2024年04月12日

「そ……そうかっ!よくやった!それでお嬢ちゃんは?」

「そ……そうかっ!よくやった!それでお嬢ちゃんは?」


「あっちの部屋に。」


それ聞いた坂本はすぐに二人の居る部屋の障子を開いた。


「西郷さん,すまんがちと桂さんと話をさせてくれ。」


「構わん。」


坂本は西郷の返答を聞くと桂の腕を引っ張り部屋を飛び出した。


「坂本さんどこへ?」


こんなにぐいぐいと腕を引っ張り何処へ連れて行こうと言うのだ。坂本はいいからいいからと桂を連れて女中が案内するその後ろを歩いた。


「こちらです。」


女中はそう言うとぺこりと頭を下げてその場を去った。
坂本は咳払いをしてから中岡と顔を見合わせて頷きあった。https://blog.udn.com/a440edbd/180461947 https://classic-blog.udn.com/a440edbd/180461980 https://mathew.blog.shinobi.jp/%E6%9C%AA%E9%81%B8%E6%8A%9E/%E4%B8%89%E6%B4%A5%E3%81%A8%E6%96%87%E3%81%AF%E3%83%95%E3%82%B5%E3%81%AB%E5%90%91%E3%81%8B%E3%81%A3%E3%81%A6%E3%81%9D%E3%82%93%E3%81%AA%E5%AD%90


「ここで頭冷やしてくれ。」


そう言って坂本は障子を開いた。
一体何を言ってるのだと思いながら桂は開かれた障子のその先を見て絶句した。


客間と思われるその部屋で遠慮がち正座をし,少し緊張したような,困惑したような表情でこちらを見ているその姿。


「ご無沙汰しております。」


気まずそうに伏し目がちで先に口を開いた。


「三……津……?どうして……。」


呆然と立ち尽くす桂の背中を坂本がそっと押して中へ踏み込ませた。
三津は答えることなく今にも泣きそうな顔で桂を見上げていた。


「来てくれてんだね……私の想い受け取ってくれたんだね?」


桂が一歩,二歩と三津の方へ踏み出した。


「想い?」


三津は何の事だときょとんとした目を向けて小首を傾げた。
その表情を見た桂は悲しげに顔を歪ませて何でもないと首を横に振った。


「小五郎さん,こちらに。」


三津は正面に座るように促した。桂は吸い寄せられるように三津の前に腰を下ろした。


「小五郎さん,話が進んでいないとはどういう事でしょうか?確かに……面と向かうには辛い相手かもしれません。でも吉田さんや兄上の想いはどうなるのですか?
今の今まで犠牲を払ってきたみんなはどうなるのですか?」


やはり桂に面と向かって物申せるのは三津だなと坂本はその場に立ったまんま二人を見ていた。
桂がだんまりだから三津は顔を顰めて話を続けた。


「小五郎さん……。私は貴方が創る新しい世を生きたいです。吉田さんと兄上の分も……。
その先を創れるのも,長州を守れるのも小五郎さんなんです。
変な意地張らないで!私みたいにならないで……。」


三津は桂ににじり寄って堅く握られた拳に手を重ねた。


「三津……。」


「私みたいにならないで……。」


三津はぽろぽろ涙を溢してお願いお願いと繰り返した。
桂は恐る恐るその体を抱き締めた。自分から抱きしめておきながら困惑した。
知らない着物を着て,以前とは違う香りのする三津に戸惑った。


「小五郎さん,一切何の連絡も寄越さなかった上にいきなり現れてこんな事言うのは無礼だと分かっています……。でも長州を守れるのは小五郎さんだけなんです。みんなの想いを無駄にしないで……。」


三津は真っ直ぐな目で桂を見上げて懇願した。
一時の意地なんて馬鹿げたものだ。ずっと後悔するぐらいなら何も考えず素直な方がよっぽどいい。


桂はぐっと唇を噛み締めた。何も分からない奴に政に口出しされるのは腹立たしい。だけど今はそれよりも虚しさが勝った。自分は一体何と張り合っているのだろう。


『玄瑞や稔麿の想いは忘れてなんかいないよ。』


むしろ二人を含む多くの同志を失った要因でもある相手だからこそ手を組むのに抵抗があるんだ。
でもそれを拒めば更に多くの犠牲を生む。


『姿を消して一切音沙汰の無かった三津が危険な京にまで足を運び私と向き合ってくれた……。ならば私も己の使命と向き合わねば。』


最愛の人が好きだと言ってくれた自分の生まれた郷を守らねば。最愛の人が大切にするものを守らねば。


「三津,わざわざありがとう。必ず長州を……託された想いを繋ぐから,見てて欲しい。この先を。」
  


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2024年04月12日

一之助の申し出に三津は口を半開きでぽかんとした。

一之助の申し出に三津は口を半開きでぽかんとした。


「俺とじゃ嫌か。」


「いえ!一之助さんに誘ってもらえると思わんくて……。あっ文さんに年末年始どうしはるか聞いときます!」


今から楽しみとにこにこする三津を前に,誘った自分への驚きが隠せなかった。誘っといて何だが二人きりで行くのだろうかと疑問に思った。


その日仕事を終えて家に戻った三津は,夕餉を食べながら文に初詣の話をした。


「へぇ。一之助さんと初詣。いいやん二人で行っておいで。」


「えっ二人なんですか?」 https://johnsmith786.mystrikingly.com/blog/cd3f9a7c860 https://johnsmith786.livedoor.blog/archives/2531199.html https://community.joomla.org/events/my-events/er-renno-shiyake-motchokantoiken.html


「二人やないの?一之助さんそのつもりで誘ってきたんやないそ?うちは母と妹達と行くけ二人で行っておいでよ。」


これは入江に報告案件だと口角を上げた。心の中でいい話題提供ありがとうと一之助に感謝した。





萩から戻った入江は口角が上がりっぱなしだった。一日半とは言え,久方ぶりに三津と過ごした時間を思い出せば嫌でもにやける。
訓練の時以外はずっとにやにやしている。夕餉を食べる今も嬉しそうな顔をしている。


「鼻歌まで歌って。」


隣りで赤禰がその幸せを分けてくれとぼやいた。ついて行きたかったのにそれを却下した高杉を横目で睨んだ。


「なぁ九一抱いたんか?」


高杉の単刀直入な質問にご機嫌だった入江は心底嫌そうな顔を向けた。


「抱いとらん。」


「は!?何でや。嘘やろ?何しに行ったん?」


高杉と山縣は何の為の暇だと食ってかかった。こっちはその土産話を楽しみに待ってたんとぞと怒り始めた。


「会いに行っただけや。」


「嘘やろ。そんなに機嫌いい癖に何もない訳ないやろ。何や三津さん良すぎて言いたくないんか?俺らに教えたくないそう言う事か!?」


「でかい声でそんなん言うな。それでも私は有意義な時間を過ごしたそ。」


どんなに不機嫌になってもそれを思い出せば顔はにやける。


『明日には文を出さんと。』


「随分とご機嫌だな。」


落ち着き払った低い声に入江は箸を止めて顔を上げた。


「そりゃ生きてりゃ機嫌のいい日ぐらいありますよ。木戸さん。いつお戻りに?」


広間は一瞬にして静まり返った。その様子に随分と嫌われたもんだねと笑って入江の正面に腰を下ろした。


「何か報告か?」


さっきの会話を聞かれてたのかと冷や冷やしながら高杉は平静を装って口を挟んだ。


「あぁ。西郷との会合の日取りが決まった。年明けに京の小松帯刀邸だ。」


気が重いと深い溜息をついた。


「三津が居てくれたら……。」


そればかりがずっと頭の中を巡っている。「木戸さん,三津はもう一月以上音沙汰無しです。現実を受け入れたらどうですか?気晴らしに女でも買ったらいい。」


桂は淡々と言い放つ入江を睨みつけた。


「三津以外に触れる気は一切ない。同じ過ちを繰り返すつもりはない。」


「もう遅いですけどね。三津は居ないんですから。」


入江はご馳走様と手を合わせて広間を出た。これ以上桂と話すことはない。
桂は両手で顔を覆って大きな溜息をついた。


「三津は文ちゃんのところに居るんだね?無事なんだね?それだけ分かればもういい……。」


だから安心させてくれと高杉に懇願した。絞り出すような声で頼むと言われて高杉と赤禰は顔を見合わせた。


「木戸さん,それは自分で確かめんといけん。今はそんな場合やないのは分かっちょるけど……。
俺から言えるのは……便りがないのは元気な証拠……とでも思っといたらいいと思う。」


高杉からの言葉に桂はそうかとうっすら笑みを浮かべた。
  


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2024年04月12日

にっこりと微笑む顔が眩しかった。

にっこりと微笑む顔が眩しかった。みんなの目があったが気持ちを抑えきれなかった入江は最後に三津をきつく抱きしめた。


「必ず戻って来る。」


そう囁やけば三津は腕を背中に回して力を込めてそれに答えた。
色々と口を出したかった文とすみだがそこはぐっと堪えて二人の惜別を見届けた。


「すみ,母上に体を大事にと。」


「伝えとく。あと早よ孫の顔見せちゃりよ。」


「その言葉はお前にそのまま返す。じゃあまた。」 https://blog.udn.com/29339bfd/180455419 https://classic-blog.udn.com/29339bfd/180455428 https://mathewanderson.blog-mmo.com/Entry/14/


ふんと鼻で笑って入江は馬を歩かせた。


「すみ,あの話考えとってや。私と梅子に出来る罪滅ぼしはそれぐらいやけぇ。」


伊藤はすみにそう告げて入江の後を追いかけた。
二人の背中を見送って,文はすみの方を向いた。


「あの話って何?」


「あいつと梅子さんが私に婿紹介してくれるって言っとるそ。あっ梅子さんは今のあいつの奥さんね。前話した孕んだ芸妓。」


すみはきょとんとしてる三津に説明した。離縁のきっかけになった相手と元夫から次の相手を紹介されるとはどんな状況だと三津は唖然とした。
でも考えれば桂にも幾松が居るのと似たような状況かと思えば何となく納得できた。


「まぁ会って話すぐらいはしたらいいんやない?
で……三津さんは入江さんと何があったん?」


急に話を振られて三津はギクッと肩を跳ねさせた。 「私がおることで三津を縛り付けて良い相手が現れたのに先に進めんってなるのが嫌なんよ。三津の先の幸せを奪うなんてしたくない。
でももし,私を忘れたくないって強く思ってくれるならこれからも毎日私の事を思い出して欲しい。
私も三津を想わない日は一日としてないと誓う。」


三津は何度も首を縦に振った。


「私も九一さんを忘れる日なんて絶対ないです。いつもどこかで想います。必ず。」


三津の真剣な眼差しに入江はふっと笑みを浮かべた。
きっと三津ならそう言うと思っていた。性格の悪さが出たなと自分でも思った。
縛り付けたくないと言いながら,これで自分だけを想うように仕向けた。


「次会う時までそのままの気持ちで私を想ってくれるなら今度こそ一緒になろう。」


すると三津は迷わず頷いた。もう先は約束されたようなもんだ。
三津を腕に抱いて明日が来るのが名残惜しいと思いながら眠りについた。


翌日,朝餉を食べ終えた後で三津は入江に持たせるおにぎりを作っていた。
伊藤の分もと言ったがあいつのは要らんと一蹴された。
二人で台所で最後の時間を楽しんでいるところに文とすみがやって来た。


「ちゃんと思い出作った?」


「作った作った。」


入江は余計なお世話だと文の問いに適当な返事をした。


「また何もせんかったん?」


文が半ば呆れ気味に入江と三津の顔を交互に見ると二人は無言で顔を見合わせた。
それから三津が耳まで赤く染めて目を伏せた。


「えっ何。何かはしたそ?」


「待って文ちゃん。愚兄の生々しい話は聞きたくない。気持ち悪い。」


興味津々に聞き出そうとする文をすみが止めた。


「そうよな。ごめんごめん。後で三津さんに聞くけぇ。」


文がにやりと視線を寄越すから三津はビクッと肩を揺らして今度は顔ごと逸した。
相変わらず表情が素直だとすみが微笑ましく思っていたがある事を思い出してその顔を歪めた。


「そうや,クソ男が迎えに来とるそ。」


すみが忌々しいと舌打ちをしながら胸の前で腕組みをした。


「女子がクソとか言うなや。どうせ俊輔にも暴言吐いたんやろ。」


「別に?萩の空気が汚れるからさっさと消えろって言っただけっちゃ。」


「はいはい,さっさと連れて帰るわ。三津,もう少し別れを惜しみたかったけどこう言われたら帰るしかないけぇもう行くわな。」


入江がすみに当てつけがましくそう告げると三津は眉を八の字にして物凄く寂しそうな顔で入江を見つめた。
  


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2024年03月31日

『あのご馳走様は最後のコレか。』

『あのご馳走様は最後のコレか。』


入江は昨夜三津に食らった仕打ちは体が覚えていたコレだと確信した。最後の仕草が全く同じだった。


「皆の前でせんでもいいやないですかぁ!馬鹿ぁ!!」


三津はわんわん泣きながら赤禰の傍に駆け寄って腕に縋りついて泣いた。


「武人さん何で長州の人は変態ばっかなんですかぁ!!」


「そりゃあ松陰先生の教え子ばっかやけんなぁ。」 https://blog.udn.com/79ce0388/180455444 https://classic-blog.udn.com/79ce0388/180455448 https://freelancer.anime-voice.com/Entry/73/


「わやな先生や納得ぅ〜………。」


赤禰はよしよしと三津の背中を撫でてやった。それを見た桂はお猪口を握り潰しそうな勢いで力を込めた。


「九一,赤禰君は何故名前で呼ばれてる?」


「武人さんは初日に三津さんの信頼を勝ち取ったので。」


そこは私も気に入らないんですよと笑ってない目で笑った。


「なるほど。共通の敵はアレか。」


「そうですね。敵っちゃ敵ですね。でも私の味方です。」


「ならば私には害があるのか。早急に処分を。」


「さらっと物騒な事言ったな,おい。」


赤禰は身の危険を感じたが三津が縋りついてて逃げられない。「武人さんの処分はアカン!絶対アカン!唯一まともな人やのにぃ〜……。」


三津はそんな事許しませんと赤禰を守るように抱きついた。


「三津さんもう酔っちょるんか。俺も別にまともやないぞ?ただ周りに常軌を逸脱した奴らが多過ぎて普通に見えるだけや。存在が霞んで見えるそっちゃ。」


「そんな事ありません!私この中やったら武人さん一番好きやもん!」


それには桂がゆらりと立ち上がった。聞き捨てならぬと入江も殺気立つ。


「一番好き?三津,それはどう言う事だ?」


「桂さん,三津さん酔ってますから真に受けないで下さい。これ以上嫌われる気ですか?」


伊藤がどうにか桂を宥めようと間に割って入った。
嫌われると言う単語は今桂に一番有効的な言葉だ。


「これ以上?私は今すでに嫌われてるのか?」


『しまった……より面倒臭くなった……。』


伊藤は言葉選びに失敗した。この状況を助けてくれる親切な奴はと周りを見渡すが見事に目を逸らされた。


「三津さん,桂さんが寂しがっちょるけぇ隣り行っちゃり?久しぶりに会えたのに話さんと損や。」


赤禰が抱きつく三津の頭を撫でながら優しく諭す。これぞ信頼を勝ち取った男の対応力。


「何話していいか分からへんもん……。ホンマはいっぱい喋りたいのに会っていきなり怒られたし,小五郎さん私の事嫌いなんかも知らん……。」


三津は赤禰に抱きついたままめそめそ泣いた。今日は泣き上戸かと赤禰は笑って今度は背中をぽんぽん叩いた。


「そうじゃ三津さんは甘えたで優しさに飢えちょるんやった。俺が存分に甘えさせちゃる。」


高杉が思い出したと手を打って酒を片手に三津の傍に近付こうとしたのを伊藤に羽交締めにされた。


「桂さん,貴方の役目でしょ?」


伊藤に睨まれながらも桂はゆっくり三津の傍に寄って腰を下ろした。


「三津,嫌いになんかなってない。私の方が君に嫌われたんじゃないかと焦ったんだ。すまない。お願いだから他の男じゃなくて私の所に来てくれないか?」


桂が優しく語りかけようとも三津は赤禰に抱きついたまま顔すら見せなかった。微動だにしない。


「あの桂さんが口説いちょるのに振り向かん女子がおるとはな。」


「そりゃ大事にされちょらんって分かったらいくら相手が桂さんでも愛想尽きるやろ。三津さん引く手数多で選びたい放題やけぇ。」


山縣と高杉がコソコソと話すが桂の耳には届いており容赦なくその心を抉り取った。「三津さん,文句でも何でもいいけぇ言うてみ?」


赤禰に促されて三津がちらっと桂を見た。


「文句はあるみたいですね。」


入江がくくっと喉を鳴らして笑い,桂は横目で入江を睨んだ。それからさらに三津の傍ににじり寄った。


「文句もしかと受け止める。だからこっちにおいで。」
  


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2024年03月31日

「そうなん?じゃあ訓練終わりにそれくらいでへば

「そうなん?じゃあ訓練終わりにそれくらいでへばるなって尻叩いてくれる?」


「手で触りたくないから蹴るのでもいい?」


「寧ろそっちのがご褒美。」


入江がそう言うとちょっとの沈黙を置いて三津が吹き出す。このやり取りも慣れたもんだ。二人の楽しげな笑い声が廊下にも響いた。


『本当に楽しそうに……。』 https://blog.udn.com/79ce0388/180455434 https://freelancer.anime-voice.com/Entry/72/ https://ypxo2dzizobm.blog.fc2.com/


三津の元へ行こうとしていた桂は部屋から洩れる二人の声に立ち止まった。そして焦りを感じた。以前はあった三津は自分の元から居なくならないと言う自信は脆く崩れ去った。
ここで嫉妬丸出しで飛び込んで行けば間違いなく三津は幻滅すると思う。


『何か手を打たねば。』


桂はぐっと堪えてその場を離れた。





その晩の酒の席では三津は桂の隣りに居た。桂は目の前に入江を座らせた。
禁門の変の前日から当日まで何が起きたか詳細が知りたかった。


入江は三津に何度も久坂の最期の話を聞かせるのは気が引けたが三津はその入江の気持ちを察したのか穏やかに笑っていた。私は平気と言うような表情だった。


「そうか……玄瑞はそんな遺言を。」


「はい,泣き虫で甘えたで頑固な妹を託されました。それで乃美さんはお元気ですか?」


「あぁ元気だ。三津と九一が来てるのを一緒に聞いてね。こっちに出向くと言うから連れてくから待ってろと留めておいたよ。それと……三津に。」


桂は思い出したと懐から懐紙を取り出した。


「金平糖だ。こっちには口に合う落雁がないらしいよ。」


桂はくすくす笑って桃色や白色の金平糖を三津に差し出した。


「乃美さん甘党ですねぇ。有難く。」


三津は乃美の顔を思い浮かべながら両手でそれを受け取った。
桂はそのうちのひと粒を手に取り三津の口元に持っていった。三津は条件反射で口を開いた。


「んー美味しい。」


三津はとろける笑顔で金平糖を味わった。相変わらず餌付けされる癖は抜けていないのが何とも言えなくて入江はその姿を目を細めて眺めた。
今日も酒が進んでしまいそうだ。「そうだ桂さんに一つ聞きたい事が。」


入江が桂にどうぞと徳利を傾け桂はそれを受けた。


「何だ?」


桂は酒を口に流し込んで首を傾けた。空になったお猪口に今度は三津が酒を注ぐ。気分良くそれを口に含んだ所で入江は問いかけた。


「酒で濡れた唇を舐める遊びは桂さんがいつもするんですか?」


「ごっほ!……は?」


突拍子もない事を聞かれ少し噎せた。そして隣りの三津は桂に背を向けるぐらい上体を捻って明後日の方向を向いている。
それを見た桂は瞬時に推測し三津の頭を鷲掴みにして自分と向き合わせた。


「私はそんな遊び教えた覚えはないなぁ。しかもそれを九一にしたの?」


鼻先が触れるぐらいの距離で怒りに満ちた笑顔に睨まれた三津はぷるぷる震えた。


「あれ?違うんですか?桂さんが仕込んだのを酔った勢いでしてきたのかと思ったのに。」


態とらしくきょとんとした表情をする入江を三津は横目で睨んだ。


「そうだねぇ。私がした事と言えば……。」


桂は三津から徳利を奪い取ると中身をお猪口に注いだ。


「呑みなさい。」


それを無理矢理三津の口に流し込んでゴクンと喉を通るのを待った。
呑み込んだのを確認して三津の顔を挟み込んで固定して三津の口内の酒の味を味わった。最後に唇を舐めとるのを忘れずに。


「私がしたのは三津を盃に酒の味を楽しむ事だね。ご馳走様。」


桂は意地悪い笑みで親指の腹で唇を拭った。
  


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2024年03月11日

吉田がろくな事を考えてないのは分かって

吉田がろくな事を考えてないのは分かっていたがこれは到底許されない。桂は額に青筋を浮かべて三津見下ろした。
睨まれた三津は今にも泣きそうな顔で小刻みに震えている。違う違うと口をパクパク動かしながらふるふる首を横に振る。


「いつまで稔麿に乗っている。」


低く冷たい声に一層体をビクッと跳ねさせ慌てて吉田から下りて更に部屋の奥へ下がって正座した。


「どこぞの鬼のような顔しないでくださいよ。俺は日々の疲れを癒やしてもらってただけじゃないですか。」


吉田は寝そべったままで挑発するように桂を見上げた。http://janessa.e-monsite.com/blog/--103.html https://www.evernote.com/shard/s514/sh/afb5f38c-2783-0403-ced4-218ac454f9f1/VhmNjLgHnO6ByV3SgHlI3ESsNx4IVbpnXb79n0S3CbJL3o32HsJe_DHg3Q https://classic-blog.udn.com/a440edbd/180359447


「桂さん駄目ですよ挑発に乗っちゃ。稔麿はどうせ我々が聞き耳立てるの想定して三津さんに按摩を頼んでわざとらしく声を出してたんですから。」


ここは脅えきった可愛い妹を庇ってやらねばなるまいと久坂がずいっと前に出た。


「そうですよこれは完全に稔麿にしてやられてますよ。だってめっちゃ硬いとかここまでよく我慢したとかもうアレ連想させる事ばっか……。」


「それ言ったの私やし入江さんの発想が卑猥っ!」


三津は顔を真っ赤にして側にあった座布団を入江めがけて投げつけた。
まさかそんな風に聞こえてたとは。三津は畳に手をついて項垂れた。


「いいなぁ稔麿気持ち良かったんだ。」


入江は投げつけられた座布団を抱えていいなぁいいなぁと連呼した。
三津は聞こえないくらいの小さな唸り声を上げた。
さっきは好意に気付かないふりをすればいいと言っていた奴が何を言う。


「稔麿もういいだろ。三津も部屋に戻りなさい。」


小言を言いたいのは山々だが吉田の挑発に乗るのは避けたい。それに部屋に三津を連れ込んで説教しようにも夜に部屋で二人きりになるのは他の藩士に示しがつかない。藩邸じゃなければ説教長時間の刑だったのに。


「三津ありがとうだいぶ解れたよ。」


吉田は起き上がって胡座をかいて肩をぐるぐる回して満足げに目を細めた。それには三津の表情も少しだけ解れた。


「お役に立てたなら良かったです。小五郎さんもまたしますから。」


「いいなぁ桂さんも三津さんで気持ち良くなれるのかぁ。」


「入江さんの言い方は悪意の塊ですね。」


にまにま笑う入江を相手にしてはならないと分かっているが,聞き捨てならぬと三津は口を尖らせた。本当に厄介な人だ。


それからと言うもの三津はすっかり入江の戦術にはまってしまった。気付かないふりをしようとすればするほど変に入江を意識する。
これはもう顔を合わさないようにするしかないと藩邸内を逃げ回るも悉く見つかる。


「あれ,また会いましたね。」
「おや,奇遇ですね。」


白々しい言葉と腹黒い笑みと共に現れては頬を撫でたり手に触れたりして居なくなる。その度その手を叩き落として睨みつけるが怯むどころか寧ろ嬉しそうに悦の表情をされてしまう。


『こうなったら……。』


三津にも考えがある。


「アヤメさんこれ手伝ってもらえません?」
「アヤメさんお菓子一緒に食べましょ!」


入江が最も避けたいのはアヤメとの関係が進展すること。ならばそのアヤメと共に過ごして自ずと入江もアヤメとの時間が増えるようにしてやろうじゃないか。


そしておとずれたお花見の日。その日も三津はアヤメの隣を陣取った。来れるもんなら来るがいい。私と同じ苦しみを味わってもらおうじゃないか。


「……狡いなぁ。」


「何がです?」


アヤメが少し三津から離れた隙を見て入江はすかさず隣りにやって来た。三津はつんと顔を逸した。


「分かりました,これからは自重しますから。ちゃんと相談相手の立場を弁えます。」


「……分かってくれたならいいんです。」


「二人で何の話?最近やたら九一の距離が近い気がするんだけど?」


突然間に入って来た吉田に三津は少し狼狽えた。入江と二人で居る所に来られるのは心臓に悪い。嫌でも目が泳ぐ。


「桂さんといい稔麿といい……。三津さんは話し相手すら選べないんだな。いいよ,大した話なんてしてないから。たまにはアヤメさんの相手してあげようかねぇ。」


感情の読めない笑顔を作った入江は潔く吉田に自分の位置を明け渡した。


「油断も隙もない。」


吉田は不機嫌にふんと鼻を鳴らして入江の背中を睨んだ。三津はどうするんだろうと入江の背中を目で追った。


入江はアヤメの横にさり気なく近寄って,髪についた花びらを取ってそれを手のひらに乗せてやっている。アヤメが挙動不審になったのは言うまでもない。


久坂とサヤは二人から徐々に距離を取ってそれをにやにや眺めていた。


『アヤメさん可愛いなぁ。』


もじもじしてあわあわして大忙しのアヤメを見ながら三津は頬を緩めた。
  


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2024年03月11日

「戻りましょっか。

「戻りましょっか。連れて来てくれてありがとうございます。」


三津はゆっくり腰を上げてぺこりと頭を下げた。


「俺はついて来ただけだよ。三津が迷い無くここに来れたからね。」


吉田はきゅっと口角を上げた。
帰ったら桂は三津を連れ出した事にどんな態度を見せるだろうか。


「急に出掛けたから小五郎さん怒ってますかね。」


不安そうに問われた吉田は首を横に振る。https://classic-blog.udn.com/3bebdbf2/180361485 https://carinaa.blog.shinobi.jp/Entry/3/ https://ypxo2dzizobm.blog.fc2.com/blog-entry-85.html

「もし不機嫌だったとしても,仕方ないじゃない新ちゃんに会いたかったんだからって言ってみな。黙り込むから。」


意地悪く笑みを浮かべ喉を鳴らした。三津は流石にそれはと苦笑した。


「会いたくなったのは事実だし言っても問題ないだろ。たまには自分自身を守れよ。」


『自分自身を守るか。』


三津はそれもそうかと納得した。もし,帰ってからチクチクと小言を言われたら言ってみようと思った。
こっちの気も知らないで言われっぱなしも癪なので,めそめそするくらいなら噛みついてやろうと意気込んだ。


「まぁ怒られたくないなら今日は帰らずどこかで一晩過ごすって手もあるけど。」


「そっちの方が怒られますから。」


「三津と一晩過ごせるなら怒られたって平気だね。」


だから私は平気じゃない。嫌だとぶんぶん首を横に振るが何故か吉田にがっちり肩を抱かれていた。肩を抱かれ身を寄せ合う形になっているのは何故なんだ。


「吉田さん歩きにくいんですけど。」


「そう?その方が好都合だね。俺はまだ三津との時間をゆっくり過ごしたい。」


「私だってゆっくり三津と過ごしたい。勝手な真似はやめろ稔麿。」


割って入ってきた声の方へ二人はゆっくり顔を向けると,肩で息をしながらも涼しい顔をした桂が凛々しい目でこちらを睨んでいた。


「流石にここは知ってましたか。」


それでもここへ来るのは想定外だったと吉田は目を丸くした。


「甘く見ないでもらいたいね。」


以前女将から聞いたと言う伊藤から聞いて知っていたと言うのは黙っておこう。その方が格好がつく。
片口を上げて笑い,三津の事なら何でも知ってるような雰囲気を醸し出した。


「三津,今日は帰ろう。また桜が咲いたら一緒に来よう。」


「そうですね。そうしましょう。」


藩邸を飛び出す原因となったのは桂だがその本人がこんなにも慌てた感じで迎えに来てくれたのだ。嬉しくてにやける。吉田はそれが面白くない。またいい所で邪魔された。


「本当に手のかかる姫だよね。」


その腹いせに三津の額を指で思いきり弾いた。


「ったぁ!」


三津はこの仕打ちにギロリと上目で睨んだがそれ以上の鋭い目で睨み返されて硬直した。


「いきなり新ちゃんとこ行くって喚き散らして俺に連れてけって駄々こねたのは何処の誰だ?
それで迎えが来たからご機嫌で帰る?これは相応の対価払ってもらわないと割に合わないんだけど?ん?」


『なるほど。何があったか分からんがそう言う事か。』


三津の姿が見えないから探し回って久坂から“稔麿と出掛けました”と言われ,吉田が勝手に連れ出したと思い込んでいた。


「何故私に声をかけなかったんだ。」


まさか自分のせいでこうなってると思わない桂は純粋に疑問を三津にぶつけた。


「えっとそれは……。」


部屋でサヤと二人で話してたのを盗み聞きした挙句,勝手に嫉妬してこうなったとは恥ずかしくて言えない。
いい言い訳も思いつかず三津はちらりと視線を吉田に向けた。


「んっとに手のかかる……。昼寝して夢枕に新ちゃんが立ったそうです。動揺して部屋を飛び出したとこに俺がたまたま通りかかったからこうなったんです。」


吉田はすらすらと嘘を並べた。これで貸しは倍になったぞと横目で三津を睨んだ。三津はか細い声ですみませんと呟いた。


「お礼はまた何かの形で返させていただきます……。」


あえて“形”と言って何かお詫びの品で済まそうと思ったが吉田はそれで許しちゃくれない。


「何言ってんの?気持ちで返してよ。ねぇ桂さん今晩だけ三津借りていい?変なことしないから。」


「却下。」


「じゃあその“形”とやらを自分で選ぶから一日三津を連れ出していい?」
  


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2024年03月11日

「彼を想って泣く事に私は黒い感情なんか

「彼を想って泣く事に私は黒い感情なんか持ち出さない。」


桂からすれば新平への申し訳無さが勝る。
まだ吹っ切れていない三津を無理矢理諭して自分の方へ向けてしまったようなもんだ。
些か強引すぎたと今更思う。


今だってこの生活を強要してる。気持ちが通じ合ったとは言え,ここへ連れてくる計画もほぼ事後報告で押し切った。
もし気持ちを確認したら,来てくれない気がして怖かった。


『私は狡い。』


三津の為と言いながら結局は自分の為だ。自分のわがままを通すだけ。
三津がこちらに向けてくれる想いも本物だと分かっているが,こちらが三津に向けるモノとは熱量が違うと思う。
全てを手に入れてるのにまだ片想いに思えてならない。https://classic-blog.udn.com/29339bfd/180357229 https://classic-blog.udn.com/29339bfd/180357326 https://mathewanderson.blog-mmo.com/Entry/12/


その疑りが嫉妬を生む。その嫉妬が三津を傷めつけるし見苦しい。


『そんな私には君を包むしか出来ないんだよ。』


新平を想う時の三津の前では無力だ。いつもの自信も消えて失くなる。
弱っている三津以上に弱くて脆い。


情けない。だがそんな心情を抱けるのもまた三津にだけ。
そんな事を考えていたら三津が小さく嗚咽しだした。


「まだ我慢しようとするのか?諦めて泣きなさい。三津,いいんだ。彼を好きでもいいんだ。」


すると三津が声を上げて泣き出した。どこかほっとして背中を撫でてやっていると,


「もぉ!小五郎さんの馬鹿ぁぁぁ!!!」


「何故だ。」


いきなり罵られた。
何だって言うんだ。また余計な真似をしてしまったのか。


「泣く時は一人で勝手に泣きます!小五郎さんといる時は他の人の事考えたくないっ!小五郎さんだけを想いたいのにぃっ!」


そう言って背中に手を回して抱き着いてくる。それは嬉しいが,良かれと思ってしたことがお節介だったのにはへこんだ。


三津は気持ちを区別しようとしてくれてるが,全くもって実行できていない。


考えと気持ちがばらばら。三津の顔は嘘をつかないから表情が本音なのは分かるが,本人はそれを認めない。何とも厄介だ。どう見てもここ最近はうわの空で彼の事しか頭にないと言った様子なのに。
まぁ本人も普段通りのつもりでいるのも分かっていたが,少なからずどこかおかしいのは自覚してくれてると思っていた。


自分がおかしい事に気付いてないようだ。
それなら“そうなんだね”と譲歩するしかない。
こっちも意固地になって“いやおかしい!”と指摘したところで平行線だ。


「そうか。私と居る時は私の事だけ想いたいのか。じゃあそうしてくれ。」


そう言った責任は取ってくれよと耳元で囁やけば三津の泣き声はぴたりと止んだ。


「責任ってなんですか。」


抱きしめているから表情は窺えないが間違いなく目元を引き攣らせて嫌な顔をしてるに違いない。
朝から甘い雰囲気にされるのはお気に召さないらしい。最近分かった。


でも嫌よ嫌よも……と言うじゃないか。そのうち朝からそうなるのもクセになってくれないかと密かに期待する。


「無理に泣かそうとした事は謝るよ。でも泣いた方がスッキリするんじゃないかと思っただけで悪気があった訳じゃない。」


「いえ……。上手くいかないもんですね。私はもう吹っ切れて前を向いてたつもりなんですけど。
小五郎さんと出逢って話を聞いてもらって立ち直れたはずなんですけど周りはそう思わないんですね。」


『だから余計に今回は拗れてしまうのか。私と三津の認識に差があり過ぎるな。』


もう自分は大丈夫と頭で思っても心は傷ついたまんまだった。この一年で少しはマシになっても癒えた訳ではなかった。三津はそこに気付いてない。


「努力するよ。」


「何をです?」


ほろりと溢れた言葉に三津は顔を上げて首を傾げた。


「三津を癒やす努力さ。」


それを聞くなり三津はふっと笑った。


「そんな事しなくても大丈夫です。癒やされてます。だからいつも通りでいてください。」


桂の胸に頬をすり寄せていたから桂がにやりとしたのに気付かなかった。


「いつも通りでいいんだね?」


「はい,いつも通……。」


言いかけてハッとして桂を見上げるとそこには悪どい笑みが浮かんでいる。


「じゃあ受け入れて?」


無駄な抵抗なのは分かっているが朝の運動は一日の仕事に影響する。
三津は何故泣いていたかも忘れて逃げ出す方法を必死に考えた。
  


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2024年03月03日

着物から吉田の匂いがしてその安心

着物から吉田の匂いがしてその安心感からまた涙が溢れた。
用意されていたそれを着て着流し姿で風呂場を出れば吉田が待っていてくれた。


「おいで。」


差し伸べられた手を握ると吉田の腕の中に引き込まれた。


「こんなに震えて……。今日はずっと傍に居るから。」


三津の足をすくい上げて抱きかかえ,自分の部屋に連れて行った。
三津は吉田の首に腕を巻きつけ必死にしがみついた。







『もっとちゃんと見といてやれば良かった……。気を配ってやれば良かった……。
彼奴がまだこの辺りに居るのならこの私が斬り殺してくれる!』


乃美は自責の念に駆られながら急いで旅籠に戻った。


「桂っ!早急に藩邸に戻れ!
宮部,悪いが今日はお開きだ。急用だ。」 https://classic-blog.udn.com/79ce0388/180359408 https://classic-blog.udn.com/79ce0388/180361454 https://freelancer.anime-voice.com/Entry/71/


乃美の殺気に只事ではないと察知する。


「宮部さん申し訳ない失礼します。」


「構わんよっぽどの事やろ?早よ行け。」


桂と乃美は深く頭を下げて部屋を後にして階段を駆け下りる。


「三津に何か……。」


「土方に……犯された。」


それを聞いた瞬間弾かれたように走り出した。


『犯された?そんな事あってたまるか。そんな都合良く土方は近くに居たのか?


……あぁ,密偵か。アイツの密偵が嗅ぎ付けたのか……。


分かっていたのに……。近くまで手が伸びて来てるのを知っていたのに……。


どうして一人にしてしまった……。三津……。』


一緒に帰ってくれますかと言われた時,席を外して送り届ければ良かった。


困らせてごめんなさいと笑った三津の顔が頭を過る。


「三津はっ!?」


全速力で藩邸に戻り廊下に居た久坂と入江を捕まえた。


「稔麿の部屋に……。」


影を落とした久坂の表情に受け入れたくないそれが事実だと思い知る。吉田の部屋へ行こうと踏み出すがそれを二人に止められた。


「今ようやく落ち着いたところです。心配なのは分かりますが今は稔麿に任せて下さい。」


久坂に宥められるが引き下がりたくない。


「顔だけでも見させて欲しい……。」


今すぐしてやれる事なんてない。自分が顔を見たいと言う欲求を満たすだけなのも承知の上。
ただ会わずに朝を待つなんて出来ない。


「いいよ玄瑞。眠りに落ちた。」


吉田の声に桂は静かに障子を開いた。
そこには胡座を掻いた吉田とその上に座り吉田の胸にしがみついている三津。


「……三津は何があったか話したか?」


「土方に汚されたと。
私は汚いから桂さんに合わせる顔がないと繰り返して,ずっと泣いてました。」


「合わせる顔がないのは私の方だ……。一人にしてしまった……。止められなかった……。危ないと分かっていながら……。」


膝から崩れ落ち袴を強く握り締め項垂れるしかなかった。


「泣き言なら止めてください。それなら俺だって今日無理にでもついて行けば良かった。
宮部さんに三津の話などしなきゃ良かった。
でも結果こうなった事は変えられない。
今は……少しでも三津の傷を癒やしてやらないと……。」


濡れた三津の髪を撫でて指に絡ませた。


「すまない稔麿……。今夜は三津を頼む……。」


桂は力なく立ち上がると三津を起こさないように静かに部屋を出た。


「三津,お前は汚くないよ。お前は綺麗だ。身も心も……綺麗だ。」


少しでも三津の心が救われるように。優しく
囁いて背中を撫でた。






桂は久坂と入江と共に乃美の部屋で三津が逃げて来た時の様子を聞いた。


「物陰から泣いて飛び出して来た時の姿を見てゾッとした……。
近くに奴がまだ居たのなら斬り殺してやったのに。
三津さんが外の空気を吸いに行くと言った時ついて出れば良かった……。今そう言ってももう遅いが……。」


「どこか怪我は無いか診たかったんですが触れられるのを極端に恐れ今は稔麿しか触れられない状態です。
明日また様子を見て診させてもらいますけど。」


『稔麿しか触れられないか……。』


自分には触れさせてくれるだろうか。
後を追わず一人にしてしまった事を恨み拒絶されてしまうんじゃないか。
それが怖くて堪らなかった。
  


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2024年03月02日

そう問われた三津はこくこくと頷いた。

そう問われた三津はこくこくと頷いた。桂がそんな事を気にしてたなんて思いもしなくて自然と顔がにやけてきた。


「出逢って間もない頃に戴きました。その簪見た時私の顔が浮かんだって。」


「そんな事さらっと言えるのが桂様なのよねぇ。」


サヤもアヤメも羨ましいと溜息をついたが,


「でも色んな女の人に言って慣れてるのね……って思ってしまう私がおります……。過去に嫉妬したってどうしようもないんですけどね……。」


三津はふふって自虐的に笑った。https://classic-blog.udn.com/79ce0388/180357285 https://freelancer.anime-voice.com/Entry/70/ https://ypxo2dzizobm.blog.fc2.com/blog-entry-81.html


「それ分かります……。私もきっと同じ事思います……。私だけやなくて他の人にも言ってるんでしょ?って。」


「あぁ……アヤメさんやっぱりお話通じると思ってました……。」


二人で手を取り合い共感し合った。
その様子を影からこっそり入江が見ていた。


『……すっかり溶け込んでる。』


逃げ出した小姓を捕まえに来たがここはもう好きにさせようと踵を返した。


「九一ここに居たか。三津は?」


藩邸内に居るとは分かっていても姿が見えないと不安で仕方ない。そんな顔で桂は辺りを見回した。


「女子同士話に花を咲かせてますよ。」


「あぁ。」


それなら良かったと桂は笑みを浮かべて台所へ踏み込んだ。


「あら噂をすれば。」


サヤの含みのある笑みを見て何の噂?と桂は首を傾げたが,三人は顔を見合わせると同じ様に笑って何でも無いと首を横に振った。「私との間に隠し事かい?まぁいいやゆっくり問い詰めてあげるよ。後で私の部屋に来なさい。」


「小五郎さんのお部屋って何処ですか?」


三津の純粋な質問にしばらく間をおいて桂は頬をかいて眉を八の字にして笑った。


「すまない。三津が前からここに居ると錯覚していた。そうだね何処か知らないね。」


三津は両手でにやける口元を押さえた。


「桂様,後でお茶をお持ちしますのでどうぞ三津さんをお部屋に案内して差し上げては?」


サヤは大人の対応が出来るが,アヤメは笑うまいとこちらも両手で口を塞いで堪えるも肩を震わせ目にはうっすら涙が浮かぶ。


『可愛い……桂様が可愛い……。三津さんとずっと一緒におられる感覚になってる桂様が可愛い……。』


と口にしたいのを我慢して両手で塞いで必死に飲み込んだ。


「……アヤメさん我慢せずに笑うといいよ。」


桂は怒らないからと声をかけるとアヤメは両手を外してすみませんと謝った。


「あの笑いたかったんじゃないんです。桂様が……ふふ……三津さんを想っておられる時の桂様が……可愛く見えまして……すみません……。」


不躾で申し訳ありませんと目を伏せたがにやける顔は隠しきれない。


「ごめんなさい私も小五郎さんが時々可愛いと思ってましたごめんなさい。」


三津にまで言われて桂は参ったなと困ったように笑う。


「君達の言う可愛いの定義がまるで分からないがとりあえず三津には聞きたい事があるから部屋まで来てもらおうか。」


三津は桂の自室へと連行された。
初めて入る藩邸の自室に三津は妙に緊張していた。


綺麗に整理された部屋は桂の性格を表してるかのようだった。ただ机の上には本と書状が山積みになっている。


桂の匂いのする部屋だけど二人で暮らす家とはまた違った匂いがして落ち着かない。
きょろきょろ忙しく動き回る目を見て桂は喉を鳴らして笑った。


「どうしたの?落ち着きないね。流石に藩邸内だから取って食べたりはしないよ?」


「当たり前です。」


三津は目を釣り上げて怒ったが桂はちょっとぐらいいいじゃないかと細い手首を掴んで引き寄せた。
頬をすり寄せ軽く唇で触れ,


「さっきの噂って何?言えない事?」


わざと耳元で囁いた。「いや……あの……別に言えない訳では無いですけど。」


女同士の秘密にしておきたいのが本音。


「言わない気?」


そっちがその気ならと桂は三津の耳たぶを甘噛みした。
三津は与えられた刺激が全身を駆け抜けるのを感じて体を反らしたが抱き締めてくる腕の力に身動ぎ出来ない。
  


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