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2024年03月11日

吉田がろくな事を考えてないのは分かって

吉田がろくな事を考えてないのは分かっていたがこれは到底許されない。桂は額に青筋を浮かべて三津見下ろした。
睨まれた三津は今にも泣きそうな顔で小刻みに震えている。違う違うと口をパクパク動かしながらふるふる首を横に振る。


「いつまで稔麿に乗っている。」


低く冷たい声に一層体をビクッと跳ねさせ慌てて吉田から下りて更に部屋の奥へ下がって正座した。


「どこぞの鬼のような顔しないでくださいよ。俺は日々の疲れを癒やしてもらってただけじゃないですか。」


吉田は寝そべったままで挑発するように桂を見上げた。http://janessa.e-monsite.com/blog/--103.html https://www.evernote.com/shard/s514/sh/afb5f38c-2783-0403-ced4-218ac454f9f1/VhmNjLgHnO6ByV3SgHlI3ESsNx4IVbpnXb79n0S3CbJL3o32HsJe_DHg3Q https://classic-blog.udn.com/a440edbd/180359447


「桂さん駄目ですよ挑発に乗っちゃ。稔麿はどうせ我々が聞き耳立てるの想定して三津さんに按摩を頼んでわざとらしく声を出してたんですから。」


ここは脅えきった可愛い妹を庇ってやらねばなるまいと久坂がずいっと前に出た。


「そうですよこれは完全に稔麿にしてやられてますよ。だってめっちゃ硬いとかここまでよく我慢したとかもうアレ連想させる事ばっか……。」


「それ言ったの私やし入江さんの発想が卑猥っ!」


三津は顔を真っ赤にして側にあった座布団を入江めがけて投げつけた。
まさかそんな風に聞こえてたとは。三津は畳に手をついて項垂れた。


「いいなぁ稔麿気持ち良かったんだ。」


入江は投げつけられた座布団を抱えていいなぁいいなぁと連呼した。
三津は聞こえないくらいの小さな唸り声を上げた。
さっきは好意に気付かないふりをすればいいと言っていた奴が何を言う。


「稔麿もういいだろ。三津も部屋に戻りなさい。」


小言を言いたいのは山々だが吉田の挑発に乗るのは避けたい。それに部屋に三津を連れ込んで説教しようにも夜に部屋で二人きりになるのは他の藩士に示しがつかない。藩邸じゃなければ説教長時間の刑だったのに。


「三津ありがとうだいぶ解れたよ。」


吉田は起き上がって胡座をかいて肩をぐるぐる回して満足げに目を細めた。それには三津の表情も少しだけ解れた。


「お役に立てたなら良かったです。小五郎さんもまたしますから。」


「いいなぁ桂さんも三津さんで気持ち良くなれるのかぁ。」


「入江さんの言い方は悪意の塊ですね。」


にまにま笑う入江を相手にしてはならないと分かっているが,聞き捨てならぬと三津は口を尖らせた。本当に厄介な人だ。


それからと言うもの三津はすっかり入江の戦術にはまってしまった。気付かないふりをしようとすればするほど変に入江を意識する。
これはもう顔を合わさないようにするしかないと藩邸内を逃げ回るも悉く見つかる。


「あれ,また会いましたね。」
「おや,奇遇ですね。」


白々しい言葉と腹黒い笑みと共に現れては頬を撫でたり手に触れたりして居なくなる。その度その手を叩き落として睨みつけるが怯むどころか寧ろ嬉しそうに悦の表情をされてしまう。


『こうなったら……。』


三津にも考えがある。


「アヤメさんこれ手伝ってもらえません?」
「アヤメさんお菓子一緒に食べましょ!」


入江が最も避けたいのはアヤメとの関係が進展すること。ならばそのアヤメと共に過ごして自ずと入江もアヤメとの時間が増えるようにしてやろうじゃないか。


そしておとずれたお花見の日。その日も三津はアヤメの隣を陣取った。来れるもんなら来るがいい。私と同じ苦しみを味わってもらおうじゃないか。


「……狡いなぁ。」


「何がです?」


アヤメが少し三津から離れた隙を見て入江はすかさず隣りにやって来た。三津はつんと顔を逸した。


「分かりました,これからは自重しますから。ちゃんと相談相手の立場を弁えます。」


「……分かってくれたならいいんです。」


「二人で何の話?最近やたら九一の距離が近い気がするんだけど?」


突然間に入って来た吉田に三津は少し狼狽えた。入江と二人で居る所に来られるのは心臓に悪い。嫌でも目が泳ぐ。


「桂さんといい稔麿といい……。三津さんは話し相手すら選べないんだな。いいよ,大した話なんてしてないから。たまにはアヤメさんの相手してあげようかねぇ。」


感情の読めない笑顔を作った入江は潔く吉田に自分の位置を明け渡した。


「油断も隙もない。」


吉田は不機嫌にふんと鼻を鳴らして入江の背中を睨んだ。三津はどうするんだろうと入江の背中を目で追った。


入江はアヤメの横にさり気なく近寄って,髪についた花びらを取ってそれを手のひらに乗せてやっている。アヤメが挙動不審になったのは言うまでもない。


久坂とサヤは二人から徐々に距離を取ってそれをにやにや眺めていた。


『アヤメさん可愛いなぁ。』


もじもじしてあわあわして大忙しのアヤメを見ながら三津は頬を緩めた。
  


Posted by beckywong at 18:21Comments(0)

2024年03月11日

「戻りましょっか。

「戻りましょっか。連れて来てくれてありがとうございます。」


三津はゆっくり腰を上げてぺこりと頭を下げた。


「俺はついて来ただけだよ。三津が迷い無くここに来れたからね。」


吉田はきゅっと口角を上げた。
帰ったら桂は三津を連れ出した事にどんな態度を見せるだろうか。


「急に出掛けたから小五郎さん怒ってますかね。」


不安そうに問われた吉田は首を横に振る。https://classic-blog.udn.com/3bebdbf2/180361485 https://carinaa.blog.shinobi.jp/Entry/3/ https://ypxo2dzizobm.blog.fc2.com/blog-entry-85.html

「もし不機嫌だったとしても,仕方ないじゃない新ちゃんに会いたかったんだからって言ってみな。黙り込むから。」


意地悪く笑みを浮かべ喉を鳴らした。三津は流石にそれはと苦笑した。


「会いたくなったのは事実だし言っても問題ないだろ。たまには自分自身を守れよ。」


『自分自身を守るか。』


三津はそれもそうかと納得した。もし,帰ってからチクチクと小言を言われたら言ってみようと思った。
こっちの気も知らないで言われっぱなしも癪なので,めそめそするくらいなら噛みついてやろうと意気込んだ。


「まぁ怒られたくないなら今日は帰らずどこかで一晩過ごすって手もあるけど。」


「そっちの方が怒られますから。」


「三津と一晩過ごせるなら怒られたって平気だね。」


だから私は平気じゃない。嫌だとぶんぶん首を横に振るが何故か吉田にがっちり肩を抱かれていた。肩を抱かれ身を寄せ合う形になっているのは何故なんだ。


「吉田さん歩きにくいんですけど。」


「そう?その方が好都合だね。俺はまだ三津との時間をゆっくり過ごしたい。」


「私だってゆっくり三津と過ごしたい。勝手な真似はやめろ稔麿。」


割って入ってきた声の方へ二人はゆっくり顔を向けると,肩で息をしながらも涼しい顔をした桂が凛々しい目でこちらを睨んでいた。


「流石にここは知ってましたか。」


それでもここへ来るのは想定外だったと吉田は目を丸くした。


「甘く見ないでもらいたいね。」


以前女将から聞いたと言う伊藤から聞いて知っていたと言うのは黙っておこう。その方が格好がつく。
片口を上げて笑い,三津の事なら何でも知ってるような雰囲気を醸し出した。


「三津,今日は帰ろう。また桜が咲いたら一緒に来よう。」


「そうですね。そうしましょう。」


藩邸を飛び出す原因となったのは桂だがその本人がこんなにも慌てた感じで迎えに来てくれたのだ。嬉しくてにやける。吉田はそれが面白くない。またいい所で邪魔された。


「本当に手のかかる姫だよね。」


その腹いせに三津の額を指で思いきり弾いた。


「ったぁ!」


三津はこの仕打ちにギロリと上目で睨んだがそれ以上の鋭い目で睨み返されて硬直した。


「いきなり新ちゃんとこ行くって喚き散らして俺に連れてけって駄々こねたのは何処の誰だ?
それで迎えが来たからご機嫌で帰る?これは相応の対価払ってもらわないと割に合わないんだけど?ん?」


『なるほど。何があったか分からんがそう言う事か。』


三津の姿が見えないから探し回って久坂から“稔麿と出掛けました”と言われ,吉田が勝手に連れ出したと思い込んでいた。


「何故私に声をかけなかったんだ。」


まさか自分のせいでこうなってると思わない桂は純粋に疑問を三津にぶつけた。


「えっとそれは……。」


部屋でサヤと二人で話してたのを盗み聞きした挙句,勝手に嫉妬してこうなったとは恥ずかしくて言えない。
いい言い訳も思いつかず三津はちらりと視線を吉田に向けた。


「んっとに手のかかる……。昼寝して夢枕に新ちゃんが立ったそうです。動揺して部屋を飛び出したとこに俺がたまたま通りかかったからこうなったんです。」


吉田はすらすらと嘘を並べた。これで貸しは倍になったぞと横目で三津を睨んだ。三津はか細い声ですみませんと呟いた。


「お礼はまた何かの形で返させていただきます……。」


あえて“形”と言って何かお詫びの品で済まそうと思ったが吉田はそれで許しちゃくれない。


「何言ってんの?気持ちで返してよ。ねぇ桂さん今晩だけ三津借りていい?変なことしないから。」


「却下。」


「じゃあその“形”とやらを自分で選ぶから一日三津を連れ出していい?」
  


Posted by beckywong at 18:04Comments(0)

2024年03月11日

「彼を想って泣く事に私は黒い感情なんか

「彼を想って泣く事に私は黒い感情なんか持ち出さない。」


桂からすれば新平への申し訳無さが勝る。
まだ吹っ切れていない三津を無理矢理諭して自分の方へ向けてしまったようなもんだ。
些か強引すぎたと今更思う。


今だってこの生活を強要してる。気持ちが通じ合ったとは言え,ここへ連れてくる計画もほぼ事後報告で押し切った。
もし気持ちを確認したら,来てくれない気がして怖かった。


『私は狡い。』


三津の為と言いながら結局は自分の為だ。自分のわがままを通すだけ。
三津がこちらに向けてくれる想いも本物だと分かっているが,こちらが三津に向けるモノとは熱量が違うと思う。
全てを手に入れてるのにまだ片想いに思えてならない。https://classic-blog.udn.com/29339bfd/180357229 https://classic-blog.udn.com/29339bfd/180357326 https://mathewanderson.blog-mmo.com/Entry/12/


その疑りが嫉妬を生む。その嫉妬が三津を傷めつけるし見苦しい。


『そんな私には君を包むしか出来ないんだよ。』


新平を想う時の三津の前では無力だ。いつもの自信も消えて失くなる。
弱っている三津以上に弱くて脆い。


情けない。だがそんな心情を抱けるのもまた三津にだけ。
そんな事を考えていたら三津が小さく嗚咽しだした。


「まだ我慢しようとするのか?諦めて泣きなさい。三津,いいんだ。彼を好きでもいいんだ。」


すると三津が声を上げて泣き出した。どこかほっとして背中を撫でてやっていると,


「もぉ!小五郎さんの馬鹿ぁぁぁ!!!」


「何故だ。」


いきなり罵られた。
何だって言うんだ。また余計な真似をしてしまったのか。


「泣く時は一人で勝手に泣きます!小五郎さんといる時は他の人の事考えたくないっ!小五郎さんだけを想いたいのにぃっ!」


そう言って背中に手を回して抱き着いてくる。それは嬉しいが,良かれと思ってしたことがお節介だったのにはへこんだ。


三津は気持ちを区別しようとしてくれてるが,全くもって実行できていない。


考えと気持ちがばらばら。三津の顔は嘘をつかないから表情が本音なのは分かるが,本人はそれを認めない。何とも厄介だ。どう見てもここ最近はうわの空で彼の事しか頭にないと言った様子なのに。
まぁ本人も普段通りのつもりでいるのも分かっていたが,少なからずどこかおかしいのは自覚してくれてると思っていた。


自分がおかしい事に気付いてないようだ。
それなら“そうなんだね”と譲歩するしかない。
こっちも意固地になって“いやおかしい!”と指摘したところで平行線だ。


「そうか。私と居る時は私の事だけ想いたいのか。じゃあそうしてくれ。」


そう言った責任は取ってくれよと耳元で囁やけば三津の泣き声はぴたりと止んだ。


「責任ってなんですか。」


抱きしめているから表情は窺えないが間違いなく目元を引き攣らせて嫌な顔をしてるに違いない。
朝から甘い雰囲気にされるのはお気に召さないらしい。最近分かった。


でも嫌よ嫌よも……と言うじゃないか。そのうち朝からそうなるのもクセになってくれないかと密かに期待する。


「無理に泣かそうとした事は謝るよ。でも泣いた方がスッキリするんじゃないかと思っただけで悪気があった訳じゃない。」


「いえ……。上手くいかないもんですね。私はもう吹っ切れて前を向いてたつもりなんですけど。
小五郎さんと出逢って話を聞いてもらって立ち直れたはずなんですけど周りはそう思わないんですね。」


『だから余計に今回は拗れてしまうのか。私と三津の認識に差があり過ぎるな。』


もう自分は大丈夫と頭で思っても心は傷ついたまんまだった。この一年で少しはマシになっても癒えた訳ではなかった。三津はそこに気付いてない。


「努力するよ。」


「何をです?」


ほろりと溢れた言葉に三津は顔を上げて首を傾げた。


「三津を癒やす努力さ。」


それを聞くなり三津はふっと笑った。


「そんな事しなくても大丈夫です。癒やされてます。だからいつも通りでいてください。」


桂の胸に頬をすり寄せていたから桂がにやりとしたのに気付かなかった。


「いつも通りでいいんだね?」


「はい,いつも通……。」


言いかけてハッとして桂を見上げるとそこには悪どい笑みが浮かんでいる。


「じゃあ受け入れて?」


無駄な抵抗なのは分かっているが朝の運動は一日の仕事に影響する。
三津は何故泣いていたかも忘れて逃げ出す方法を必死に考えた。
  


Posted by beckywong at 17:43Comments(0)

2024年03月03日

着物から吉田の匂いがしてその安心

着物から吉田の匂いがしてその安心感からまた涙が溢れた。
用意されていたそれを着て着流し姿で風呂場を出れば吉田が待っていてくれた。


「おいで。」


差し伸べられた手を握ると吉田の腕の中に引き込まれた。


「こんなに震えて……。今日はずっと傍に居るから。」


三津の足をすくい上げて抱きかかえ,自分の部屋に連れて行った。
三津は吉田の首に腕を巻きつけ必死にしがみついた。







『もっとちゃんと見といてやれば良かった……。気を配ってやれば良かった……。
彼奴がまだこの辺りに居るのならこの私が斬り殺してくれる!』


乃美は自責の念に駆られながら急いで旅籠に戻った。


「桂っ!早急に藩邸に戻れ!
宮部,悪いが今日はお開きだ。急用だ。」 https://classic-blog.udn.com/79ce0388/180359408 https://classic-blog.udn.com/79ce0388/180361454 https://freelancer.anime-voice.com/Entry/71/


乃美の殺気に只事ではないと察知する。


「宮部さん申し訳ない失礼します。」


「構わんよっぽどの事やろ?早よ行け。」


桂と乃美は深く頭を下げて部屋を後にして階段を駆け下りる。


「三津に何か……。」


「土方に……犯された。」


それを聞いた瞬間弾かれたように走り出した。


『犯された?そんな事あってたまるか。そんな都合良く土方は近くに居たのか?


……あぁ,密偵か。アイツの密偵が嗅ぎ付けたのか……。


分かっていたのに……。近くまで手が伸びて来てるのを知っていたのに……。


どうして一人にしてしまった……。三津……。』


一緒に帰ってくれますかと言われた時,席を外して送り届ければ良かった。


困らせてごめんなさいと笑った三津の顔が頭を過る。


「三津はっ!?」


全速力で藩邸に戻り廊下に居た久坂と入江を捕まえた。


「稔麿の部屋に……。」


影を落とした久坂の表情に受け入れたくないそれが事実だと思い知る。吉田の部屋へ行こうと踏み出すがそれを二人に止められた。


「今ようやく落ち着いたところです。心配なのは分かりますが今は稔麿に任せて下さい。」


久坂に宥められるが引き下がりたくない。


「顔だけでも見させて欲しい……。」


今すぐしてやれる事なんてない。自分が顔を見たいと言う欲求を満たすだけなのも承知の上。
ただ会わずに朝を待つなんて出来ない。


「いいよ玄瑞。眠りに落ちた。」


吉田の声に桂は静かに障子を開いた。
そこには胡座を掻いた吉田とその上に座り吉田の胸にしがみついている三津。


「……三津は何があったか話したか?」


「土方に汚されたと。
私は汚いから桂さんに合わせる顔がないと繰り返して,ずっと泣いてました。」


「合わせる顔がないのは私の方だ……。一人にしてしまった……。止められなかった……。危ないと分かっていながら……。」


膝から崩れ落ち袴を強く握り締め項垂れるしかなかった。


「泣き言なら止めてください。それなら俺だって今日無理にでもついて行けば良かった。
宮部さんに三津の話などしなきゃ良かった。
でも結果こうなった事は変えられない。
今は……少しでも三津の傷を癒やしてやらないと……。」


濡れた三津の髪を撫でて指に絡ませた。


「すまない稔麿……。今夜は三津を頼む……。」


桂は力なく立ち上がると三津を起こさないように静かに部屋を出た。


「三津,お前は汚くないよ。お前は綺麗だ。身も心も……綺麗だ。」


少しでも三津の心が救われるように。優しく
囁いて背中を撫でた。






桂は久坂と入江と共に乃美の部屋で三津が逃げて来た時の様子を聞いた。


「物陰から泣いて飛び出して来た時の姿を見てゾッとした……。
近くに奴がまだ居たのなら斬り殺してやったのに。
三津さんが外の空気を吸いに行くと言った時ついて出れば良かった……。今そう言ってももう遅いが……。」


「どこか怪我は無いか診たかったんですが触れられるのを極端に恐れ今は稔麿しか触れられない状態です。
明日また様子を見て診させてもらいますけど。」


『稔麿しか触れられないか……。』


自分には触れさせてくれるだろうか。
後を追わず一人にしてしまった事を恨み拒絶されてしまうんじゃないか。
それが怖くて堪らなかった。
  


Posted by beckywong at 18:35Comments(0)

2024年03月02日

そう問われた三津はこくこくと頷いた。

そう問われた三津はこくこくと頷いた。桂がそんな事を気にしてたなんて思いもしなくて自然と顔がにやけてきた。


「出逢って間もない頃に戴きました。その簪見た時私の顔が浮かんだって。」


「そんな事さらっと言えるのが桂様なのよねぇ。」


サヤもアヤメも羨ましいと溜息をついたが,


「でも色んな女の人に言って慣れてるのね……って思ってしまう私がおります……。過去に嫉妬したってどうしようもないんですけどね……。」


三津はふふって自虐的に笑った。https://classic-blog.udn.com/79ce0388/180357285 https://freelancer.anime-voice.com/Entry/70/ https://ypxo2dzizobm.blog.fc2.com/blog-entry-81.html


「それ分かります……。私もきっと同じ事思います……。私だけやなくて他の人にも言ってるんでしょ?って。」


「あぁ……アヤメさんやっぱりお話通じると思ってました……。」


二人で手を取り合い共感し合った。
その様子を影からこっそり入江が見ていた。


『……すっかり溶け込んでる。』


逃げ出した小姓を捕まえに来たがここはもう好きにさせようと踵を返した。


「九一ここに居たか。三津は?」


藩邸内に居るとは分かっていても姿が見えないと不安で仕方ない。そんな顔で桂は辺りを見回した。


「女子同士話に花を咲かせてますよ。」


「あぁ。」


それなら良かったと桂は笑みを浮かべて台所へ踏み込んだ。


「あら噂をすれば。」


サヤの含みのある笑みを見て何の噂?と桂は首を傾げたが,三人は顔を見合わせると同じ様に笑って何でも無いと首を横に振った。「私との間に隠し事かい?まぁいいやゆっくり問い詰めてあげるよ。後で私の部屋に来なさい。」


「小五郎さんのお部屋って何処ですか?」


三津の純粋な質問にしばらく間をおいて桂は頬をかいて眉を八の字にして笑った。


「すまない。三津が前からここに居ると錯覚していた。そうだね何処か知らないね。」


三津は両手でにやける口元を押さえた。


「桂様,後でお茶をお持ちしますのでどうぞ三津さんをお部屋に案内して差し上げては?」


サヤは大人の対応が出来るが,アヤメは笑うまいとこちらも両手で口を塞いで堪えるも肩を震わせ目にはうっすら涙が浮かぶ。


『可愛い……桂様が可愛い……。三津さんとずっと一緒におられる感覚になってる桂様が可愛い……。』


と口にしたいのを我慢して両手で塞いで必死に飲み込んだ。


「……アヤメさん我慢せずに笑うといいよ。」


桂は怒らないからと声をかけるとアヤメは両手を外してすみませんと謝った。


「あの笑いたかったんじゃないんです。桂様が……ふふ……三津さんを想っておられる時の桂様が……可愛く見えまして……すみません……。」


不躾で申し訳ありませんと目を伏せたがにやける顔は隠しきれない。


「ごめんなさい私も小五郎さんが時々可愛いと思ってましたごめんなさい。」


三津にまで言われて桂は参ったなと困ったように笑う。


「君達の言う可愛いの定義がまるで分からないがとりあえず三津には聞きたい事があるから部屋まで来てもらおうか。」


三津は桂の自室へと連行された。
初めて入る藩邸の自室に三津は妙に緊張していた。


綺麗に整理された部屋は桂の性格を表してるかのようだった。ただ机の上には本と書状が山積みになっている。


桂の匂いのする部屋だけど二人で暮らす家とはまた違った匂いがして落ち着かない。
きょろきょろ忙しく動き回る目を見て桂は喉を鳴らして笑った。


「どうしたの?落ち着きないね。流石に藩邸内だから取って食べたりはしないよ?」


「当たり前です。」


三津は目を釣り上げて怒ったが桂はちょっとぐらいいいじゃないかと細い手首を掴んで引き寄せた。
頬をすり寄せ軽く唇で触れ,


「さっきの噂って何?言えない事?」


わざと耳元で囁いた。「いや……あの……別に言えない訳では無いですけど。」


女同士の秘密にしておきたいのが本音。


「言わない気?」


そっちがその気ならと桂は三津の耳たぶを甘噛みした。
三津は与えられた刺激が全身を駆け抜けるのを感じて体を反らしたが抱き締めてくる腕の力に身動ぎ出来ない。
  


Posted by beckywong at 21:33Comments(0)

2024年01月30日

無茶をする桂を制止しきれなくて他

無茶をする桂を制止しきれなくて他の重役に叱責されたり,吉田の態度が悪いと何故か自分が怒鳴られたり,あぁしろこうしろと無理難題を押し付けられたり。


『あ,色々喋ってしまった…。』


桂や吉田に会った時に自分がこんな事言ってたと話すだろうか…。
上目で三津の様子を窺うと,


「伊藤さん大変なんやぁ…。吉田さんは誰に対してもそんなんなんや。」


桂さんが無茶するのは意外やわ。なんて言って笑っている。
第三者から聞く藩邸での様子は三津にとって新鮮で聞いていて楽しかった。


『この子他言しないな。』 https://www.evernote.com/shard/s514/sh/543e98ea-3ab4-122b-e4a3-6104217f3ec9/bBRV5P91yDNkfsK87lZxHLPQ-tmOyugcp_1IQhn_8nw3hjFUDzm_0s6E6g https://classic-blog.udn.com/3bebdbf2/180277094 https://classic-blog.udn.com/3bebdbf2/180277124


勘でそう思った。根拠はないが,妙な安心感を抱いた。
それからだ。三津と話すようになったのは。


今日は三津から返答をもらうように言伝てられている。帰りが遅くなっても咎められないと思ってついつい長居してしまった。


「そろそろ帰らないと怒られそうだな。あの今日は返事を…。難しいなら後日また伺いますが。」


後日と言ってくれた方がまた息抜きに来れるから有難いと思っていた。


「あ,えっとよろしくお願いしますとお伝え下さい。」


はにかみながらぺこりと頭を下げた。


『何がよろしくお願いしますなんだろうな。』


文の内容は知らないから,三津の返事から書かれてる事を想像するのだ。「分かりました,そう伝えますね。ではその文はいつも通りに…。」


最後にそれを言わなければならないのがいつも心苦しい。
文と言っても目立たない様に小さくちぎった紙切れに最小限の言葉を詰め込んでいる。


そんな紙でも二人のやり取りが知られない様に処分する約束になっている。


『愛しい人の手で書き記された文をきっと手元に残して置きたいだろうに。』


素直に"分かりました"と言うけれど,三津の目が悲しげに笑うから伊藤も少し心が痛む。


『嬉しそうに読む姿を桂さんに見せてあげたい。
吉田さんが見れば静かに怒り狂うかな。』


静かに怒り狂う姿を想像して身を震わせながら帰って行った。







夕餉の仕度をする時に三津は釜戸の火の中に文を放り込む。
ぱちぱちと音を立てながら燃えていくのをしゃがみ込んで見届ける。


『さて…どうしようかな…。』


火を見つめながら唸り声を上げた。
トキに頼み込まなければならない事が出来たのだけど三津にとっては厄介な事案なのだ。


『腹を括ろう…。』


三人で夕餉を囲みながら,三津はいつ切り出そうか考えていた。
ちらちらと功助とトキの様子を窺っていると,


「言いたい事あるなら言いなさい。」


トキにじろりと睨まれた。


「お…おぉ…。」


これはもう今言うしかない。三津は箸を置くと膳から少し離れて大きく深呼吸をした。


「あの…おし…おし…おしば…。」


「はっきり言わんかい!」


怒鳴られて三津の体はビクッと跳ね上がった。


「はひっ!お芝居を観に行きたいのでそれなりの格好にしてくださいぃ!!」


体を折り曲げ畳に額を押しつけた。いわゆる土下座である。
しばらくそのまま動けずに声がかかるのを待ったが,しーん…と静まり返ってしまったままだ。


「あのぉ…。」


恐る恐る顔を上げてみるとぽかんと口を開けた二人と目が合った。


「あのぉ…。」


「あの色男か!」


トキが興奮気味に三津に詰め寄ると両肩を掴んで前後に激しく揺さぶった。


「そ…うで…。」


「でかした!」


トキは三津が言い切る前にこれでもかと抱き締めた。と言うより締め上げた。トキが喜んでくれるのは嬉しい事だが同時に不安でもある。
はりきり過ぎはしないかと。


『でも…着飾ったら褒めてくれるかなぁ…。』


似合わないと笑われたらどうしよう。一緒に歩くのが恥ずかしいなんて思われないか不安ばかり渦巻くけど,


『あ,やっとあの簪使える!』


あれを挿していればきっと彼は喜んでくれるはず。
桂の微笑む顔が鮮明に浮かんで,三津は顔を赤らめてにやけた。










「桂さんはまだ戻られてないか…。」


早く返事を伝えてどんな反応を示すか見たかったのに。


「最近よく桂さんの為に働いてるんだね。」
  


Posted by beckywong at 19:32Comments(0)

2024年01月29日

間抜け。その一言に尽きる。

間抜け。その一言に尽きる。


『この場を和ます為にわざとそんな顔にしてるのか?』


いや,違う。元からだ。この顔を見れば土方は危機感が足りないと拳を脳天に突き刺したに違いない。


『副長も沖田もこの顔が見たいだろうよ。』


何だかんだで来て良かったと頭の中に二人の悔しがる顔を思い浮かべて優越感に浸った。


「賑やかやと思ったら!」


みんなの声を聞き付けた功助が顔を出し新年の挨拶を交わした。https://mathewanderson.blog-mmo.com/Entry/10/ https://ypxo2dzizobm.blog.fc2.com/blog-entry-77.html https://johnsmith786.mystrikingly.com/blog/4d22f346e46


「寒かったでしょう。どうぞ上がっていってください。」


火鉢にあたってお茶をと促されたが斎藤は首を横に振った。特に予定は無かったのだけれど,戻らねばならないとだけ告げた。


『ここの家は温かい。』


このまま好意に甘え続けたら余計に名残惜しくなる。


「もし何かありましたらお力になれるように努めますので。」


出来ることはそれぐらい。していい事もそれぐらい。斎藤が家を出るとそのまま三津もついてきた。


「そこまで一緒に!」


「馬鹿か,何の為に家まで送ったと思ってる。」


ついてくるなと冷たくあしらった。ここで突き放さないと未練がましくなってしまう。


『分かってはいたがそんな顔をされてはなぁ…。』


しゅんとして眉を垂れ下げた三津。ちょっとそこまでなら…。なんて甘い考えが浮かんだがそれを押し込めた。冗談でも"連れて帰るぞ"とは言えなかった。


「……また来る。」


ほんの少し三津の頭に手を被せてから功助とトキに一礼して家を出た。


「斎藤また遊びに来るかな?」


「来るよ。武士に二言はないもん。」


三津はほんの少し寂しさを抱きながら,次来たら遊んでもらうと笑った宗太郎の頭を撫でた。






「つまらん…。」


「そう言うな,屋敷内で自由に出来るだけでも有り難いと思え。」


むすっとした表情で壁に寄り掛かる吉田を久坂がなだめる。
未だに謹慎を言い渡されたまま,1日を藩邸内で過ごすこの窮屈さ。苛立ちは日に日に増す。


「この前抜け出して会ってきたばかりだろ…。」


「あれは去年だよ?もう年明けたんだよ?今年はまだ会えてない。」


『もうと言うかまだ年明けたばっかだろうが…。』


ここまで来ると苛々を通り越して呆れ返る。久坂がどうしたもんかと溜め息をついた所に別の部屋から怒声が響いた。


「そんな報告などいらん!!!」


「あ,九一帰って来た。」


さっきまでの不機嫌はどこへやら。吉田は口角を上げてスッと立ち上がった。


『やれやれ…。』


吉田に合わせて久坂も立ち上がり怒声が聞こえた部屋へ向かった。
声の主は乃美,その脇には桂,怒声を正面から浴びたのは入江だった。


「しかし報告する事はその程度しか。」


「毎日毎日店番,子供の子守り,店番,子守り,店番,子守り…。もっと有益な情報はないのか!!」


バンバンと激しく畳を叩く乃美を入江は涼しげな目で眺めていた。


『ある訳がない,それが三津の行動範囲だ。だから迷子になるんだよ。』


帰り道が分からないと半べそかいたあの顔を今でも思い出せる。桂は思わず吹き出した。


「何が可笑しい!!」


「いえ…。」


「やはり連れて来い!事の真相を吐かせろ!!」


「だから土方の女でも間者でもないんだから三津からは何も聞き出せないですよ。」


障子を開いて吉田はずかずかと部屋に踏み込んだ。
それが更に乃美の苛立ちを煽る。


「ただの甘味屋の娘を拐って暴行を加えて,それが長州の仕業と知れたら?うちの評判ががた落ちですよ。
九一,アイツを見張ってる間我々の悪評を聞いたか?」


「いや…。」


「だろう。それに三津が何もなかったかのように暮らしてるのならそれが答えだ。彼女は敵ではない。」


長州贔屓の味方でも無いことはこの際伏せておこう。


「稔麿の言う通りですよ乃美さん。彼女は誰に何を聞かれても覚えてないとしか言っていない。行動範囲もとても狭く,新選組と密通してる様子もない。」
  


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2024年01月20日

でも,怪我の処置だけでも正しいやり方を教え

でも,怪我の処置だけでも正しいやり方を教えていただけませんか?」


無理を言ってるのは百も承知。
だから弱気な情けない顔になる。
だけど思いは真剣だから,真っすぐユキの目を見つめた。


「いいよ。私の浅い知識で良ければ。」


三津の目が歓喜に満ちる。
嬉しくて何とも言い表せない感情がじわりじわりと込み上げて来る。


「お昼過ぎた時間なら私も手が空くの。 https://www.liveinternet.ru/users/freelance12/post503144850// http://janessa.e-monsite.com/blog/--100.html https://www.evernote.com/shard/s729/sh/a8768a51-1957-2be7-3d20-de3414811ea7/zqvX5p5E7SaAmbNZMwl3TF9p5-bpE9p5goqBMQpVXHcGMAysMmacuBuAyA
だからその位に来てくれたら教えてあげる。」


「ありがとうございます!」


ここに来た目的を果たせて満足げに笑みを浮かべた。
早速明日から教えてもらうと約束した。


「待ってるわ。優しい旦那様も待合いでお待ちかねやで。」


「旦那様?………あ。」


嬉々としていた三津はすっかり忘れていた。
一人で来たんじゃなかった。
ついでに言うなら運び込まれたんだった。
待合いに出ると,斎藤はいた。


「付きっきりやなんて優しい旦那様やね。」


いやいや違いますと三津が否定するより先に,


「どうも家内がお世話になりました。」


何食わぬ顔で,斎藤は深々と頭を下げた。斎藤のさも当たり前かのような振る舞いに,三津はぽかんだ。


「帰るぞ,三津。」


「え?ちょっと待って下さいよ!」


名前で呼んで,肩を抱いて,端から見れば親密な仲の二人。
ユキの羨望の眼差しに見送られ,診療所を後にした。


「斎藤さん!斎藤さん!
一体何なんですか?家内ってどういうつもりです?」


袖を引っ張って分かるように説明をと詰め寄る。


「俺が旦那じゃ不満か。」


斎藤は足を止めて顎を持ち上げた。
肩を抱いたままで,密着する体。
加えて呼吸を感じるほどに寄せた顔。


三津は体中の血液が沸き立つぐらいの体温の上昇を感じた。


「不満って訳じゃ…。」


「ならば問題ない。」


ぱっと体を離し,斎藤は前を歩き出した。


「いや,色々問題やと思いますよ!?」


だけど斎藤はそれ以上は何も語らず,二人は微妙な距離と空気のまま歩き続けた。









屯所に近付いた時,斎藤は三津の頭に手拭いを巻き付けて顔を隠した。
それから肩に手を回して引き寄せた。


「なるべく下を向け。一気に部屋まで行くぞ。ついて来れないなら担ぐからな。」


脅すように囁かれて,頷くので精一杯。


一呼吸置いた斎藤は三津が思うよりも早足で屯所に入った。
門をくぐってすぐに三津の足はもつれてしまった。


その光景を目撃した隊士たちは斎藤が怪しい女を捕縛して来たんだと勘違い。
遠巻きに様子を窺った。


「斎藤さん!転ける!」


『あ,お三津ちゃんだ。』


声を聞いてすぐ怪しい奴じゃなかったと分かったが,それはそれで何故そんな姿?と首を捻った。


「担ぐぞ。」


「嫌や!」


――せめて抱き上げて。


――贅沢言うな。


目と目で攻防をしてる間に,目的地に到着。


「副長,失礼致します。」


最後は三津を脇に抱える形で土方の部屋に雪崩れ込んだ。


斎藤はすかさず後ろ手で障子を閉めると,すぐに礼儀正しく座した。
斎藤の傍らで畳で膝を擦りむいたと三津は不貞腐れる。


土方は頭から顔をすっぽり隠した手拭いに釘付けだった。


「何事だ?」


「…申し訳ございません。」


斎藤は溜め息混じりに呟いて,その手拭いに手をかけて三津の顔を晒した。


一瞬で土方の表情は引きつった。辛うじて冷静さは保っているように見せるが,苛立ちで胡座を掻いた膝を揺らす。
  


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2024年01月20日

「そう言う訳じゃ…。」

「そう言う訳じゃ…。」


無いこともないけど,顔を赤らめてしどろもどろになってしまった。


「隠さんでもいいやん。」


隠したい相手なんです…。
とも言えず苦笑いで誤魔化しながら,かんざしをたえの目に入らない位置に隠した。


『でも,おたえさんには話してもいいかな…。』 https://lefuz.pixnet.net/blog/post/132865060 http://janessa.e-monsite.com/blog/--99.html https://www.evernote.com/shard/s729/sh/86c7d206-b627-118b-5053-bf3b4f4d2494/2yHnEcRTxdv3QhQ26tVpcWRQXgBN0TygWrQP0ndb55baqRv2CWOt65mb4Q


「一緒に居られないから,これだけは肌身離さず持っていたいんです。
持ってるだけで想いが届く気がするんですよね。」


恥ずかしいからみんなには内緒にしてて下さいねと念押しした。


「そっか。それだけ大事にしてたら相手にも想いは通じてるはずやで。」


桂もそう思ってくれてるだろうか。
時々は自分の事を思い浮かべてくれているのかな。
自分だけを見つめる眼差しを思い出して,もじもじ指を動かした。


「あ!おたえさん,ここって誰の部屋ですか?
私どうやって帰って来たかも覚えてないんですけど…。」


これ以上顔がにやけないように話題を変えた。


「ここは斎藤さんのお部屋よ。帰りも斎藤さんが連れて帰ってくれはったんやで。」


「あ…そう言えば。」


何度か斎藤と話した気がするけど,何故そのまま斎藤の部屋にいるのかは謎。


『分かった,部屋で寝てたら仕事の邪魔になるから斎藤さんに押し付けたな…。土方さんめ…。』「それで斎藤さんは?」


自分が居るせいで部屋を追い出されてしまったんだと思うと申し訳なくて眉尻が下がる。


「今は外出してはるけど明け方までお三津ちゃんの看病してくれてはったんよ。」


『土方さんとエラい違い。
早く治して自分の部屋に帰ろ…。』


いや,今からの方がいい。
明け方まで起きていて出掛けたなら,帰って来る頃にはへとへとになってるかもしれない。


「私自分の部屋に戻ります。」


新しい寝間着を抱えて布団を抜け出そうとしたが,アカン!と一喝されてしまった。


「土方さんから言いつけられてるねんから。」


「だから私の部屋に…。」


「ダーメ!土方さんも心配してるんやから。」


斎藤に押し付けといて心配だなんて信じられるもんか。
三津はそんな事ないないと首を振って笑った。


「お三津ちゃんの部屋は遠くてすぐに駆け付けられないからアカンのやって。
体拭いてから着替えよっか。手拭い取って来るね。」


だからいい子で待ってなさいと母親の顔で部屋を後にした。


『でも土方さんの部屋には入れてくれへんのね。
良くなったら斎藤さんの小姓になろうかな。』


「こら三津!」


「ひゃっ!」


たえと入れ違いでやって来たのは土方。
ずかずか部屋に入って来るなり乱暴に頭を抑えられた。


『まさか斎藤さんの小姓になろうって思ったのが声に出てた?』


じろりと睨まれ畏縮していると片方の手が額に触れた。


「熱は下がったか…。」


その手は不機嫌そうな顔に似合わず,ふんわりと優しく触れた。


「お,お陰様で…。」


何だか拍子抜けだ。
拳骨が飛んで来てもおかしくないぐらいの顔してる癖に,心配したの言葉もかけない癖に,態度や醸し出す空気が優しいんだ。


『…心配してくれてはったんかな。』


たえの言う通り,本当はすっごく自分を心配してくれてたのかもしれない。
少しだけ,胸がキュンとなった。


『それにしても相変わらず分かり難い天の邪鬼だな。』


ぼーっと上目で見つめていると目が合った。


「何だよ,その物欲しそうな顔は。
大事に寝間着なんか抱えやがって。着替えさせて欲しいなら正直に言えってんだ。」


下心丸出しの目が胸元を覗き込んだ。


「そんな顔してません!」


こんな人にキュンとしてしまったのか…。
今のときめきを返せ…。「物欲しそうな顔ちゃいます!
土方さんが変に優しいから槍でも降るんちゃうかなって思った顔です!」


抱きかかえた寝間着で胸元を隠してムッと口を尖らせた。


『あ…しまった…。』


土方の目元がひくりと引きつった。これは雷と拳骨が落ちるのは確実。
病人だろうが怪我人だろうが容赦ないのがこの男。


土方の手が振り上げられたと同時にギュッと目を瞑った。


「そんだけ大声出るなら大丈夫か。」


振り上げられた手はポンポンと頭の上で弾んだ。
怒鳴られるかと思ったけど深く息を吐いただけだった。
  


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2023年12月29日

土方の横を歩いてないとどうなるか

土方の横を歩いてないとどうなるか,三津は薄々気付いていた。


『土方さんが私の歩く速さに気を遣うような神経持ってるとは思われへんな。』


土方は大股でずんずん先に進んで行く。
行き先を知らされてない三津は必死について歩く。


ついて行けなければ…… https://blog.udn.com/3bebdbf2/180033121 https://blog.udn.com/79ce0388/180037688 https://freelancer.anime-voice.com/Entry/61/


『迷子やん……。』


待ってって言っても待ってくれないだろうし,お前が遅いんだって言われるだけだろうな。
だから横を歩いて,歩く早さぐらいは合わせて欲しいのだ。


そう思った時土方が振り返った。
もしかして自分を気遣った言葉をかけてくれるのか?
期待に胸を膨らませるが,


「ちんたら歩くな。」


『やっぱり……。』


見事に睨まれた。結構必死に歩いてるのに。
そっちは袴だからいいけど,こっちは一歩踏み出したって大して前に進まないんだから。


町に入っても土方の歩く速度は変わらない。
すいすい人を避けながら先を急ぐ。


三津も土方が作る道を歩くのに上手く人を避けられない。
何度もぶつかりそうになり,視線はいつの間にか行き交う人に取られてしまう。


すると余所見をしていた三津の体が強く引っ張られた。


「どこ見てんだ馬鹿。」


呆れ顔で見下されているけど,引き寄せられたのが土方の腕で三津はほっと笑みを浮かべた。


「何笑ってんだ。離れるんじゃねぇよ。」


『さっきはある程度離れて歩けって言ったやん……。』


むっとしたけど,土方が自分の羽織の裾,本当に端っこなんだけど握れと言ってくれた。


「離すんじゃねぇぞ。」


素っ気ない態度の中に土方の優しさを見つけた。
すぐに前を向いてしまった土方を,三津はにこにこしながら眺めた。


やがて三津の見慣れた景色が目に映る。そして土方が向かう先に見えた看板に三津は顔をひきつらせた。


「土方さんが用があるのって……。」


恐る恐るその店を指で差してみた。


「ああそうだ。何だてめぇも来たかったのか?呉服屋。」



土方の目的地はあの弥一がいる中山呉服店。
三津は滅相もないとぶるぶる首を横に振った。


『土方さんとあの店を訪れるなんて気まず過ぎる!』


三津は顔面蒼白。暑くもないのに汗が噴き出す。
何とか危機を回避したい。


「私には敷居が高過ぎて入れません!ここで大人しく待ってますから!」


不自然なぐらいの笑みを浮かべて一歩二歩と後ずさった。「居なくなってたら置いて帰るからな。」


冷たい目でされた忠告に大きく頷いて,呉服屋に吸い込まれて行く土方を見送った。


まさか土方が弥一の店の客だったとは。
予想外の出来事だけど,何とか危機は脱した。
少し離れた位置で,ぼんやり主が戻って来るのを待つことにした。


『実は土方さんって身嗜みには気を遣ってはるねんよな。』


自分とは大違いだなんて自嘲して笑ったその目の前に,ぽとりと手拭いが落ちた。


「あ,落としましたよ?」


すかさず拾い上げて落とし主の後を追った。
声に気付いてないのか,自分じゃないと思っているのか。
落とした男は振り向いてもくれない。


「あの!」


より一層声を張り上げると,ようやく振り向いてもらえた。


「これ落としましたよ。」


安堵の笑みで手拭いを差し出せば,男は三津の手首を掴んだ。


「ちょっと…!」


手を引こうとしても難なく引き戻される。


「黙ってついて来てもらおうか。あんたが土方の女だってのは分かってんだ。」


気が付けば,見知らぬ男たち六人ほどに取り囲まれていた。


「は?」


今何とおっしゃいましたか?
三津は自分の耳を疑った。


「あの,人違いです。」


女中にはなったけど土方の女になった覚えはない。


「土方と一緒だったろ。こっちはずっと見てたんだ。」


それはここに来る間だけでしょ。
話しの通じる相手じゃないと分かった三津は,手首を掴む男のすねを思い切り蹴飛ばした。


「いってぇ!」


怯んだ男を突き飛ばし,三津は逃げ出した。


逃げ出したんだけど,早く歩けないんだから早く走れる訳もない。
男たちはすぐ背後まで迫っていた。


「だから人違いですぅ!」
  


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