2024年03月11日

「戻りましょっか。

「戻りましょっか。連れて来てくれてありがとうございます。」


三津はゆっくり腰を上げてぺこりと頭を下げた。


「俺はついて来ただけだよ。三津が迷い無くここに来れたからね。」


吉田はきゅっと口角を上げた。
帰ったら桂は三津を連れ出した事にどんな態度を見せるだろうか。


「急に出掛けたから小五郎さん怒ってますかね。」


不安そうに問われた吉田は首を横に振る。https://classic-blog.udn.com/3bebdbf2/180361485 https://carinaa.blog.shinobi.jp/Entry/3/ https://ypxo2dzizobm.blog.fc2.com/blog-entry-85.html

「もし不機嫌だったとしても,仕方ないじゃない新ちゃんに会いたかったんだからって言ってみな。黙り込むから。」


意地悪く笑みを浮かべ喉を鳴らした。三津は流石にそれはと苦笑した。


「会いたくなったのは事実だし言っても問題ないだろ。たまには自分自身を守れよ。」


『自分自身を守るか。』


三津はそれもそうかと納得した。もし,帰ってからチクチクと小言を言われたら言ってみようと思った。
こっちの気も知らないで言われっぱなしも癪なので,めそめそするくらいなら噛みついてやろうと意気込んだ。


「まぁ怒られたくないなら今日は帰らずどこかで一晩過ごすって手もあるけど。」


「そっちの方が怒られますから。」


「三津と一晩過ごせるなら怒られたって平気だね。」


だから私は平気じゃない。嫌だとぶんぶん首を横に振るが何故か吉田にがっちり肩を抱かれていた。肩を抱かれ身を寄せ合う形になっているのは何故なんだ。


「吉田さん歩きにくいんですけど。」


「そう?その方が好都合だね。俺はまだ三津との時間をゆっくり過ごしたい。」


「私だってゆっくり三津と過ごしたい。勝手な真似はやめろ稔麿。」


割って入ってきた声の方へ二人はゆっくり顔を向けると,肩で息をしながらも涼しい顔をした桂が凛々しい目でこちらを睨んでいた。


「流石にここは知ってましたか。」


それでもここへ来るのは想定外だったと吉田は目を丸くした。


「甘く見ないでもらいたいね。」


以前女将から聞いたと言う伊藤から聞いて知っていたと言うのは黙っておこう。その方が格好がつく。
片口を上げて笑い,三津の事なら何でも知ってるような雰囲気を醸し出した。


「三津,今日は帰ろう。また桜が咲いたら一緒に来よう。」


「そうですね。そうしましょう。」


藩邸を飛び出す原因となったのは桂だがその本人がこんなにも慌てた感じで迎えに来てくれたのだ。嬉しくてにやける。吉田はそれが面白くない。またいい所で邪魔された。


「本当に手のかかる姫だよね。」


その腹いせに三津の額を指で思いきり弾いた。


「ったぁ!」


三津はこの仕打ちにギロリと上目で睨んだがそれ以上の鋭い目で睨み返されて硬直した。


「いきなり新ちゃんとこ行くって喚き散らして俺に連れてけって駄々こねたのは何処の誰だ?
それで迎えが来たからご機嫌で帰る?これは相応の対価払ってもらわないと割に合わないんだけど?ん?」


『なるほど。何があったか分からんがそう言う事か。』


三津の姿が見えないから探し回って久坂から“稔麿と出掛けました”と言われ,吉田が勝手に連れ出したと思い込んでいた。


「何故私に声をかけなかったんだ。」


まさか自分のせいでこうなってると思わない桂は純粋に疑問を三津にぶつけた。


「えっとそれは……。」


部屋でサヤと二人で話してたのを盗み聞きした挙句,勝手に嫉妬してこうなったとは恥ずかしくて言えない。
いい言い訳も思いつかず三津はちらりと視線を吉田に向けた。


「んっとに手のかかる……。昼寝して夢枕に新ちゃんが立ったそうです。動揺して部屋を飛び出したとこに俺がたまたま通りかかったからこうなったんです。」


吉田はすらすらと嘘を並べた。これで貸しは倍になったぞと横目で三津を睨んだ。三津はか細い声ですみませんと呟いた。


「お礼はまた何かの形で返させていただきます……。」


あえて“形”と言って何かお詫びの品で済まそうと思ったが吉田はそれで許しちゃくれない。


「何言ってんの?気持ちで返してよ。ねぇ桂さん今晩だけ三津借りていい?変なことしないから。」


「却下。」


「じゃあその“形”とやらを自分で選ぶから一日三津を連れ出していい?」



Posted by beckywong at 18:04│Comments(0)
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