2024年01月30日

無茶をする桂を制止しきれなくて他

無茶をする桂を制止しきれなくて他の重役に叱責されたり,吉田の態度が悪いと何故か自分が怒鳴られたり,あぁしろこうしろと無理難題を押し付けられたり。


『あ,色々喋ってしまった…。』


桂や吉田に会った時に自分がこんな事言ってたと話すだろうか…。
上目で三津の様子を窺うと,


「伊藤さん大変なんやぁ…。吉田さんは誰に対してもそんなんなんや。」


桂さんが無茶するのは意外やわ。なんて言って笑っている。
第三者から聞く藩邸での様子は三津にとって新鮮で聞いていて楽しかった。


『この子他言しないな。』 https://www.evernote.com/shard/s514/sh/543e98ea-3ab4-122b-e4a3-6104217f3ec9/bBRV5P91yDNkfsK87lZxHLPQ-tmOyugcp_1IQhn_8nw3hjFUDzm_0s6E6g https://classic-blog.udn.com/3bebdbf2/180277094 https://classic-blog.udn.com/3bebdbf2/180277124


勘でそう思った。根拠はないが,妙な安心感を抱いた。
それからだ。三津と話すようになったのは。


今日は三津から返答をもらうように言伝てられている。帰りが遅くなっても咎められないと思ってついつい長居してしまった。


「そろそろ帰らないと怒られそうだな。あの今日は返事を…。難しいなら後日また伺いますが。」


後日と言ってくれた方がまた息抜きに来れるから有難いと思っていた。


「あ,えっとよろしくお願いしますとお伝え下さい。」


はにかみながらぺこりと頭を下げた。


『何がよろしくお願いしますなんだろうな。』


文の内容は知らないから,三津の返事から書かれてる事を想像するのだ。「分かりました,そう伝えますね。ではその文はいつも通りに…。」


最後にそれを言わなければならないのがいつも心苦しい。
文と言っても目立たない様に小さくちぎった紙切れに最小限の言葉を詰め込んでいる。


そんな紙でも二人のやり取りが知られない様に処分する約束になっている。


『愛しい人の手で書き記された文をきっと手元に残して置きたいだろうに。』


素直に"分かりました"と言うけれど,三津の目が悲しげに笑うから伊藤も少し心が痛む。


『嬉しそうに読む姿を桂さんに見せてあげたい。
吉田さんが見れば静かに怒り狂うかな。』


静かに怒り狂う姿を想像して身を震わせながら帰って行った。







夕餉の仕度をする時に三津は釜戸の火の中に文を放り込む。
ぱちぱちと音を立てながら燃えていくのをしゃがみ込んで見届ける。


『さて…どうしようかな…。』


火を見つめながら唸り声を上げた。
トキに頼み込まなければならない事が出来たのだけど三津にとっては厄介な事案なのだ。


『腹を括ろう…。』


三人で夕餉を囲みながら,三津はいつ切り出そうか考えていた。
ちらちらと功助とトキの様子を窺っていると,


「言いたい事あるなら言いなさい。」


トキにじろりと睨まれた。


「お…おぉ…。」


これはもう今言うしかない。三津は箸を置くと膳から少し離れて大きく深呼吸をした。


「あの…おし…おし…おしば…。」


「はっきり言わんかい!」


怒鳴られて三津の体はビクッと跳ね上がった。


「はひっ!お芝居を観に行きたいのでそれなりの格好にしてくださいぃ!!」


体を折り曲げ畳に額を押しつけた。いわゆる土下座である。
しばらくそのまま動けずに声がかかるのを待ったが,しーん…と静まり返ってしまったままだ。


「あのぉ…。」


恐る恐る顔を上げてみるとぽかんと口を開けた二人と目が合った。


「あのぉ…。」


「あの色男か!」


トキが興奮気味に三津に詰め寄ると両肩を掴んで前後に激しく揺さぶった。


「そ…うで…。」


「でかした!」


トキは三津が言い切る前にこれでもかと抱き締めた。と言うより締め上げた。トキが喜んでくれるのは嬉しい事だが同時に不安でもある。
はりきり過ぎはしないかと。


『でも…着飾ったら褒めてくれるかなぁ…。』


似合わないと笑われたらどうしよう。一緒に歩くのが恥ずかしいなんて思われないか不安ばかり渦巻くけど,


『あ,やっとあの簪使える!』


あれを挿していればきっと彼は喜んでくれるはず。
桂の微笑む顔が鮮明に浮かんで,三津は顔を赤らめてにやけた。










「桂さんはまだ戻られてないか…。」


早く返事を伝えてどんな反応を示すか見たかったのに。


「最近よく桂さんの為に働いてるんだね。」



Posted by beckywong at 19:32│Comments(0)
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