2023年11月15日

さん。見ちょったんなら

さん。見ちょったんなら、手ェ貸してくれてもええじゃろう」

「生憎だが、私は争い事は好まないからね。……そこの君、少し晋作を借りても良いかな?」


 人の良さそうな笑みを浮かべつつも、有無を言わさないような気迫を纏うそれに桜花は頷く。桂と呼ばれた男は高杉を伴うと小路へ入って行った。 スタスタと歩みを進める桂という男の背を追い掛けつつ、高杉は声を上げる。

「桂さん、何処まで行く。あの場を離れよるなら、桜花も連れて──」

「晋作。何故、京に居るのだ。噂には聞いていたが、本当に脱藩したというのかい」

 桂はピタリと足を止めると、https://blog.udn.com/a440edbd/180033083 https://mathew.blog.shinobi.jp/Entry/1/ https://mathewanderson.blog.fc2.com/blog-entry-1.html 咎めるような視線を高杉へと向けた。

 すると高杉は分が悪そうに視線を逸らす。

「桂さんと久坂らに会おう思うての。不幸中の幸いじゃ、探す手間が省けた」

「まさか、その為にあのような往来で暴れたのかい?呆れた……」

「流石にそねえな真似はせん。無粋な輩に腹が立ってのう。桂さん、此処で待っちょってつかあさい。桜花を呼んで来るけえ」

 そう言いながらを返そうとする高杉の肩を桂は掴んだ。

「待て。桜花、とはあの若い侍のことかい?何処の藩のものだ」

「身元は知らん。天狗に攫われた哀れな者じゃ」

 天狗などという別次元の話しが出てきたことに、桂はポカンとする。肩を掴む力が弱まったところで振りほどき、高杉は小路から出ようとした。

 だが、その足は止まる。忌々しげに目を細めた。その視線の先には色の下地に、袖には白の山型をあしらった鮮やかな羽織を纏った男達がいる。まさに此方へ向かってくるところだった。

 高杉に追い付いた桂はその横から表の様子を見ると、声を顰めて高杉へ耳打ちをする。


「──新撰組だ。高杉、逃げる準備をしよう」

「あれが噂の会津の駒か。酔狂な羽織じゃのう。高みの見物と洒落込みたいが、桜花を一人捨て置けん」


 だが、ザンギリ頭の高杉は間違いなく目立つ。そして長州の訛りが強すぎるため、身分を誤魔化しきれない。

 どうしたものかと考えねていると桂が再度高杉の肩を叩く。


「高杉は先に行っちょってくれ。三条大橋付近の池田屋で落ち合おう。長州の桂と名を出してくれれば良い」

「じゃが、桂さん」

「あの男の事は任せてくれ。私に案がある」

 桂はそれだけ言うと何処かへ駆け出した。自身に方法が無いことが分かっているため、桂に任せることとし高杉は池田屋を目指して駆ける。 一方で、桜花は町人らと協力して浪士を縄で絡げていた。礼を述べてくる茶屋の娘や他の町人と談笑しつつ、高杉が一向に戻らないことに内心焦りが募る。その時だった。

「アッ、壬生浪や」

 町人の声に桜花は首を捻ってそちらを見やる。野次馬を退けながら、浅葱色の派手な羽織を棚引かせた男達が数人向かってくるのが見えた。

 荒々しさや勇ましさを体現化したような風貌、とした目付き、威風堂々とした彼らに桜花は動けずにいる。


──空気が違う。重くて苦しい。けれど、鮮やかで眩しい……


「我々はである。治安を脅かす不逞浪士共、神妙にしろッ!」

 新撰組と名乗る男たちはそう声高々に言い放った。身体の底から震え上がってしまうような気迫が彼らにはあり、桜花は思わず唾を飲む。

『……まあ、捕まると面倒なことは変わりないのう』

 先程の高杉の忠告が頭を巡るのと同時に、危険だと本能が告げている。だが、彼らから目を離せずにいた。



Posted by beckywong at 03:31│Comments(0)
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