」
慌ただしく道具を持った山崎が入ってくるのを背で察した土方は、頼むと項垂れた。
廊下からそのやり取りを見ていた沖田は、ただ呆然と立ち尽くす。何よりも敬愛し、人生を賭けてでも着いていきたいと切望した相手が苦しんでいるのに何も出来ない。http://abrielle.unblog.fr/2023/12/12/%e6%a1%9c%e5%8f%b8%e9%83%8e%e3%81%af%e8%bf%91%e3%81%8f%e3%81%ab%e7%bd%ae%e3%81%84%e3%81%9f%e5%88%80%e3%81%b8%e6%89%8b%e3%82%92%e4%bc%b8%e3%81%b0%e3%81%97%e3%81%9f/ https://www.keepandshare.com/doc27/114542/ http://doris.manifo.com/blog 己では役に立てないのだという現実が何よりも辛かった。
その時、目の端で原田がある隊士に詰め寄る姿を捉える。
「おい、襲われた場所は何処だ!大将をあんな目に合わされて、黙っていられるかッ」
鼻息を荒くした彼は今にも飛び出して行きそうな勢いだった。今行ったところで既に居ないだろう。もし居たとすれば、それは罠だ──。止めなきゃ、と沖田が動くよりも先にその横を影が通る。
「──原田先生、今行くのは危険です。あっちも我々の動きを読んだ上での計画でしょう。一網打尽にする腹積もりやも知れません」
それは桜司郎だった。昨夜自分に見せた女の顔とは違い、凛とした若武者の姿に心が揺れる。
頭に血が上っている原田に近付こうとするなど、試衛館出の者でも躊躇われる行為だ。手負いの獣さながらに気性が荒い。
「それが何だってンだ!このまま指くわえて見ていろってェのか!?……いいか、これは奴らからの宣戦布告なんだ。勝負から逃げるのは、として恥じ入るべき行為だと思わねえのかよッ」
原田は桜司郎の胸ぐらを掴んだ。今にも殴りかからんばかりの勢いである。
だが、それでも怯む素振りすら見せずに、揺るぎないで見返した。
「──武士たるもの命の捨て所は主君のため、引いては志のためである。それを見誤るのは勇気にず!」
ビリビリと肌をざわつかせるような低い声が廊下に響く。平常時ならばいざ知らず、徳川の威信を賭けた戦を前に命を危険に晒すことは不義と言えるだろう。
その堂々たる姿を前に、原田は思わず息を呑んだ。後退りかけて、手を放す。
そこへ柱の影から山口が現れた。
「…………榊の言う通りだ。原田さん、此処は引いてくれ。これ以上こちら側の被害を出せば、あちらの思う壷だ」
その言葉に、原田は行き場のない思いをぶつけるように、柱を殴り付けては去っていく。 近藤が受けた銃創は見掛けよりも重いものだった。恐らくは二度と右腕で刀を振るうことは叶わないだろう──それが医師の見立てである。
武士から刀を奪うことは死に等しい。ましてや近藤はその腕一つで此処までのし上がってきた人物なのだ。命が助かったことは喜ばしいが、苦労を知る誰もが涙を流して悲しんだ。
しかし、当の本人は存外あっさりとしており、「左手があれば問題ない」と気丈に笑っている。
見舞った桜司郎と山口は、悲愴な面持ちで冷たい廊下を歩いた。軒先から続く空はどんよりと曇っており、吹き付ける風が冷たい。直に一雨来るだろう。
事件の仔細は、同行していた島田により明らかになった。近藤が馬を走らせた後、斬りこんで来たためにこちらの隊士に死者を出した。しかし、目当ての近藤が居ないと気付いた瞬間、直ぐに引き上げていったという。長引けばすぐに新撰組が駆け付け、劣勢になると分かっていたからだろう。
「クソ、クソったれ……ッ!山崎ッ、医者はどうしたッ!」
「今急がせとりますッ。取り急ぎ自分が応急処置をやらせてもらいます!」
慌ただしく道具を持った山崎が入ってくるのを背で察した土方は、頼むと項垂れた。
廊下からそのやり取りを見ていた沖田は、ただ呆然と立ち尽くす。何よりも敬愛し、人生を賭けてでも着いていきたいと切望した相手が苦しんでいるのに何も出来ない。http://abrielle.unblog.fr/2023/12/12/%e6%a1%9c%e5%8f%b8%e9%83%8e%e3%81%af%e8%bf%91%e3%81%8f%e3%81%ab%e7%bd%ae%e3%81%84%e3%81%9f%e5%88%80%e3%81%b8%e6%89%8b%e3%82%92%e4%bc%b8%e3%81%b0%e3%81%97%e3%81%9f/ https://www.keepandshare.com/doc27/114542/ http://doris.manifo.com/blog 己では役に立てないのだという現実が何よりも辛かった。
その時、目の端で原田がある隊士に詰め寄る姿を捉える。
「おい、襲われた場所は何処だ!大将をあんな目に合わされて、黙っていられるかッ」
鼻息を荒くした彼は今にも飛び出して行きそうな勢いだった。今行ったところで既に居ないだろう。もし居たとすれば、それは罠だ──。止めなきゃ、と沖田が動くよりも先にその横を影が通る。
「──原田先生、今行くのは危険です。あっちも我々の動きを読んだ上での計画でしょう。一網打尽にする腹積もりやも知れません」
それは桜司郎だった。昨夜自分に見せた女の顔とは違い、凛とした若武者の姿に心が揺れる。
頭に血が上っている原田に近付こうとするなど、試衛館出の者でも躊躇われる行為だ。手負いの獣さながらに気性が荒い。
「それが何だってンだ!このまま指くわえて見ていろってェのか!?……いいか、これは奴らからの宣戦布告なんだ。勝負から逃げるのは、として恥じ入るべき行為だと思わねえのかよッ」
原田は桜司郎の胸ぐらを掴んだ。今にも殴りかからんばかりの勢いである。
だが、それでも怯む素振りすら見せずに、揺るぎないで見返した。
「──武士たるもの命の捨て所は主君のため、引いては志のためである。それを見誤るのは勇気にず!」
ビリビリと肌をざわつかせるような低い声が廊下に響く。平常時ならばいざ知らず、徳川の威信を賭けた戦を前に命を危険に晒すことは不義と言えるだろう。
その堂々たる姿を前に、原田は思わず息を呑んだ。後退りかけて、手を放す。
そこへ柱の影から山口が現れた。
「…………榊の言う通りだ。原田さん、此処は引いてくれ。これ以上こちら側の被害を出せば、あちらの思う壷だ」
その言葉に、原田は行き場のない思いをぶつけるように、柱を殴り付けては去っていく。 近藤が受けた銃創は見掛けよりも重いものだった。恐らくは二度と右腕で刀を振るうことは叶わないだろう──それが医師の見立てである。
武士から刀を奪うことは死に等しい。ましてや近藤はその腕一つで此処までのし上がってきた人物なのだ。命が助かったことは喜ばしいが、苦労を知る誰もが涙を流して悲しんだ。
しかし、当の本人は存外あっさりとしており、「左手があれば問題ない」と気丈に笑っている。
見舞った桜司郎と山口は、悲愴な面持ちで冷たい廊下を歩いた。軒先から続く空はどんよりと曇っており、吹き付ける風が冷たい。直に一雨来るだろう。
事件の仔細は、同行していた島田により明らかになった。近藤が馬を走らせた後、斬りこんで来たためにこちらの隊士に死者を出した。しかし、目当ての近藤が居ないと気付いた瞬間、直ぐに引き上げていったという。長引けばすぐに新撰組が駆け付け、劣勢になると分かっていたからだろう。
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19:36
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2023年12月11日
何とか二人の応急処置を終え、
何とか二人の応急処置を終え、桜司郎は一人になった途端に血で汚れた着物を脱いだ。まだ身を清めていないとはいえ、自身に纏わり付くような血の臭いに顔を顰める。それも命の重さ故なのだろうか。
「…………血のにおいって取れないな」
ぽつりと呟くと、新しい襦袢に袖を通し、着物を抱えて井戸へ向かった。
ざぶりと桶に漬ければ、みるみる赤く染まる。それを見ると、武田の最期が浮かんできた。
──一太刀で仕留める気はなかったしても、馬越君の声に揺らいでしまったのは一番組の長として良くなかったな。 武田を葬ったことに後悔はない。だが、いくら仇とは言え知り合いを斬ったことに対して、胸にしこりのようなものを感じている自分がいることも事実だった。
「…………どうして上手くやれないんだろう」 https://note.com/carinacyril786/n/n21953e0cf5ce?sub_rt=share_pb https://plaza.rakuten.co.jp/carinacyril786/diary/202312080000/ https://blog.goo.ne.jp/mathewanderson/e/b89d9cd9c1b3c0444a83b05b5269959a
組長代理として、兄分の仇を討った者として、馬越の友人として──全てにおいて引け目を感じていた。
病床の身であっても沖田は周りを見ているというのに、自分はむしろ気を遣われている。此度の密命も、沖田であればもっと機敏に済ませられた筈だ。代理すらまともにこなせないのかと目頭が熱くなる。
手拭いで腕にこびり付いた血液を拭っていると、背後から足音が聞こえてくることに気付いた。このような夜更けに誰かと振り向く。
サア……と優しい風が吹いた。暗がりながらもその人物を視界に捉えると、張り詰めた空気が和らぐ。
「桜司郎さん」
「沖田……先生……?どうして……」
手から落とした手拭いがちゃぷんと音を立てて桶の中へ落ちた。
ふらりと引き付けられるように立ち上がる。
「お帰りなさい。……何だか、貴女が帰ってくる予感がして目が覚めたんですよね」
沖田はそう言いながら、俯きがちの桜司郎の頭をそっと撫でた。無事を確かめるように手を取る。
「沖田先生、私、今汚れて…………」
「構いませんよ。私がしたくてしているのですから。汚れたら洗えば良い。……御役目は無事に果たせたようですね」
「……はい。でも、」
柔らかな声に安心したのか、声を詰まらせる。沖田はその顔を覗き込んだ。
「でも?」
「……わたしは、やはり沖田先生のようにはなれませんね」
へらりと困ったように笑えば、沖田は微笑む。
「私のようになりたいのですか?」
「なりたいです。だって、沖田先生は私の憧れですから……」
「そうですか……。私は貴女のようになりたいんだけどなぁ」
沖田の言葉に、桜司郎は目を丸くしながら見上げた。
「私に……?」
「何事にも真っ直ぐで、人のために涙を流せる優しさを持っていて。それに綺麗な をしている……。どうか、貴女は貴女のままで居てください」
その言葉は、すっと染み込むように心に甘く優しく入り込む。まるで、引け目を感じていたことすら察しているようで。誰かの真似をしなくても良い、自分のままで良いのだと言われている気がした。
「……有難う、ございます……」
そういえば、と言葉を続ける。
「馬越君の外泊届けも……有難うございました。とても喜んでいましたよ」
「そうですか。それは良かった。……ですが、彼にとって今後新撰組に居続けるのは、決して良いことばかりでは無いでしょうね……」
片恋に苦しみ、武田の影に苦しみ続けなければならないのだ。今は良くとも、臆病な馬越が何処まで重圧に耐えられるかは分からない。
「……そう、ですよね」
ぽつりと呟くと、桜司郎は翳りのある空を見上げた── 数日後、まことしやかに武田の死が隊に広まっていた。
隊を裏切った故に粛清されたと噂する者から薩摩に殺されたと噂する者まで居たが、どれも
「…………血のにおいって取れないな」
ぽつりと呟くと、新しい襦袢に袖を通し、着物を抱えて井戸へ向かった。
ざぶりと桶に漬ければ、みるみる赤く染まる。それを見ると、武田の最期が浮かんできた。
──一太刀で仕留める気はなかったしても、馬越君の声に揺らいでしまったのは一番組の長として良くなかったな。 武田を葬ったことに後悔はない。だが、いくら仇とは言え知り合いを斬ったことに対して、胸にしこりのようなものを感じている自分がいることも事実だった。
「…………どうして上手くやれないんだろう」 https://note.com/carinacyril786/n/n21953e0cf5ce?sub_rt=share_pb https://plaza.rakuten.co.jp/carinacyril786/diary/202312080000/ https://blog.goo.ne.jp/mathewanderson/e/b89d9cd9c1b3c0444a83b05b5269959a
組長代理として、兄分の仇を討った者として、馬越の友人として──全てにおいて引け目を感じていた。
病床の身であっても沖田は周りを見ているというのに、自分はむしろ気を遣われている。此度の密命も、沖田であればもっと機敏に済ませられた筈だ。代理すらまともにこなせないのかと目頭が熱くなる。
手拭いで腕にこびり付いた血液を拭っていると、背後から足音が聞こえてくることに気付いた。このような夜更けに誰かと振り向く。
サア……と優しい風が吹いた。暗がりながらもその人物を視界に捉えると、張り詰めた空気が和らぐ。
「桜司郎さん」
「沖田……先生……?どうして……」
手から落とした手拭いがちゃぷんと音を立てて桶の中へ落ちた。
ふらりと引き付けられるように立ち上がる。
「お帰りなさい。……何だか、貴女が帰ってくる予感がして目が覚めたんですよね」
沖田はそう言いながら、俯きがちの桜司郎の頭をそっと撫でた。無事を確かめるように手を取る。
「沖田先生、私、今汚れて…………」
「構いませんよ。私がしたくてしているのですから。汚れたら洗えば良い。……御役目は無事に果たせたようですね」
「……はい。でも、」
柔らかな声に安心したのか、声を詰まらせる。沖田はその顔を覗き込んだ。
「でも?」
「……わたしは、やはり沖田先生のようにはなれませんね」
へらりと困ったように笑えば、沖田は微笑む。
「私のようになりたいのですか?」
「なりたいです。だって、沖田先生は私の憧れですから……」
「そうですか……。私は貴女のようになりたいんだけどなぁ」
沖田の言葉に、桜司郎は目を丸くしながら見上げた。
「私に……?」
「何事にも真っ直ぐで、人のために涙を流せる優しさを持っていて。それに綺麗な をしている……。どうか、貴女は貴女のままで居てください」
その言葉は、すっと染み込むように心に甘く優しく入り込む。まるで、引け目を感じていたことすら察しているようで。誰かの真似をしなくても良い、自分のままで良いのだと言われている気がした。
「……有難う、ございます……」
そういえば、と言葉を続ける。
「馬越君の外泊届けも……有難うございました。とても喜んでいましたよ」
「そうですか。それは良かった。……ですが、彼にとって今後新撰組に居続けるのは、決して良いことばかりでは無いでしょうね……」
片恋に苦しみ、武田の影に苦しみ続けなければならないのだ。今は良くとも、臆病な馬越が何処まで重圧に耐えられるかは分からない。
「……そう、ですよね」
ぽつりと呟くと、桜司郎は翳りのある空を見上げた── 数日後、まことしやかに武田の死が隊に広まっていた。
隊を裏切った故に粛清されたと噂する者から薩摩に殺されたと噂する者まで居たが、どれも
Posted by beckywong at
16:11
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2023年12月09日
その脳裏には隊士から聞き出した
その脳裏には隊士から聞き出した言葉が何度も再生される。あれほどの腕を持つ桜司郎が、素人の男にやられるなど信じてはいなかった。だが最悪の事態を想像しては、焦燥感が襲う。
「失礼します!」
言うが早いか、障子を開け放つ。すると、そこには山野の姿があった。その着物には血痕がところどころに付着している。
それを目敏く見付けた沖田は目を細めながら、室内へ入った。
しかし土方にはそれすら予想の範疇であり、沖田の存在など意に介さないと言わんばかりに、山野から視線を逸らさない。
「山野君、報告ご苦労だった。下がって良い」 https://andreww.anime-navi.net/Entry/2/ https://fnetchat.com/read-blog/178504 https://johnsmith.blox.ua/2023/12/04/%e9%a1%94%e3%82%92%e6%ad%aa%e3%81%be%e3%81%9b%e3%81%9f%e6%a1%9c%e5%8f%b8%e9%83%8e%e3%81%af%e6%9d%be/
「は、はい……」
山野は部屋から出ようとしたが、沖田の存在が気になるのか、横目で盗み見た。
それを見た沖田は口を開いた。
「山野君、桜司郎さんはどちらへ?」
その質問に山野は答えようとするが、それよりも早く土方が睨み付ける。
「君は答えずとも良い。何をしている、行きたまえ」
副長の命には逆らえぬと、山野は部屋を後にした。
「どうした。何か用か」
土方はあくまでも冷静に、腕を組みながら沖田を見やった。普通の隊士であれば震え上がるものだが、まるで通用しない。
「あの人は……桜司郎さんは何処です。何故私に黙っているように言ったのですか」
「何故知る必要がある」
「私は、組長ですよ!部下の所在を知る権利があります」
その言葉に土方は僅かに形の良い眉を上げる。今まで沖田が組長の権利を主張したことなど無かったのだ。
「……教えたらお前はそこへ向かうだろうが。大丈夫だ、刺されたようだが生きている。紛いなりにも、お前の婚約者が非業の死を遂げたってンだから、黙って座っていろ」
「それ、は…………」
土方の言うことにも一理ある。祝言を挙げる前とは言え、婚約者が殺されたというのに、傷を負っただけの部下を優先させる男がいるだろうか。「それに、聞けば鈴木は体調が優れねえのに死番を買って出たって話しじゃねえか。大捕物じゃなかったから良いものの、下手すれば全体がやられるところだった」
土方は静かに言葉を紡ぎつつ、ギロリと沖田を睨む。
「……組長の権利を主張するんなら、それくらい見ておけ」
投げられた言葉はまさに正論で、ぐうの音も出なかった。他の隊士に関しては把握しているつもりだったが、桜司郎に関しては完全にのせいで見ないようにしていたことに気付く。
あの眩しいまでの笑顔や、柔らかく暖かな風に触れてしまえば、手を伸ばしたくなるから避けていたのだ。
──何をしていたんだ、沖田総司。公私混同するなど組長失格ではないか。
「返す言葉も……ございません」
切なげな表情を浮かべて立ち尽くしたまま、拳を握って俯いた沖田を見ながら、土方は溜め息を吐く。
人の感情を察することに長け、その道に明るい土方は弟分の抱えている想いの意味を直ぐに理解した。
「おェ……彼奴に惚れているだろう」
「な……ッ」
その言葉に目を見張れば、頬や耳に血が集まっていく。
「大方、おハルと所帯を持ってしまえば思いも断ち切れるだろうと踏んだのだろう?浅はかで稚拙なお前の考えそうな事だ」
まさに図星を突かれたようなその言葉に、沖田は顔を上げた。ぎりりと歯を噛み締め、初めて土方へ殺意に似た感情を向ける。
「……貴方に、桜司郎さんに好かれている貴方に何が分かるのです!私が、どのような思いで……ッ、ゲホゴホッ、」
「失礼します!」
言うが早いか、障子を開け放つ。すると、そこには山野の姿があった。その着物には血痕がところどころに付着している。
それを目敏く見付けた沖田は目を細めながら、室内へ入った。
しかし土方にはそれすら予想の範疇であり、沖田の存在など意に介さないと言わんばかりに、山野から視線を逸らさない。
「山野君、報告ご苦労だった。下がって良い」 https://andreww.anime-navi.net/Entry/2/ https://fnetchat.com/read-blog/178504 https://johnsmith.blox.ua/2023/12/04/%e9%a1%94%e3%82%92%e6%ad%aa%e3%81%be%e3%81%9b%e3%81%9f%e6%a1%9c%e5%8f%b8%e9%83%8e%e3%81%af%e6%9d%be/
「は、はい……」
山野は部屋から出ようとしたが、沖田の存在が気になるのか、横目で盗み見た。
それを見た沖田は口を開いた。
「山野君、桜司郎さんはどちらへ?」
その質問に山野は答えようとするが、それよりも早く土方が睨み付ける。
「君は答えずとも良い。何をしている、行きたまえ」
副長の命には逆らえぬと、山野は部屋を後にした。
「どうした。何か用か」
土方はあくまでも冷静に、腕を組みながら沖田を見やった。普通の隊士であれば震え上がるものだが、まるで通用しない。
「あの人は……桜司郎さんは何処です。何故私に黙っているように言ったのですか」
「何故知る必要がある」
「私は、組長ですよ!部下の所在を知る権利があります」
その言葉に土方は僅かに形の良い眉を上げる。今まで沖田が組長の権利を主張したことなど無かったのだ。
「……教えたらお前はそこへ向かうだろうが。大丈夫だ、刺されたようだが生きている。紛いなりにも、お前の婚約者が非業の死を遂げたってンだから、黙って座っていろ」
「それ、は…………」
土方の言うことにも一理ある。祝言を挙げる前とは言え、婚約者が殺されたというのに、傷を負っただけの部下を優先させる男がいるだろうか。「それに、聞けば鈴木は体調が優れねえのに死番を買って出たって話しじゃねえか。大捕物じゃなかったから良いものの、下手すれば全体がやられるところだった」
土方は静かに言葉を紡ぎつつ、ギロリと沖田を睨む。
「……組長の権利を主張するんなら、それくらい見ておけ」
投げられた言葉はまさに正論で、ぐうの音も出なかった。他の隊士に関しては把握しているつもりだったが、桜司郎に関しては完全にのせいで見ないようにしていたことに気付く。
あの眩しいまでの笑顔や、柔らかく暖かな風に触れてしまえば、手を伸ばしたくなるから避けていたのだ。
──何をしていたんだ、沖田総司。公私混同するなど組長失格ではないか。
「返す言葉も……ございません」
切なげな表情を浮かべて立ち尽くしたまま、拳を握って俯いた沖田を見ながら、土方は溜め息を吐く。
人の感情を察することに長け、その道に明るい土方は弟分の抱えている想いの意味を直ぐに理解した。
「おェ……彼奴に惚れているだろう」
「な……ッ」
その言葉に目を見張れば、頬や耳に血が集まっていく。
「大方、おハルと所帯を持ってしまえば思いも断ち切れるだろうと踏んだのだろう?浅はかで稚拙なお前の考えそうな事だ」
まさに図星を突かれたようなその言葉に、沖田は顔を上げた。ぎりりと歯を噛み締め、初めて土方へ殺意に似た感情を向ける。
「……貴方に、桜司郎さんに好かれている貴方に何が分かるのです!私が、どのような思いで……ッ、ゲホゴホッ、」
Posted by beckywong at
20:12
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2023年12月09日
だった。
だった。
──これも運の尽きか。こんなので切られたら、傷口は汚いだろうな。
忌々しげにそれを地面へ突き立て、桜司郎はぴくりとも動かないハルへ目を向ける。
「あの、は……?」
その問いに山野は首を横に振った。
「……駄目だ。恐らく力任せに心の臓を一突き。もう仏さんになっていた」 https://johnsmith786.cabanova.com/ https://anotepad.com/notes/66gd23hs https://carinadarlingg786.blox.ua/2023/12/08/%e3%81%9d%e3%81%ae%e9%a0%83%e3%80%81%e6%b2%96%e7%94%b0%e3%81%af%e7%84%a1%e4%ba%8b%e3%81%ab%e5%b1%b1/
「…………そっか。もう少し、早く、来ていれ……ば……」
沖田先生、と言いながら桜司郎は座っていられずに前へ手を付く。連日の体調不良に加え、刺し傷とそれに伴う流血が確実に体力を奪っていった。
そこへ笛を聞き付けた隊士が集まってくる。山野はハルと桜司郎のそれぞれを乗せるための戸板を持ってくることと、男を屯所へ連行するように指示を出した。
だが、急遽集められた戸板は一枚だけである。
「……私は歩ける、から。おハルさん、を……早く屯所へ……。八十八君、肩を貸して……」
言うが早いか、立ち上がろうとしてふらついた桜司郎の身体を山野が受け止めた。
触れた手の熱さに驚きの表情を浮かべ、直ぐに端正な顔を歪ませる。
「……バカ桜司郎。無茶しやがって……」
桜司郎の腕を自身の肩へ乗せ、両膝の裏へ手を回すとそのまま横抱きにした。いつもであれば喧しく騒ぐ筈だというのに、文句のひとつも返ってこないことに眉間を寄せる。
「歩ける、から……大丈夫……」
「コッチの方が早い。屯所だと遠すぎるな……。ここら辺に診療所は…………」
「……南部、せんせ、の……診療所が、近くに……」
「そうだ、そこだ!そこなら助けてくれる!」
山野はそのまま坂を駆け出した。暗い夜道を月明かりと土地勘だけを頼りに、必死に南部の診療所を目指す。 黒谷の近くの静まった通りに位置する診療所に、仄かな灯りが点いた。
夜分に飛び込んだというのに、南部は何一つ嫌な顔を見せずに迎え入れてくれる。
「……こぢらへ運んでくなんしょ」
「は、はいッ。桜司郎、もう大丈夫だからな」
山野は言われた通りに布団の上へ桜司郎を降ろした。
う、と声を漏らしながら身動ぎをした桜司郎は、心配そうにソワソワとする山野を見やる。良き友を持ったと胸の奥が暖かかった。
「……八十八、くん。もう、屯所へ……戻って」
「何でだ?一人で置いていけねえよ」
「状況を話せるのは、八十八君しか、居ないでしょ……。あの男が……嘘をついたら、どうするの……」
そのように言えば、山野は歯噛みする。傷を負った友の傍に居てやりたいという気持ちと、隊務を全うしなければならないという気持ちがせめぎ合った。
道具一式を抱えた南部が戻り、横へ座る。桜司郎の性別へ気を使ってか、着物の裂けた部分から傷口を覗いた。
「……傷は汚えが、深ぐはねぇ。心配さすんな」
「ほら、先生……もそう言っているし……。すぐ治るよ。ね、八十八君……」
にこりと笑みを浮かべれば、山野は眉根を寄せて立ち上がる。
「……分かった。報告だけ済ませたらまた来るからなッ!」
そう言い残すと、急いで草鞋を結んでは飛び出して行った。
忙しない男だな、と南部は苦笑いをすると桜司郎を見る。既にぐったりとしており、この傷だけではこうはならないと目を細めた。
「元々体調が悪がったの、無理したべ。おめだぢ、武士づーのは……なして無理したがるんだ?着物、脱がせんぞ」
「……返す言葉も、ありません」
袴を脱ぎ、着物の帯が解かれる。襦袢の袷を開かれれば白い肢体が曝された。安芸にて負った弾痕を南部が指差す。
「これは……?」
──これも運の尽きか。こんなので切られたら、傷口は汚いだろうな。
忌々しげにそれを地面へ突き立て、桜司郎はぴくりとも動かないハルへ目を向ける。
「あの、は……?」
その問いに山野は首を横に振った。
「……駄目だ。恐らく力任せに心の臓を一突き。もう仏さんになっていた」 https://johnsmith786.cabanova.com/ https://anotepad.com/notes/66gd23hs https://carinadarlingg786.blox.ua/2023/12/08/%e3%81%9d%e3%81%ae%e9%a0%83%e3%80%81%e6%b2%96%e7%94%b0%e3%81%af%e7%84%a1%e4%ba%8b%e3%81%ab%e5%b1%b1/
「…………そっか。もう少し、早く、来ていれ……ば……」
沖田先生、と言いながら桜司郎は座っていられずに前へ手を付く。連日の体調不良に加え、刺し傷とそれに伴う流血が確実に体力を奪っていった。
そこへ笛を聞き付けた隊士が集まってくる。山野はハルと桜司郎のそれぞれを乗せるための戸板を持ってくることと、男を屯所へ連行するように指示を出した。
だが、急遽集められた戸板は一枚だけである。
「……私は歩ける、から。おハルさん、を……早く屯所へ……。八十八君、肩を貸して……」
言うが早いか、立ち上がろうとしてふらついた桜司郎の身体を山野が受け止めた。
触れた手の熱さに驚きの表情を浮かべ、直ぐに端正な顔を歪ませる。
「……バカ桜司郎。無茶しやがって……」
桜司郎の腕を自身の肩へ乗せ、両膝の裏へ手を回すとそのまま横抱きにした。いつもであれば喧しく騒ぐ筈だというのに、文句のひとつも返ってこないことに眉間を寄せる。
「歩ける、から……大丈夫……」
「コッチの方が早い。屯所だと遠すぎるな……。ここら辺に診療所は…………」
「……南部、せんせ、の……診療所が、近くに……」
「そうだ、そこだ!そこなら助けてくれる!」
山野はそのまま坂を駆け出した。暗い夜道を月明かりと土地勘だけを頼りに、必死に南部の診療所を目指す。 黒谷の近くの静まった通りに位置する診療所に、仄かな灯りが点いた。
夜分に飛び込んだというのに、南部は何一つ嫌な顔を見せずに迎え入れてくれる。
「……こぢらへ運んでくなんしょ」
「は、はいッ。桜司郎、もう大丈夫だからな」
山野は言われた通りに布団の上へ桜司郎を降ろした。
う、と声を漏らしながら身動ぎをした桜司郎は、心配そうにソワソワとする山野を見やる。良き友を持ったと胸の奥が暖かかった。
「……八十八、くん。もう、屯所へ……戻って」
「何でだ?一人で置いていけねえよ」
「状況を話せるのは、八十八君しか、居ないでしょ……。あの男が……嘘をついたら、どうするの……」
そのように言えば、山野は歯噛みする。傷を負った友の傍に居てやりたいという気持ちと、隊務を全うしなければならないという気持ちがせめぎ合った。
道具一式を抱えた南部が戻り、横へ座る。桜司郎の性別へ気を使ってか、着物の裂けた部分から傷口を覗いた。
「……傷は汚えが、深ぐはねぇ。心配さすんな」
「ほら、先生……もそう言っているし……。すぐ治るよ。ね、八十八君……」
にこりと笑みを浮かべれば、山野は眉根を寄せて立ち上がる。
「……分かった。報告だけ済ませたらまた来るからなッ!」
そう言い残すと、急いで草鞋を結んでは飛び出して行った。
忙しない男だな、と南部は苦笑いをすると桜司郎を見る。既にぐったりとしており、この傷だけではこうはならないと目を細めた。
「元々体調が悪がったの、無理したべ。おめだぢ、武士づーのは……なして無理したがるんだ?着物、脱がせんぞ」
「……返す言葉も、ありません」
袴を脱ぎ、着物の帯が解かれる。襦袢の袷を開かれれば白い肢体が曝された。安芸にて負った弾痕を南部が指差す。
「これは……?」
Posted by beckywong at
20:02
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2023年12月09日
きりりと前を睨み、神経を尖らせて
きりりと前を睨み、神経を尖らせて暗がりを進んでいく。
客で賑わう祇園へ到着するも、幸いにして可笑しな行動を取る輩は現れなかった。
良かったと安堵の息を漏らし、八坂の塔を回って五条大橋から帰営しようと足を向ける。
だが、少し歩いたあたりで、
「ッ、嫌ァァ──ッ!」
つんざくような女の悲鳴が聞こえた。途端に空気が張り詰め、桜司郎は声の方角を睨む。
「二人組になり、それぞれ小路を進みます。何か見付けたら、https://andreww.anime-navi.net/Entry/1/ https://fnetchat.com/read-blog/177789 https://johnsmith.blox.ua/2023/12/08/%e3%81%9d%e3%81%ae%e8%83%8c%e3%81%ab%e5%90%91%e3%81%8b%e3%81%a3%e3%81%a6%e6%8a%95%e3%81%92%e3%82%89%e3%82%8c%e3%81%9f/ 笛を吹いて合図をして下さい」
その指揮を聞いた隊士達はさっさと二人組を作ると、それぞれ駆けていった。桜司郎は山野と組み、同じように狭い小路を進んでいく。
「──桜司郎、こっちだ!血の臭いがするぜ」
鼻の良い山野が何かを嗅ぎ付けたため着いていくと、そこには短刀を手にした男と、刺された女が倒れていた。山野は手にした笛を吹く。
桜司郎は素早く刀を抜きながら、男の動向を見た。
「新撰組です。神妙にしなさい。……八十八君、倒れている人の確認をお願い。まだ息があるなら、集まった隊士と一緒に運んで頂戴」
「応!」
その隙に、山野が女の元へ駆け寄る。桜司郎は二人と男の間に身を滑り込ませた。炯々とした目付きと、隙の無い構えで男を牽制する。
「し、新撰組……。分かった、新撰組に敵うとは思っとらん……。はよ連れてっとくれやす」
男は直ぐにだらりと項垂れ、存外に抵抗をしなかった。それに驚きながら、桜司郎は捕縛用の縄を取り出すと男の方へ向かう。
「桜司郎ッ!!!こ、この女……!」
その時、倒れた女を確認している筈の山野から悲鳴に近い声が聞こえた。
「何?」
「間違いねえ、だ!」
「──え?」
桜司郎はそれに気を取られ、殺気を弱める。その上、男が未だに短刀を手から離していなかったことに気付いていなかった。 その瞬間である。男は不敵な笑みを浮かべて顔を上げた。
「アンタらが……アンタらが居らんかったら!!!この女は俺のモンやったんやッ!去ねェ、壬生狼ォ!」
──しまった!
男は短刀を構え直すと、桜司郎の懐へ飛び込んだ。何とか避けようと身体を逸らすも、距離が近すぎる上に気怠さのせいか躱しきれずに、切っ先が右脇腹を掠める。
「ぅグッ!」
唸るような声と共に、ぽたぽたと血痕が静かに散った。
「桜司郎ッ!!」
山野の声が聞こえたが、大丈夫だと返す。
焼け付くような久方ぶりのその感覚に顔を歪めながらも、男の手首を掴んでは捻り上げた。短刀が地面へ落ちるのを確認すると、自身の刀の柄で男の後頭部を殴る。
身体中の熱が傷口へ集まり、じわりと血液が体外へ出て行くのを感じながら、前のめりに倒れた男に馬乗りになった。そして手を後ろに交差する形で今度こそ縛り上げる。
そこへ山野が駆け寄ってきた。
「桜司郎、どこをやられた!?すまねえ、俺が声を掛けたばかりに……ッ」
「……違う、八十八君のせいじゃない。私が、油断していた……」
脇腹へ手を当てながら、男の上から退くと座り込む。目の前に落ちている短刀を拾い上げ、月光へ翳した。ぬらぬらと血に濡れたそれは、随分と手入れのされていない、切れ味の悪い錆のある
客で賑わう祇園へ到着するも、幸いにして可笑しな行動を取る輩は現れなかった。
良かったと安堵の息を漏らし、八坂の塔を回って五条大橋から帰営しようと足を向ける。
だが、少し歩いたあたりで、
「ッ、嫌ァァ──ッ!」
つんざくような女の悲鳴が聞こえた。途端に空気が張り詰め、桜司郎は声の方角を睨む。
「二人組になり、それぞれ小路を進みます。何か見付けたら、https://andreww.anime-navi.net/Entry/1/ https://fnetchat.com/read-blog/177789 https://johnsmith.blox.ua/2023/12/08/%e3%81%9d%e3%81%ae%e8%83%8c%e3%81%ab%e5%90%91%e3%81%8b%e3%81%a3%e3%81%a6%e6%8a%95%e3%81%92%e3%82%89%e3%82%8c%e3%81%9f/ 笛を吹いて合図をして下さい」
その指揮を聞いた隊士達はさっさと二人組を作ると、それぞれ駆けていった。桜司郎は山野と組み、同じように狭い小路を進んでいく。
「──桜司郎、こっちだ!血の臭いがするぜ」
鼻の良い山野が何かを嗅ぎ付けたため着いていくと、そこには短刀を手にした男と、刺された女が倒れていた。山野は手にした笛を吹く。
桜司郎は素早く刀を抜きながら、男の動向を見た。
「新撰組です。神妙にしなさい。……八十八君、倒れている人の確認をお願い。まだ息があるなら、集まった隊士と一緒に運んで頂戴」
「応!」
その隙に、山野が女の元へ駆け寄る。桜司郎は二人と男の間に身を滑り込ませた。炯々とした目付きと、隙の無い構えで男を牽制する。
「し、新撰組……。分かった、新撰組に敵うとは思っとらん……。はよ連れてっとくれやす」
男は直ぐにだらりと項垂れ、存外に抵抗をしなかった。それに驚きながら、桜司郎は捕縛用の縄を取り出すと男の方へ向かう。
「桜司郎ッ!!!こ、この女……!」
その時、倒れた女を確認している筈の山野から悲鳴に近い声が聞こえた。
「何?」
「間違いねえ、だ!」
「──え?」
桜司郎はそれに気を取られ、殺気を弱める。その上、男が未だに短刀を手から離していなかったことに気付いていなかった。 その瞬間である。男は不敵な笑みを浮かべて顔を上げた。
「アンタらが……アンタらが居らんかったら!!!この女は俺のモンやったんやッ!去ねェ、壬生狼ォ!」
──しまった!
男は短刀を構え直すと、桜司郎の懐へ飛び込んだ。何とか避けようと身体を逸らすも、距離が近すぎる上に気怠さのせいか躱しきれずに、切っ先が右脇腹を掠める。
「ぅグッ!」
唸るような声と共に、ぽたぽたと血痕が静かに散った。
「桜司郎ッ!!」
山野の声が聞こえたが、大丈夫だと返す。
焼け付くような久方ぶりのその感覚に顔を歪めながらも、男の手首を掴んでは捻り上げた。短刀が地面へ落ちるのを確認すると、自身の刀の柄で男の後頭部を殴る。
身体中の熱が傷口へ集まり、じわりと血液が体外へ出て行くのを感じながら、前のめりに倒れた男に馬乗りになった。そして手を後ろに交差する形で今度こそ縛り上げる。
そこへ山野が駆け寄ってきた。
「桜司郎、どこをやられた!?すまねえ、俺が声を掛けたばかりに……ッ」
「……違う、八十八君のせいじゃない。私が、油断していた……」
脇腹へ手を当てながら、男の上から退くと座り込む。目の前に落ちている短刀を拾い上げ、月光へ翳した。ぬらぬらと血に濡れたそれは、随分と手入れのされていない、切れ味の悪い錆のある
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2023年12月04日
「松原さんは一命を取り留めました。
「松原さんは一命を取り留めました。しかし、腹の傷が随分汚いと聞きます。死んでもおかしくはないでしょう。このまま逃げて、貴女は後悔しませんか」
「それは……」
「思うところが有るのなら、直接聞けば良いんです。それすら出来なくなってしまえば、悔いが残る」
そう言いながら沖田は、優しく微笑む山南のことを思い出していた。本当は聞きたいことがあったが、もうそれは叶わない。そのような思いを桜司郎にして欲しくないと思った。
それでも桜司郎の瞳には迷いが残る。https://blog.udn.com/79ce0388/180127266 https://freelancer.anime-voice.com/Entry/63/ https://ypxo2dzizobm.blog.fc2.com/blog-entry-66.html 沖田は立ち上がり、桜司郎の前に立つとその両肩を掴んだ。
「しっかりしなさい。貴女はもう武士なのですよ。その覚悟を忘れましたか!」
沖田の言葉は心に深く刺さる。桜司郎は何度も首を横に振った。
「昨日の仲間が今日居なくなっていることなんて、これから先多くあるでしょう。……私だって、いつ死ぬか分からない。貴女はそれでも前を向いて歩かなければならない。そういった道を、自ら進むことを選んだんだ」
どれだけ寂しくても、苦しくても。前を向き続けなければならない。振り返ることは許されない。消えそうな灯火を前にしても、誇りを持って平然といなければならない。
それが武士なのだと沖田の目が語る。それを見詰めながら、桜司郎は鳥肌が立つのを感じた。同時に、馴れ合いばかりで覚悟が緩んでいた自分を恥じる。
──ここは武士が集う場所なのだ。友達ごっこの場所ではない。何故、私はそのような事すら忘れていたのだろう。
「……ごめん、なさい。私の、覚悟が……足りませんでした。もう大丈夫です」
桜司郎は目元を拭うと、立ち上がった。そして西本願寺に向かって歩き始める。小雨は止んでいた。
世話の焼ける弟を持ったものだと沖田は口角を上げた。不意に込み上げてくる咳を堪えつつ、この命が尽きるまでにどれだけの事を与えられるのだろうかと沖田は遠ざかる背を見る。
屯所へ戻った桜司郎は、沖田と共に真っ先に松原の休む部屋へ向かった。そこには山野と馬越の姿はもう無い。
薄暗い部屋の真ん中で横たわる松原は、目元は薄らと痩せ窪み、生気を失っていた。その姿を見るとまた目に涙が浮かぶ。
「忠さん……」
そう呼び掛ける声は震えていた。横に座り、手を取るとそっと握る。その刺激で松原はゆっくりと開眼した。腹部が痛むのか、顔を歪める。
「忠さん、忠さん……ッ」
「鈴さん、か?」
弱々しい声に涙腺を緩ませると、桜司郎は肩を震わせた。
「なんで、何で……自害なんて……ッ!」
「……済まんかったなァ。魔が差したんや、死に損なってもうたわ」
軽口のように松原は笑う。桜司郎の横に沖田が座った。そして真剣な表情で口を開く。
「松原さん、貴方へ短刀を渡した人は誰ですか。何でも良いので、思い出して下さい」
「あれは……ワシが持ってきて欲しいと頼んだのや。せやから、」
「いいえ。どうもこの流れはきな臭い。隊内に不穏分子がいるのなら、断たねばなりません」
そこまで言うと、沖田はシッと人差し指を立てた。
「……そこに居るのは誰です!」
沖田は外を睨み付ける。目配せされた桜司郎は弾かれたように立ち上がると、障子を開け放つ。だがそこには既に人影は無かった。
柱の影に隠れながら、盗み聞きをしていた人物が歯噛みをする。
「……死に損ないが。これは探られると不味いな」
「それは……」
「思うところが有るのなら、直接聞けば良いんです。それすら出来なくなってしまえば、悔いが残る」
そう言いながら沖田は、優しく微笑む山南のことを思い出していた。本当は聞きたいことがあったが、もうそれは叶わない。そのような思いを桜司郎にして欲しくないと思った。
それでも桜司郎の瞳には迷いが残る。https://blog.udn.com/79ce0388/180127266 https://freelancer.anime-voice.com/Entry/63/ https://ypxo2dzizobm.blog.fc2.com/blog-entry-66.html 沖田は立ち上がり、桜司郎の前に立つとその両肩を掴んだ。
「しっかりしなさい。貴女はもう武士なのですよ。その覚悟を忘れましたか!」
沖田の言葉は心に深く刺さる。桜司郎は何度も首を横に振った。
「昨日の仲間が今日居なくなっていることなんて、これから先多くあるでしょう。……私だって、いつ死ぬか分からない。貴女はそれでも前を向いて歩かなければならない。そういった道を、自ら進むことを選んだんだ」
どれだけ寂しくても、苦しくても。前を向き続けなければならない。振り返ることは許されない。消えそうな灯火を前にしても、誇りを持って平然といなければならない。
それが武士なのだと沖田の目が語る。それを見詰めながら、桜司郎は鳥肌が立つのを感じた。同時に、馴れ合いばかりで覚悟が緩んでいた自分を恥じる。
──ここは武士が集う場所なのだ。友達ごっこの場所ではない。何故、私はそのような事すら忘れていたのだろう。
「……ごめん、なさい。私の、覚悟が……足りませんでした。もう大丈夫です」
桜司郎は目元を拭うと、立ち上がった。そして西本願寺に向かって歩き始める。小雨は止んでいた。
世話の焼ける弟を持ったものだと沖田は口角を上げた。不意に込み上げてくる咳を堪えつつ、この命が尽きるまでにどれだけの事を与えられるのだろうかと沖田は遠ざかる背を見る。
屯所へ戻った桜司郎は、沖田と共に真っ先に松原の休む部屋へ向かった。そこには山野と馬越の姿はもう無い。
薄暗い部屋の真ん中で横たわる松原は、目元は薄らと痩せ窪み、生気を失っていた。その姿を見るとまた目に涙が浮かぶ。
「忠さん……」
そう呼び掛ける声は震えていた。横に座り、手を取るとそっと握る。その刺激で松原はゆっくりと開眼した。腹部が痛むのか、顔を歪める。
「忠さん、忠さん……ッ」
「鈴さん、か?」
弱々しい声に涙腺を緩ませると、桜司郎は肩を震わせた。
「なんで、何で……自害なんて……ッ!」
「……済まんかったなァ。魔が差したんや、死に損なってもうたわ」
軽口のように松原は笑う。桜司郎の横に沖田が座った。そして真剣な表情で口を開く。
「松原さん、貴方へ短刀を渡した人は誰ですか。何でも良いので、思い出して下さい」
「あれは……ワシが持ってきて欲しいと頼んだのや。せやから、」
「いいえ。どうもこの流れはきな臭い。隊内に不穏分子がいるのなら、断たねばなりません」
そこまで言うと、沖田はシッと人差し指を立てた。
「……そこに居るのは誰です!」
沖田は外を睨み付ける。目配せされた桜司郎は弾かれたように立ち上がると、障子を開け放つ。だがそこには既に人影は無かった。
柱の影に隠れながら、盗み聞きをしていた人物が歯噛みをする。
「……死に損ないが。これは探られると不味いな」
Posted by beckywong at
19:01
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