2023年11月15日
さん。見ちょったんなら
さん。見ちょったんなら、手ェ貸してくれてもええじゃろう」
「生憎だが、私は争い事は好まないからね。……そこの君、少し晋作を借りても良いかな?」
人の良さそうな笑みを浮かべつつも、有無を言わさないような気迫を纏うそれに桜花は頷く。桂と呼ばれた男は高杉を伴うと小路へ入って行った。 スタスタと歩みを進める桂という男の背を追い掛けつつ、高杉は声を上げる。
「桂さん、何処まで行く。あの場を離れよるなら、桜花も連れて──」
「晋作。何故、京に居るのだ。噂には聞いていたが、本当に脱藩したというのかい」
桂はピタリと足を止めると、https://blog.udn.com/a440edbd/180033083 https://mathew.blog.shinobi.jp/Entry/1/ https://mathewanderson.blog.fc2.com/blog-entry-1.html 咎めるような視線を高杉へと向けた。
すると高杉は分が悪そうに視線を逸らす。
「桂さんと久坂らに会おう思うての。不幸中の幸いじゃ、探す手間が省けた」
「まさか、その為にあのような往来で暴れたのかい?呆れた……」
「流石にそねえな真似はせん。無粋な輩に腹が立ってのう。桂さん、此処で待っちょってつかあさい。桜花を呼んで来るけえ」
そう言いながらを返そうとする高杉の肩を桂は掴んだ。
「待て。桜花、とはあの若い侍のことかい?何処の藩のものだ」
「身元は知らん。天狗に攫われた哀れな者じゃ」
天狗などという別次元の話しが出てきたことに、桂はポカンとする。肩を掴む力が弱まったところで振りほどき、高杉は小路から出ようとした。
だが、その足は止まる。忌々しげに目を細めた。その視線の先には色の下地に、袖には白の山型をあしらった鮮やかな羽織を纏った男達がいる。まさに此方へ向かってくるところだった。
高杉に追い付いた桂はその横から表の様子を見ると、声を顰めて高杉へ耳打ちをする。
「──新撰組だ。高杉、逃げる準備をしよう」
「あれが噂の会津の駒か。酔狂な羽織じゃのう。高みの見物と洒落込みたいが、桜花を一人捨て置けん」
だが、ザンギリ頭の高杉は間違いなく目立つ。そして長州の訛りが強すぎるため、身分を誤魔化しきれない。
どうしたものかと考えねていると桂が再度高杉の肩を叩く。
「高杉は先に行っちょってくれ。三条大橋付近の池田屋で落ち合おう。長州の桂と名を出してくれれば良い」
「じゃが、桂さん」
「あの男の事は任せてくれ。私に案がある」
桂はそれだけ言うと何処かへ駆け出した。自身に方法が無いことが分かっているため、桂に任せることとし高杉は池田屋を目指して駆ける。 一方で、桜花は町人らと協力して浪士を縄で絡げていた。礼を述べてくる茶屋の娘や他の町人と談笑しつつ、高杉が一向に戻らないことに内心焦りが募る。その時だった。
「アッ、壬生浪や」
町人の声に桜花は首を捻ってそちらを見やる。野次馬を退けながら、浅葱色の派手な羽織を棚引かせた男達が数人向かってくるのが見えた。
荒々しさや勇ましさを体現化したような風貌、とした目付き、威風堂々とした彼らに桜花は動けずにいる。
──空気が違う。重くて苦しい。けれど、鮮やかで眩しい……
「我々はである。治安を脅かす不逞浪士共、神妙にしろッ!」
新撰組と名乗る男たちはそう声高々に言い放った。身体の底から震え上がってしまうような気迫が彼らにはあり、桜花は思わず唾を飲む。
『……まあ、捕まると面倒なことは変わりないのう』
先程の高杉の忠告が頭を巡るのと同時に、危険だと本能が告げている。だが、彼らから目を離せずにいた。
「生憎だが、私は争い事は好まないからね。……そこの君、少し晋作を借りても良いかな?」
人の良さそうな笑みを浮かべつつも、有無を言わさないような気迫を纏うそれに桜花は頷く。桂と呼ばれた男は高杉を伴うと小路へ入って行った。 スタスタと歩みを進める桂という男の背を追い掛けつつ、高杉は声を上げる。
「桂さん、何処まで行く。あの場を離れよるなら、桜花も連れて──」
「晋作。何故、京に居るのだ。噂には聞いていたが、本当に脱藩したというのかい」
桂はピタリと足を止めると、https://blog.udn.com/a440edbd/180033083 https://mathew.blog.shinobi.jp/Entry/1/ https://mathewanderson.blog.fc2.com/blog-entry-1.html 咎めるような視線を高杉へと向けた。
すると高杉は分が悪そうに視線を逸らす。
「桂さんと久坂らに会おう思うての。不幸中の幸いじゃ、探す手間が省けた」
「まさか、その為にあのような往来で暴れたのかい?呆れた……」
「流石にそねえな真似はせん。無粋な輩に腹が立ってのう。桂さん、此処で待っちょってつかあさい。桜花を呼んで来るけえ」
そう言いながらを返そうとする高杉の肩を桂は掴んだ。
「待て。桜花、とはあの若い侍のことかい?何処の藩のものだ」
「身元は知らん。天狗に攫われた哀れな者じゃ」
天狗などという別次元の話しが出てきたことに、桂はポカンとする。肩を掴む力が弱まったところで振りほどき、高杉は小路から出ようとした。
だが、その足は止まる。忌々しげに目を細めた。その視線の先には色の下地に、袖には白の山型をあしらった鮮やかな羽織を纏った男達がいる。まさに此方へ向かってくるところだった。
高杉に追い付いた桂はその横から表の様子を見ると、声を顰めて高杉へ耳打ちをする。
「──新撰組だ。高杉、逃げる準備をしよう」
「あれが噂の会津の駒か。酔狂な羽織じゃのう。高みの見物と洒落込みたいが、桜花を一人捨て置けん」
だが、ザンギリ頭の高杉は間違いなく目立つ。そして長州の訛りが強すぎるため、身分を誤魔化しきれない。
どうしたものかと考えねていると桂が再度高杉の肩を叩く。
「高杉は先に行っちょってくれ。三条大橋付近の池田屋で落ち合おう。長州の桂と名を出してくれれば良い」
「じゃが、桂さん」
「あの男の事は任せてくれ。私に案がある」
桂はそれだけ言うと何処かへ駆け出した。自身に方法が無いことが分かっているため、桂に任せることとし高杉は池田屋を目指して駆ける。 一方で、桜花は町人らと協力して浪士を縄で絡げていた。礼を述べてくる茶屋の娘や他の町人と談笑しつつ、高杉が一向に戻らないことに内心焦りが募る。その時だった。
「アッ、壬生浪や」
町人の声に桜花は首を捻ってそちらを見やる。野次馬を退けながら、浅葱色の派手な羽織を棚引かせた男達が数人向かってくるのが見えた。
荒々しさや勇ましさを体現化したような風貌、とした目付き、威風堂々とした彼らに桜花は動けずにいる。
──空気が違う。重くて苦しい。けれど、鮮やかで眩しい……
「我々はである。治安を脅かす不逞浪士共、神妙にしろッ!」
新撰組と名乗る男たちはそう声高々に言い放った。身体の底から震え上がってしまうような気迫が彼らにはあり、桜花は思わず唾を飲む。
『……まあ、捕まると面倒なことは変わりないのう』
先程の高杉の忠告が頭を巡るのと同時に、危険だと本能が告げている。だが、彼らから目を離せずにいた。
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03:31
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2023年11月15日
『月日と共に色褪せていく思い
『月日と共に色褪せていく思い出たち。時の流れには逆らえず。
帰りたい温もりはいつしか記憶から消えていきました』「一体うんじゃ。しっかりせい」
何とか高杉に支えられて立ち上がった桜花は、うわの空だった。顔色は悪く、何かに怯えているようにも見える。まさに挙動不審という言葉が正しい。
幸いにして人通りは少なかったが、近くを通る町人は物珍しそうに、あるいは訝しげに二人を横目で見ていた。
桜花はやっとの思いで口を開く。だが、その声は情けないほどに掠れ、震えていた。
「高杉さん……ほ、本当に此処は京都ですか。何かの撮影じゃ……」
「何言うちょる、紛うことなき京じゃろう。さつえい、とは何じゃ?」
「だって……。だって、こんなの、」
遠い昔の日本のようだと口にしかけて閉口する。https://mathewanderson.blog-mmo.com/Entry/1/ https://carinacyril786.blog.fc2.com/blog-entry-1.html https://johnsmith786.mystrikingly.com/blog/ceb71a575ce ふと、藤の言葉が脳裏に浮かんだ。
『それって、神隠しか……はたまたじゃないか?』
それを言われた時は半信半疑で聞いていた。そのような事ある訳が無いと心のどこかでバカにしていたのかもしれない。何処のおとぎ話だと思っていた。だが、この光景を目の当たりにすると、途端にその話に信憑性が出てくる。
「あの、高杉さん。今は……何年でしょうか」年間じゃ。先程からどねえした、可笑しいぞ」
元治年間がいつを指すかは分からないが、少なくとも元いた時代では無いことだけは分かる。そして高杉の声色は真剣そのもので、冗談を言っているようには見えない。それがより桜花を絶望の淵へ追い込んだ。
──もう帰れない。帰る場所がない。
──どうしよう、どうしよう。どうすればいい。
すっかり黙りこくってしまった桜花の顔を高杉が覗き込む。ささくれだった指がその頬を摘んだ。その刺激でハッと我に返る。
そして目に薄らと張った涙の膜がじわりと厚みを増し、瞬きと共に高杉の指へ伝った。
「高、杉さ……。どうしよう。私は、どうすれば、」
それを見た高杉は周囲を見渡すと、桜花の腕を掴んで人気のないそこらの神社へ向かう。そして境内にある適当な岩の上へ座らせた。
「何があった、落ち着いて話してみい」
「此処は……、私の知る京都じゃないんです」
無論、その面影は残っている。だが、殆ど別物と言っても過言では無かった。
「まさか……。ほんまに天狗攫いに?僕が言い出したんじゃが、ありゃあものじゃと思うちょった」
高杉はジッと桜花の目を見る。琥珀色の瞳は怯えており、嘘を吐いているようには見えなかった。
「本当です、本当に知らないところなんです。信じて下さい……!」
「待て待て、誰も信じんとは言うちょらんじゃろう。京のことだけか?それとも今の世のことも分からんのか?」
その問い掛けに、桜花は俯く。ただ分かりません、と呟いた。
「今は徳川幕府の治世じゃ。っと、これくらいは分かるかのう。ペルリが浦賀に来たのは知っちょるか?」
その言葉を聞き、桜花は顔を上げる。徳川、ペルリ。歴史に詳しくない桜花でも、流石にこの単語は分かった。そして、それらからここが江戸時代であるということを察する。
その様子を見た高杉は、肯定と判断した。
「知っちょるようじゃな。ちゅうことは、長い間攫われちょった気はせんのう。ただ混乱しちょるのか、それとも天狗さんに記憶を取られてしもうたのか……」
高杉はあくまでも天狗の仕業だと思っており、嘘だと言ってこない。桜花にとってはそれが救いだった。
「夢……、これは夢でしょうか。こんなことって、」
「とりあえず家じゃ。住んじょった家、分かるか?」
「多分。でも絶対に無いです」
「それでも行くぞ。自分の目で見て、納得せんことには悔いが残るけえ」
その言葉に、桜花は瞳を揺らす。もはや帰る場所は無いと分かっていても、僅かな希望を信じたくて頷いた。
帰りたい温もりはいつしか記憶から消えていきました』「一体うんじゃ。しっかりせい」
何とか高杉に支えられて立ち上がった桜花は、うわの空だった。顔色は悪く、何かに怯えているようにも見える。まさに挙動不審という言葉が正しい。
幸いにして人通りは少なかったが、近くを通る町人は物珍しそうに、あるいは訝しげに二人を横目で見ていた。
桜花はやっとの思いで口を開く。だが、その声は情けないほどに掠れ、震えていた。
「高杉さん……ほ、本当に此処は京都ですか。何かの撮影じゃ……」
「何言うちょる、紛うことなき京じゃろう。さつえい、とは何じゃ?」
「だって……。だって、こんなの、」
遠い昔の日本のようだと口にしかけて閉口する。https://mathewanderson.blog-mmo.com/Entry/1/ https://carinacyril786.blog.fc2.com/blog-entry-1.html https://johnsmith786.mystrikingly.com/blog/ceb71a575ce ふと、藤の言葉が脳裏に浮かんだ。
『それって、神隠しか……はたまたじゃないか?』
それを言われた時は半信半疑で聞いていた。そのような事ある訳が無いと心のどこかでバカにしていたのかもしれない。何処のおとぎ話だと思っていた。だが、この光景を目の当たりにすると、途端にその話に信憑性が出てくる。
「あの、高杉さん。今は……何年でしょうか」年間じゃ。先程からどねえした、可笑しいぞ」
元治年間がいつを指すかは分からないが、少なくとも元いた時代では無いことだけは分かる。そして高杉の声色は真剣そのもので、冗談を言っているようには見えない。それがより桜花を絶望の淵へ追い込んだ。
──もう帰れない。帰る場所がない。
──どうしよう、どうしよう。どうすればいい。
すっかり黙りこくってしまった桜花の顔を高杉が覗き込む。ささくれだった指がその頬を摘んだ。その刺激でハッと我に返る。
そして目に薄らと張った涙の膜がじわりと厚みを増し、瞬きと共に高杉の指へ伝った。
「高、杉さ……。どうしよう。私は、どうすれば、」
それを見た高杉は周囲を見渡すと、桜花の腕を掴んで人気のないそこらの神社へ向かう。そして境内にある適当な岩の上へ座らせた。
「何があった、落ち着いて話してみい」
「此処は……、私の知る京都じゃないんです」
無論、その面影は残っている。だが、殆ど別物と言っても過言では無かった。
「まさか……。ほんまに天狗攫いに?僕が言い出したんじゃが、ありゃあものじゃと思うちょった」
高杉はジッと桜花の目を見る。琥珀色の瞳は怯えており、嘘を吐いているようには見えなかった。
「本当です、本当に知らないところなんです。信じて下さい……!」
「待て待て、誰も信じんとは言うちょらんじゃろう。京のことだけか?それとも今の世のことも分からんのか?」
その問い掛けに、桜花は俯く。ただ分かりません、と呟いた。
「今は徳川幕府の治世じゃ。っと、これくらいは分かるかのう。ペルリが浦賀に来たのは知っちょるか?」
その言葉を聞き、桜花は顔を上げる。徳川、ペルリ。歴史に詳しくない桜花でも、流石にこの単語は分かった。そして、それらからここが江戸時代であるということを察する。
その様子を見た高杉は、肯定と判断した。
「知っちょるようじゃな。ちゅうことは、長い間攫われちょった気はせんのう。ただ混乱しちょるのか、それとも天狗さんに記憶を取られてしもうたのか……」
高杉はあくまでも天狗の仕業だと思っており、嘘だと言ってこない。桜花にとってはそれが救いだった。
「夢……、これは夢でしょうか。こんなことって、」
「とりあえず家じゃ。住んじょった家、分かるか?」
「多分。でも絶対に無いです」
「それでも行くぞ。自分の目で見て、納得せんことには悔いが残るけえ」
その言葉に、桜花は瞳を揺らす。もはや帰る場所は無いと分かっていても、僅かな希望を信じたくて頷いた。
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2023年11月15日
部屋の中から外を見ていると
部屋の中から外を見ていると、着流し姿の男が戻ってきた。手にはがあり、それを桜花へ投げる。
くと、風邪引くけえ。……で、君は何者なんじゃ」
怒ったり心配したり忙しい男だと思いつつ、桜花はそれを肩に掛けた。二人は向かい合うようにして座る。男は腕を組みながら見定めるような視線を桜花へ向ける。
その威圧感に桜花は居た堪れない気持ちで肩を竦めた。
「その、鈴木桜花と言います。京都に住んでいて、お祓いの為にこの山に来たのですが……」
言葉を紡ぎながら、桜花は此処に来るまでの記憶を遡る。
そこへスッと襖が開き、隣の部屋から藤が現れた。
「おや。二人とも早いじゃないか。その話し、私も聞かせて貰おうか。今朝は冷える、茶を淹れようかね」
藤の促しにより、二人は囲炉裏の前に座る。https://blog.udn.com/3bebdbf2/180032655 https://carinaa.blog.shinobi.jp/Entry/1/ https://johnsmith786.blog.fc2.com/blog-entry-1.html 湯気の立つ湯呑みがそれぞれの前に置かれた。男の促しにより、先程の話しの続きになる。
「……季節は夏だったのです。山を登っていると鳥居があって。それを潜った途端に霧が出て来たような気がします……。それで、お坊さんに話し掛けられて……。そうだ、崖があって……」
話すうちに桜花は口ごもった。あの時崖から落ちた筈なのに、何故怪我一つせずにこうして生きているのかと疑問に思う。
「崖かい?山だから何処かにはあるだろうが、桜花が倒れていた場所には無かった筈だよ」
藤の言葉に、そんなと桜花は声を漏らした。確かに足を滑らせたのだ。今でもあのヒヤリとした感覚は覚えている。
それらを聞いていた男は冗談だと笑うこともなく、真面目な表情になった。
「それって、神隠しか……はたまたじゃないか?」
「神隠し……天狗攫い?」
古来から、子どもが忽然と姿を消すことがある。それは神隠しだったり、天狗に攫われたと言われている。非科学的だが、伝説のように信じられていた。
「それはあるやも知れないね」
「……そんな。そんな事って……」
桜花は苦笑いを浮かべるが、男は神妙な顔付きを崩さない。
「天狗小僧って聞いたこたぁないか?という国学者が本を出しちょったんじゃが」
「私は知っているよ。江戸に住んでいたからね。天狗に攫われた寅吉、だろう?」
男と藤は心当たりがあるようだが、桜花にはさっぱり何のことだか分からなかった。だが、二人が示し合わせて冗談を言っているようにも見えない。
神隠しなんて、ただの作り話かと思っていたのにと顔を引き攣らせた。
「じゃあ、ここは京都では無いのですか?」
「いや、京の外れの山だよ。降りればさ」
市井、つまり市街地を指す。山を降りれば家に帰れると桜花は安堵の息を吐いた。
「よ、良かったぁ……。それなら、私帰ります。学校もあるし、バイトだって……」
「学校?藩校のことか?は通えんじゃろうて。ばいと、とは何じゃ?」
訝しげに男は桜花を見る。女だから通えないというのはいつの時代の考え方だと心の中で思いつつ、桜花は閉口した。また激昂されたらたまったもんじゃないと思ったのだ。
「とにかく、帰らなきゃ……。助けて頂き、有難うございました。また御礼に伺います。……あの、私の元々着ていた服はどちらに……」
腰を浮かせながらそう問い掛けると、藤は近くにあった風呂敷を差し出す。桜花はそれを手に取った。
を修めちょるよ」
「流派……?それは分かりませんが……。貴方も剣道をされるのですね」
「僕ァ、これでも武士じゃ。といっても、脱藩したけぇ今はただの浪人じゃが」
男の発言に桜花は耳を疑った。
──この人、武士って言った?一体何を言っているのだろう。やっぱり変な人なんだ。
「そ、そうなんですね」
「やはりそうだったのかい。
くと、風邪引くけえ。……で、君は何者なんじゃ」
怒ったり心配したり忙しい男だと思いつつ、桜花はそれを肩に掛けた。二人は向かい合うようにして座る。男は腕を組みながら見定めるような視線を桜花へ向ける。
その威圧感に桜花は居た堪れない気持ちで肩を竦めた。
「その、鈴木桜花と言います。京都に住んでいて、お祓いの為にこの山に来たのですが……」
言葉を紡ぎながら、桜花は此処に来るまでの記憶を遡る。
そこへスッと襖が開き、隣の部屋から藤が現れた。
「おや。二人とも早いじゃないか。その話し、私も聞かせて貰おうか。今朝は冷える、茶を淹れようかね」
藤の促しにより、二人は囲炉裏の前に座る。https://blog.udn.com/3bebdbf2/180032655 https://carinaa.blog.shinobi.jp/Entry/1/ https://johnsmith786.blog.fc2.com/blog-entry-1.html 湯気の立つ湯呑みがそれぞれの前に置かれた。男の促しにより、先程の話しの続きになる。
「……季節は夏だったのです。山を登っていると鳥居があって。それを潜った途端に霧が出て来たような気がします……。それで、お坊さんに話し掛けられて……。そうだ、崖があって……」
話すうちに桜花は口ごもった。あの時崖から落ちた筈なのに、何故怪我一つせずにこうして生きているのかと疑問に思う。
「崖かい?山だから何処かにはあるだろうが、桜花が倒れていた場所には無かった筈だよ」
藤の言葉に、そんなと桜花は声を漏らした。確かに足を滑らせたのだ。今でもあのヒヤリとした感覚は覚えている。
それらを聞いていた男は冗談だと笑うこともなく、真面目な表情になった。
「それって、神隠しか……はたまたじゃないか?」
「神隠し……天狗攫い?」
古来から、子どもが忽然と姿を消すことがある。それは神隠しだったり、天狗に攫われたと言われている。非科学的だが、伝説のように信じられていた。
「それはあるやも知れないね」
「……そんな。そんな事って……」
桜花は苦笑いを浮かべるが、男は神妙な顔付きを崩さない。
「天狗小僧って聞いたこたぁないか?という国学者が本を出しちょったんじゃが」
「私は知っているよ。江戸に住んでいたからね。天狗に攫われた寅吉、だろう?」
男と藤は心当たりがあるようだが、桜花にはさっぱり何のことだか分からなかった。だが、二人が示し合わせて冗談を言っているようにも見えない。
神隠しなんて、ただの作り話かと思っていたのにと顔を引き攣らせた。
「じゃあ、ここは京都では無いのですか?」
「いや、京の外れの山だよ。降りればさ」
市井、つまり市街地を指す。山を降りれば家に帰れると桜花は安堵の息を吐いた。
「よ、良かったぁ……。それなら、私帰ります。学校もあるし、バイトだって……」
「学校?藩校のことか?は通えんじゃろうて。ばいと、とは何じゃ?」
訝しげに男は桜花を見る。女だから通えないというのはいつの時代の考え方だと心の中で思いつつ、桜花は閉口した。また激昂されたらたまったもんじゃないと思ったのだ。
「とにかく、帰らなきゃ……。助けて頂き、有難うございました。また御礼に伺います。……あの、私の元々着ていた服はどちらに……」
腰を浮かせながらそう問い掛けると、藤は近くにあった風呂敷を差し出す。桜花はそれを手に取った。
を修めちょるよ」
「流派……?それは分かりませんが……。貴方も剣道をされるのですね」
「僕ァ、これでも武士じゃ。といっても、脱藩したけぇ今はただの浪人じゃが」
男の発言に桜花は耳を疑った。
──この人、武士って言った?一体何を言っているのだろう。やっぱり変な人なんだ。
「そ、そうなんですね」
「やはりそうだったのかい。
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02:47
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2023年11月10日
を地面に向けたままなに
を地面に向けたままなにも答えようとしない。
「副長、申し訳ございません。あなたが死にたがっていることは、理解しています。ですが、おれたちは近藤局長の厳命に逆らうことはできませんした」
俊冬は、俊春からを副長に向けていった。
「くそっ!どうせかっちゃんが、『歳を死なせるな』っていったんだろうが」
副長は、近藤局長のことをよくわかっているのである。「近藤局長は、厳密には『この後、歳は自身の死を目標にするであろう。だが、かようなことはくだらぬ目標だ。https://travelerbb2017.zohosites.com/ http://jeffrey948.eklablog.com/-a214973783 https://avisterry.futbolowo.pl/news/article/news-22 いかなるをつかってもいい。ぜったいに歳を死なせないでくれ。死ですべてを終わらせるのではなく、つぎにつなげられるようにしてほしい。これが、わたしの最期の願いだ』。そうおっしゃいました。こいつとおれは、その厳命にしたがっただけです。そして、近藤局長はあなたに伝言を託されました。『歳、生きよ。生きてさらにでかくて面白いことをせよ。死ぬはずだった総司や平助らとともにな。生き急ぐ必要などない。おまえから話をきくのを、源さんとともに愉しみにしているぞ。おお、そうだ。もう一つある。頼むから、天然理心流の名を汚すようなことはしてくれるな』とおっしゃいました。だから、あなたは生きなければなりません。死んではならないのです」
近藤局長が?
そういえば、板橋の刑場で近藤局長が俊冬と俊春になにかをいっていた。そのときのことを思いだした。
それにしても、近藤局長が天然理心流のことについてまで言葉を遺しているなんて……。
ビミョーすぎる。
副長も、そこはいろんな意味でスルーするに決まっている。
「副長。あなたのことは、井上先生からも託されているのです」
「源さんまで?」
京で戦死したは、近藤局長と副長にとっては兄貴分のような存在である。
かれが敵に撃たれて虫の息だったところを、俊冬がとどめをさした経緯がある。
「この大馬鹿野郎っ!かっちゃんにしろ源さんにしろ、おまえらにも死ぬなといったよな?かっちゃんは、おまえらも生き残れといったよな?おれの身代わりに死ねとは、厳命しなかったよな?」
副長はボロボロと涙を流しながら、両膝の上に抱く俊冬を責めた。
が、俊冬はなにも答えない。
かれが答えないということが、副長の問いを肯定しているようなものである。
「この大馬鹿野郎っ……、大馬鹿野郎がっ」
副長の暴言が、鼻をすすり上げる音や嗚咽にまじりあう。
副長の暴言通りである。
俊冬は、マジで大馬鹿野郎だ。
その上、やさしすぎるし不器用すぎる。
身勝手すぎだろうとも思う。
かれは、残される者のことをかんがえてはいない。いや、実際のところはかんがえている。
かれがかんがえていないのは、残される者たちの気持ちである。
俊春の、副長の、おれの、この場にいる全員の気持ちをすこしでもかんがえるならば、けっしてこんな結末にはならなかったはずだ。
撃たれたふりをするだけですんだのだ。
そう。撃たれたふりをすればよかったのだ。
「俊春、連中に「土方歳三の頸」をたたきつけてすごんでおけ。できるな?」
そのタイミングで、俊冬が俊春に命じた。
俊冬は、おれのだだもれの心を感じたのかもしれない。
かれのいう連中とは、榎本や大鳥ら箱館政権で生き残るお偉いさんたちのことにちがいない。
頸は、土方歳三が戦死したという決定的な証拠となる。
この大馬鹿野郎は、そこまでかんがえているわけである。
「わかっている。ちゃんとやるよ」
俊春がぶっきらぼうに答えた。
「ピーをちびらせるほどだぞ」
俊冬は、なにゆえかしつこい。
「だから、わかっているって」
俊春は、うんざりしている。
「なんなら、プーをもらすほどでもいい」
さらに念を押した。しかも、小学生レベルの発言である。
「わかっているって。ピーもプーももらしまくって、黒歴史を刻むほどびびらせまくるから」
俊春がついにキレた。
ってか俊冬、おまえマジで死ぬのか?
かれが本当に死ぬのか、だんだん疑わしくなってきた。
なにせ副長の遺伝子を継いでいる。しかも、の中で一番濃くである。
まさか、ドラマチックに盛り上がるための演出ってわけじゃないだろうな?
そう思いはじめた。
俊冬ならやりかねない。
かれなら平気でしそうだ。
それに、いつもだったらギャン泣きしそうな泣き虫わんこの俊春が、ちっとも泣いていないってこともある。
そう思いはじめると、なるほどそんな気になってくる。
おれだけではない。副長もふくめた全員が、「おや?」って表情になった。すると、しだいに涙が止まり、泣き声もやみはじめた。
「なんなら、そのお漏らしをネタに強請ってもいい」
俊冬は、まだつづけるつもりのようだ。
「だから、わかっているっていっているだろう?しつこいな。その話はもういいよ」
「そうか?残念だ」
俊春に叱られ、俊冬はほんのすこし傷ついたようである。
そして、かれは
「副長、申し訳ございません。あなたが死にたがっていることは、理解しています。ですが、おれたちは近藤局長の厳命に逆らうことはできませんした」
俊冬は、俊春からを副長に向けていった。
「くそっ!どうせかっちゃんが、『歳を死なせるな』っていったんだろうが」
副長は、近藤局長のことをよくわかっているのである。「近藤局長は、厳密には『この後、歳は自身の死を目標にするであろう。だが、かようなことはくだらぬ目標だ。https://travelerbb2017.zohosites.com/ http://jeffrey948.eklablog.com/-a214973783 https://avisterry.futbolowo.pl/news/article/news-22 いかなるをつかってもいい。ぜったいに歳を死なせないでくれ。死ですべてを終わらせるのではなく、つぎにつなげられるようにしてほしい。これが、わたしの最期の願いだ』。そうおっしゃいました。こいつとおれは、その厳命にしたがっただけです。そして、近藤局長はあなたに伝言を託されました。『歳、生きよ。生きてさらにでかくて面白いことをせよ。死ぬはずだった総司や平助らとともにな。生き急ぐ必要などない。おまえから話をきくのを、源さんとともに愉しみにしているぞ。おお、そうだ。もう一つある。頼むから、天然理心流の名を汚すようなことはしてくれるな』とおっしゃいました。だから、あなたは生きなければなりません。死んではならないのです」
近藤局長が?
そういえば、板橋の刑場で近藤局長が俊冬と俊春になにかをいっていた。そのときのことを思いだした。
それにしても、近藤局長が天然理心流のことについてまで言葉を遺しているなんて……。
ビミョーすぎる。
副長も、そこはいろんな意味でスルーするに決まっている。
「副長。あなたのことは、井上先生からも託されているのです」
「源さんまで?」
京で戦死したは、近藤局長と副長にとっては兄貴分のような存在である。
かれが敵に撃たれて虫の息だったところを、俊冬がとどめをさした経緯がある。
「この大馬鹿野郎っ!かっちゃんにしろ源さんにしろ、おまえらにも死ぬなといったよな?かっちゃんは、おまえらも生き残れといったよな?おれの身代わりに死ねとは、厳命しなかったよな?」
副長はボロボロと涙を流しながら、両膝の上に抱く俊冬を責めた。
が、俊冬はなにも答えない。
かれが答えないということが、副長の問いを肯定しているようなものである。
「この大馬鹿野郎っ……、大馬鹿野郎がっ」
副長の暴言が、鼻をすすり上げる音や嗚咽にまじりあう。
副長の暴言通りである。
俊冬は、マジで大馬鹿野郎だ。
その上、やさしすぎるし不器用すぎる。
身勝手すぎだろうとも思う。
かれは、残される者のことをかんがえてはいない。いや、実際のところはかんがえている。
かれがかんがえていないのは、残される者たちの気持ちである。
俊春の、副長の、おれの、この場にいる全員の気持ちをすこしでもかんがえるならば、けっしてこんな結末にはならなかったはずだ。
撃たれたふりをするだけですんだのだ。
そう。撃たれたふりをすればよかったのだ。
「俊春、連中に「土方歳三の頸」をたたきつけてすごんでおけ。できるな?」
そのタイミングで、俊冬が俊春に命じた。
俊冬は、おれのだだもれの心を感じたのかもしれない。
かれのいう連中とは、榎本や大鳥ら箱館政権で生き残るお偉いさんたちのことにちがいない。
頸は、土方歳三が戦死したという決定的な証拠となる。
この大馬鹿野郎は、そこまでかんがえているわけである。
「わかっている。ちゃんとやるよ」
俊春がぶっきらぼうに答えた。
「ピーをちびらせるほどだぞ」
俊冬は、なにゆえかしつこい。
「だから、わかっているって」
俊春は、うんざりしている。
「なんなら、プーをもらすほどでもいい」
さらに念を押した。しかも、小学生レベルの発言である。
「わかっているって。ピーもプーももらしまくって、黒歴史を刻むほどびびらせまくるから」
俊春がついにキレた。
ってか俊冬、おまえマジで死ぬのか?
かれが本当に死ぬのか、だんだん疑わしくなってきた。
なにせ副長の遺伝子を継いでいる。しかも、の中で一番濃くである。
まさか、ドラマチックに盛り上がるための演出ってわけじゃないだろうな?
そう思いはじめた。
俊冬ならやりかねない。
かれなら平気でしそうだ。
それに、いつもだったらギャン泣きしそうな泣き虫わんこの俊春が、ちっとも泣いていないってこともある。
そう思いはじめると、なるほどそんな気になってくる。
おれだけではない。副長もふくめた全員が、「おや?」って表情になった。すると、しだいに涙が止まり、泣き声もやみはじめた。
「なんなら、そのお漏らしをネタに強請ってもいい」
俊冬は、まだつづけるつもりのようだ。
「だから、わかっているっていっているだろう?しつこいな。その話はもういいよ」
「そうか?残念だ」
俊春に叱られ、俊冬はほんのすこし傷ついたようである。
そして、かれは
Posted by beckywong at
21:58
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