2020年05月07日

結末としては流石にこの「運び手」の運んだ言葉によ

" 結末としては流石にこの「運び手」の運んだ言葉によって世界が救われた、となるのだが、だからと言って「運び手」は「英雄」にはならない。
一応それぞれ内心で、個別に感謝はするのだが、言ってしまえば「それだけれだけ」だ。

この「伝説」で教えられる訓戒は、「我らには限られた時間と能力しかないが、それでも他人のために行動することを諦めてはいけない」、だ、そうだ。

どうせならもっとこう、華々しく派手なのはなかったのだろうか。
そんなどうでもいいことを考えてる間にも、祈りは続く。
俺は黙ったまま目を閉じもせず、ただ、舞台と群衆を眺めていた。

「声の主は空の上に。風の中に。土の下に。光に溶け、闇に座す。瞳は今を見つめ、言葉は未来を作り、眠りは過去を映す」

割と長めの「祈り」に些か飽きて薄目を開けた子供と、目が合った。
ばつが悪そうに慌てて再び目を閉じた男の子に、つい笑った。

「声よ、力なき我らを導き賜え。リヴィア・ルー・アイサの介在のもと、生きとし生けるもの全てに、救いと助けを与え賜え」

俺の知る神官――あのいけ好かない「教会」の連中なら、「アーメン」とでも言って十字を切る所だろう。
この世界では祈りはただ手を組むだけだし、祈りの後にやる仕草も特にない。

祈りを終えなんとなく厳粛な雰囲気が満ちた会場に、進行役の神官が軽く頷く。
横並びになっていた神官たちが動きだし、群衆も「次」が始まることに気付いた。
祈りの後の、メインイベント。

「これより、リヴィア・ルー・アイサがおいでになります」

あっという間に、期待の騒めきが広がった。

俺もハルがどんな格好で登場するのかと、壇上を見守る。


目に入ったのは、鮮やかに明るく爽やかな、空の色。
踝までの長い外套が、風にふわりと棚引いた、様。


2人の「宿り木」に誘われ姿を表した、ハルだった。

騒めきが高まり、そして幾らも経たぬうちに、自然と静まる。
畏敬と期待を持って、群衆全てがハルの―――「運び手」の、言葉を待った。

チカラを使って覗き見れば、普段よりほんの少し、濁った瞳。
謀を知ったハルがどうするか少し気にしていたのだが、どうやらどうすることも出来なかったようだ。
そのまま夢現つに、口を、開く。

「――――…」

と。

その瞬間、なんの兆しもなく、不意に、ハルの瞳にいつもの光が戻った。
正に「我に返った」と言うように数回、瞬きを繰り返す。

開き掛けた口を、一度閉じた。"



Posted by beckywong at 00:04│Comments(0)
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