2018年08月13日

その声に顔をあげると、紹鴎は相変わらず柔らかな微笑

その声に顔をあげると、紹鴎は相変わらず柔らかな微笑みを湛えていた。則正は、その様子に少し安心すると、「いえ、何でもございません。」と返した。「ところで、則正はん。今日は、ええ、ええ茶器を持ってきてくれはったとうかごうたのですが、そちらですかな?」紹鴎が木箱を見ている。則正は、脇に置いてあった木箱を、恭しく目の前に出すと、「さようです。どうぞお確かめ下さい。」と言って、木箱から器を取り出した。「ほぅ。設楽焼ですかいな。これまた見事な一品ですなぁ。触ってみてもよろしゅうございますやろか?」「もちろんでございます。」則正が言うと、紹鴎は器を手にとり、ほぅ、なかなか、などと言っている。その様子を見た則正は、「日の本で、このような見事な焼き物は、設楽と備前くらいじゃろうと主人が申しておりました。」紹鴎が、その言葉に満面の笑みを浮かべだした。茶の湯で使う器を高価な唐物(中国)の茶器から、国内の茶器でも行えるようにして、貴族の贅沢を民間の贅沢にしているのが、紹鴎である。その際、紹鴎は設楽と備前の茶器を広めている。「ご主人とは、何やら気が合いそうですなぁ。」再び、ころころと笑い始めた。  


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2018年08月13日

その調子で、翌日も、その翌日も、隆行は人を避けるよ

その調子で、翌日も、その翌日も、隆行は人を避けるように、夜歩いては、昼間に寝て、竜ヶ岳の麓の辺りまで来た。歩いて来た道は、次第に獣道のようになってきて、両脇は鬱蒼と木々が茂っている。(腹が減腹が減った。。。)もう二日何も食べていない。肩を落として、山に向かって歩いていた。隆行程の力があれば、強奪略奪は軽々出来るであろうが、それはこの男の信念に反する事であった。仲間がやるのは咎めないが、自分はやらない。それが自らのあり方だと思っていた。しかし、あまりの空腹に、その信念が揺らぐ頃、隆行に向かって声が発せられた。「こんな夜中に一人でどこ行くんだ?」風体の悪い男が四人、茂みの中から隆行に近づいてきた。(やっと来た!!!)隆行は心中で小躍りした。この辺りは、山が多く、木々も茂っている。その上、治安があまり良くないので、どこかに山賊や盗賊がいるはずだ、と隆行は予想していたのである。「兄さん。有り金全部置いてけや。それとも、命を置いてくか?」男達は隆行の心中も知らずニヤニヤとしている。  


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